彼女は雨に愛されすぎている
藤原 清蓮
第1話 ハイウィザード
「あぁぁぁぁッ!! ヤバイバヤイヤバイバヤイヤバイバヤイ!! あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……クッソッ!! あと10秒だったのにぃぃぃっ!!」
スマホ画面には『負け』を示す赤黒い色がじんわりと浮かび上がる。そして追い討ちの様に『lose』の文字。
俺はベッドの上に倒れ込み、スマホをポイッと枕の上に投げる。
「また負けた……もうこれ、何十戦目ぇ? あーーーん! もうわかんねぇー!!」
スマホゲーム【ウェザーランドマジック】。
俺は、そのゲームに絶賛ハマり中。
どんなゲームか簡単にあらすじを言えば……。
天気を司る神々達が住まうウェザーランドに魔物達が大群で襲いかかった。魔王が『この世界の天気を全て黒と赤にする』といい、ウェザーランドを占拠。神々は力を奪う足枷を付けられ、魔物達に捕らわれてしまう。神々の力を集め悪用しだした魔物達により、地球の天候はめちゃくちゃに。
神々達は、僅かに使える自分達の力を集め、魔物達の目を盗み【勇者】を召喚した。
突然、何も無い真っ白な空間に召喚された人間は、脳内に響く神々の切実な思いに、わかったと頷く。
「だが、残念ながら私は神様達が望む【勇者】ではありません。ただ地球上で【冒険者】であっただけ……。必ず奪還すると約束は出来ないですが、私が出来る限りの力で協力をさせていただきます」
神々は冒険者の言葉を受け入れ、ひとりのニンフを冒険者の仲間としてつけた。ニンフとは、ギリシア神話に登場する女性の姿を精霊だが、このゲーム内では可愛らしい子供の姿をした精霊だ。このニンフが、冒険者を各エリアへ誘導し、クエストについてや素材集めについて説明をしてくれる、いわゆるストーリーテラーだ。
冒険者は、ニンフと共にウェザーランドの
ただ、冒険者と一言でいっても職業も様々だ。その辺は、よくあるRPGと変わりはない。
そんな俺の職業は、スナイパー。ソロで活動するプレイヤー向きの職業だ。
このゲームを始めたきっかけは、妹からの誘いだった。
俺は中高と陸上をやっていた。大学進学も陸上に特化した大学から誘われて入学。だけど、夏の大会前日に事故にあった。事故の原因は、速度制限無視の上、時間制限付き侵入禁止のスクールロードをイカレババァが爆速し、小学生の男児が轢かれそうになったのを助けたからだ。
男児は擦り傷で助かり、俺は右足を負傷。大会はもちろん欠場。一番傷めた膝の回復は見込めず、日常生活は送れるものの、選手生命を絶たれた。
子供が助かったのは、本当に良かった。俺も命があったんだから良かった。だが、今まで夢中になってやってきた全てが奪われた気がして、生きる事にすら無気力となった。そんな俺を明るく励ましてくれていた友達も次第に離れていき、どんどん荒んで行った俺に、妹が声を掛けて来たのだ。
「お兄ちゃんさぁ、いい加減、そのジメジメ闇モードやめてくれない? こっちまでジメジメして来るんだよねぇ。可哀想だなって思ってた気持ちが、いい加減消え失せるってゆーか」
我が妹ながら容赦ない物言いに一瞬イラッとするものの、妹の言う通りだなとも思う。
「てかさ、暇でしょ? 手伝って欲しい事があるんだよね」
「手伝い? 重いもの運ぶとかは無理だぞ。まだ膝に負荷かけれねぇし」
「そんなじゃないわよ。ベッドの上で出来ること! ちょっと、スマホ貸して!」
そういうや否や、俺のスマホを奪い取り、何やら設定をしていく。
別にやましいアプリやら何やらは無いが、妹とはいえスマホを弄られるのは嫌だったが、それを「止めろ!」と怒鳴れるだけの気力すら、その時の俺には無かった。
「お兄ちゃんが好きなアイドルって誰だっけ?」
「ユミリン?」
「んじゃ、ユミッチにするか……はい! 出来た! 今から説明するから、私の指示通り動かしてね! まずは……今、フレンド申請したから、それ承認して」
手元に戻って来たスマホの画面上には、質素な町娘のような格好をした女の子のアバターが……。名前は「ユミッチ」となっている。
「え、なにこれ?」
「私がやってる【ウェザーランドマジック】っていうゲーム。今、学校で流行ってるんだよ」
そんなこんなで、妹から暇なら素材集め手伝ってと言われて無理矢理始めさせられたスマホゲーム。
だけど、やってみたらなかなか面白くて。気が付けばハマっていた。とはいえ、俺がハマった頃には、妹はもう飽きていてほぼログインアイテムを貰うためだけにログインしている状態で、俺の素材集めやレベル上げには非協力的だった。
俺のアバターは妹が作った女の子の「ユミッチ」のまま。最初は嫌だったが、今では開き直って俺が好きなアイドルの「ユミリン」に寄せて着せ替えやら髪型を変えている。
当初、なんで女の子にしたんだと妹に訊ねたら……。
「女の子の方が、時々男性プレイヤーから素材集めとか手伝ってもらえるし、レアアイテム貰える事があるから」
と下心満載な事を言われた。実際、一人でプレイしていると、知らない男のプレイヤーから声を掛けられる事は多い。純粋に助けてくれるプレイヤーもいるが、中には変態チックなヤツがいたり、オフ会しようと唐突に誘われたり……。ギルドに加入すれば、ログインボーナスの他にギルドボーナスとして素材の石を貰えたりもするが、キモい男のプレイヤーに執着されるのが嫌で、俺は何処のギルドにも所属せず、黙々とソロでゲームを楽しんでいた。
そんなある日、ある男性プレイヤーと良く素材集めで出くわす様になったのだ。
最初は、ちょい嫌だなぁなんて思っていた。数あるサーバーの中でも過疎なサーバーを敢えて選んで一人で黙々と楽しんでいたのに。そこに、度々鉢合わせる男性プレイヤー。しばらく様子を見ていると、彼はこちらと一定の距離を保ちつつ、邪魔はもちろん干渉する事もなく、黙々とゲームを楽しんでいると分かり、俺も気にせず同じ場所でプレイする様になった。
それからしばらくして、彼の姿を見なくなった。もしかしたら、そのエリアのボス戦に勝って何処かへ移動したのだろうと思っていた。そろそろ俺もボス戦に挑めるくらいには素材も集まったし、レベルも丁度良い頃合いだとボス戦に挑んだ。が、俺にはまだ早かったか、なかなかボスに勝てず街に戻される、を繰り返していた。
それが、冒頭の叫びである。
投げていたスマホから、ピロリンと体力回復を知らせる音がした。やけに早すぎる回復に、俺は起き上がってスマホを見る。通常、完全回復には3分かかる。だが、街に戻されてからまだ1分も経っていない。
「全回復してる……」
街に流れるワールドチャットを遡ると『ウーアレーゲンマン』という名のプレイヤーが俺に回復魔法を掛けてくれていた。
「あれ……この名前って」
俺は、よく同じ場所で素材集めをしていた男を思い出す。アバターの上に出て来る名前。アイツの名前だ。
『ウーアレーゲンマン』という名には、密かに親近感を抱いていた。何故なら、俺の名前と同じだ、と思ったからだ。
俺の名前は『
「アイツ、この街にいるのか?」
探してみれば、街の外れにある道具屋の前に居るのが見えた。
俺は近くまで走っていき、相手の隣に立つと手を振ってみた。すると、ウーアレーゲンマンも手を振り返した。
「お? 反応があった……」
初めてのことでちょっとドキドキしたが、とりあえずチャットで礼を言おうと画面をタップする。
『回復、ありがとうございます』
淡白だが、とりあえず。すると、ウーアレーゲンマンが喜びのポーズで返事をした。何か話したい……と思いつつも、何も浮かばない。
どうしようか、このまま「じゃあ、また」と立ち去るか。などと考えていると、ウーアレーゲンマンからチャットが来たのだ。
『ボス戦、行ってたんですか?』
『はい、でもまだ私には早かったみたいです。何度、挑んでも勝てなくて……』
女の子のアバターだし、初めてチャットするから、念の為一人称を「私」にして送ると。
『……良かったら、一緒に行きますか? 僕も、あそこのボスから落ちるレアアイテムが欲しくて、今から行くところだったんです』
「え!? マジで?」
ウーアレーゲンマンのレベルは、俺より20程上だ。職業を聞けば、ハイウィザードというではないか。服装が課金勢のオシャレ装備で、職業が分からなかったが、戦い方を思い出せば、確かにハイウィザードの戦い方だったと思い出す。
『僕は戦わずに後方で回復魔法を掛けていきます。そうすればユミッチさんが戦う事になるから、ボーナスポイントはユミッチさんが取得出来ますし、運が良ければ二人ともレアアイテムがドロップするかも知れませんし……』
その申し出に、俺は速攻で『よろしくお願いします!』とアバターをジャンプさせたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます