第2話 はじめて、雨男です。

 ハイウィザードのウーアレーゲンマンにボス戦を手伝ってもらって以来、俺達は度々一緒にプレイをする様になった。フレンド登録もして、パーティを組む事も多い。それに伴い雑談する事も増えた。ゲームの話はもちろん、お互いプライベートについて深く入り込まないが、たまに話す何気ない会話がとにかく良く弾む。その中で、お互い関東住まいで、恐らく生活圏もそう遠くないと気付いたが、二人とも敢えてそこには触れなかった。

 一番聞きたかった名前の『ウーアレーゲンマン』の由来も聞いた。すると、彼は『雨男なんだ』と笑った。


『子供の頃からね、それこそ物心つく前から。行事の写真は全部、雨なんだ。僕が楽しみにしている気持ちや嬉しい気持ちが大きければ大きいほど、大雨でね。名前はそこから。適当に調べてて、ドイツ語のレーゲンがカッコいいと思って。でも、それだけだと物足りなく思って。日本語の【時雨】を思い出して、作ったんだ』


 俺は「やっぱり時雨だ!」と思ったのと、雨エピが俺の好きなアイドル・ユミリンの雨女エピと良く似ていて、ますます親近感が湧いた。


 そして肝心なゲームでは、俺の可愛いスナイパー・ユミッチとウーアレーゲンマンは息がピッタリで相性が抜群に良いのだ。

 しかし、ゲーム内だというのにウーアレーゲンマンの雨男力は健在で。ボス戦では本来、ランダムで天候攻撃があるのだが、彼と挑む時はだいたい豪雨だ。その度に、俺は大笑いしながら『またウーアさんの雨男力が!』なんて言っていた。

 まだ一緒にプレイして数ヶ月なのに、大学の友達には言えないけど、知らない人になら言えるような愚痴とか、俺の好きなアイドルの話とか……ウーアレーゲンマンは、どんな話も嫌な態度や言葉攻めもせず聞いてくれて、本当に優しくて。勝手な想像だけど、この器の広さは年上っぽいなぁなんて。同性だし、余計にウーアレーゲンマンに安心感というか、信頼感というか。リアルな友達と同じくらい……いや、もしかしたらそれ以上に大切な存在になっていって……実際に、会いたい。会って話してみたいと、思う様になった。


 そして、俺はついにウーアレーゲンマンに伝えたのだ。


『良かったら今度の週末、オフ会しませんか?』


 返って来た答えは……。


『ちょっと、保留にさせて』


 そりゃそうか。元々俺達は、ソロプレイヤーで。オフ会とか嫌でギルドにも入ってないんだし。


『いや、こっちこそ突然ごめんなさい! 気にしないでください。むしろ、忘れて!笑』


 と送ると、速攻で『なんで?』と返ってきて。


『いや、やっぱリアルで会うってハードル高いっていうか……嫌だと思う人も居るじゃないですか。それに今度の週末なんて急過ぎだし。だから、突然誘って、ごめんなさい』


 そう送ると、数分して返事が来た。


『実は僕、週末に仕事が入っているんだ。どのくらい時間がかかるか分からなくて。あと天候次第では中止予定なんだ。それで保留にさせて欲しいって思っただけだよ』


 仕事。学生なら「バイト」と言うはずだ。やっぱり、年上の人なのかなと思っていると、ポンと再び通知音。


『だから、会いたくないとかじゃないんだ。むしろ、僕もユミッチに会ってみたいし』


 この通知に、俺は何とも言えない気持ちがグッと胸に押し寄せた。嬉しい。やっぱ懐深い、いい人だ!


 そして遂に週末――


 玄関を開ければ、雲一つない晴天。

 これだけ晴れていると、冬であっても少し歩けばじんわりと汗ばむ。

 俺は青空に向かってニヤリと笑うと、ご機嫌で駅へと向かった。


 前日の夜、ウーアレーゲンマンからメッセージが届いたのだ。


『明日の仕事が中止になったんだけど、ユミッチはもう何か予定入れてしまった?』


 その日の夜は、とんでもなく悪天候だった。台風でも無いのに台風並みの大風と横殴りの雨。それは、翌朝まで続くとニュースでやっていた。


『明日は晴れるみたいですよ?』

『だとしても、足元が悪くなっていて危険だからって中止になったんだ』


 危険な仕事なのか……建築とか、そういう関係の仕事なのかな? と思いつつも、自分の思考に頭を振る。


「詮索しない、詮索しない!」


 そして、遂に……。


 待ち合わせ時間より30分も早く到着してしまった俺は、ソワソワと辺りを見回す。

 まだ来る訳ないか。早すぎるもんな。なんて考えていると、ウーアレーゲンマンからメッセージが来た。


『早く着いたから、近くのカフェに行ってるよ。着いたらメッセして』


「え! うそ! どこ?!」


 俺は慌ててメッセージを返信した。


『え、どこですか? 私も着いてます!』

『どんな格好?』


 そこで、今更ながらハッと気が付く。


 そういえば、ウーアレーゲンマンは、俺が男だって知らないんだった……。これ、幻滅されるヤツじゃないかな……。それでも。


『ウーアさん、先に謝っておきたい事があります』

『……なに? どうしたの?』

『実は、私は男です』


 そう送ると、それまですぐに返信のあったウーアレーゲンマンからの返事が止まった。

 止まったといっても、ほんの数秒だったかも。だけど、俺にとってはとんでもなく長く感じたし、スマホを持つ手が震えてきた。


『そうだったんだ。じゃあ、僕も君に隠している事をいうけど、それは会ってからね』


「え……隠してること?」


 俺の戸惑いをよそに、ウーアレーゲンマンが送ってくる。


『それで、服装教えてくれる? 僕がそっちに行く』


 俺は自分の服装を伝えた。そして、数分後。


「ユミッチ?」


 その声に、俺は驚きつつ振り向いた。

 俺の斜め後ろには、俺より20センチメートルほど背の低い、全身黒まみれの人物が立っていた。

 黒のキャップ帽に肩下まであるサラサラの黒髪、そして顔が小さく見える……じゃなくて実際顔が小さいのに更に小さく見える黒マスク。オーバーサイズの黒パーカーに細身の黒デニム。所々に差し色として赤のアイテムがあり、まるで【ウェザーランドマジック】の敵側世界観の色合いだ。シンプルだがお洒落な服装……。


「え……え!?」

「はじめまして、のウーアレーゲンマンです」

 

 俺には分かる。

 完全にオーラを消しきれていない、この輝き。そして、隠しきれていない美しさ。


 俺の目の前には、ウーアレーゲンマンだと名乗る、俺の推しのアイドル・ユミリンが立っていた。


「うそぉ……」


 口元を片手で隠し呟けば、ユミリンは帽子とマスクの隙間から見える大きな瞳を緩めて笑った。


「ほんと。じゃ、とりあえず行こうか」


 そう言って、ユミリンは俺の服の裾をクイッと一回引っ張った。


 か……かっわぁーーーー!!

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