中編
「好きです! 俺と付き合ってください!」
「えーと、ごめんなさい!」
誠心誠意を込めて頭を下げ、断る。
ガーンという音が出そうなほどショックを受けた顔になり、とぼとぼとこの空き教室から出ていく男子生徒。
そのすぐ後で、ある女生徒がこの部屋に入ってきた。
「きりえー、またあんた断わったの?」
親友の田沢晶子がニヤニヤとした顔つきでこちらに来る。
「うん、聞いてたんだ」
「今回は結構いい男だったじゃん、サッカー部のレギュラー、顔もいいし、勉強もできる、何が不満なわけ?」
「べつに不満ってわけじゃ……」
「あんた、いつもそう言うわよね。断っているのに」
「ごめん」
「私に謝ってどうするのよ、まぁ誰と付き合おうがふろうが、きりえの勝手だけどさ」
なんて言って彼女は肩をすくめる。
「あ、そうだ、きりえ、このあと、どっか行かない?」
「ごめん、家に帰ってすることがあるから」
「そっか、それじゃあしかたないね」
晶子が教室から去っていった。
一人で校舎を出ると、雨が降っていたので、折り畳み傘をバッグから取り出して、傘を差しながら歩く。
最近、悪い天気が続いている。
バケツをひっくり返したような雨で、傘を差していても、足元が濡れてしまう。
途中でスーパーに寄って今日の夕飯用の食材を買ってから自宅へ向かう。
帰宅すると、まずはベランダで干していた服を部屋の中に入れて、その次に軽く部屋の掃除をした。
この後は夕飯を作らないと。
でも、その前に少し休憩しよう。
と思ってテレビをつける。あの国が戦争しているとか政治家の裏金とか誰かが殺されたとか、そういう話ばっかでうんざりしてしまった。
テレビを消して、スマホでSNSを見る。
インフルエンサーが不適切な発言をして炎上したとか、誰と誰がレスバしているとか、Vチューバーに彼氏がいるのが発覚したとか、そんな話ばっかで嫌になってスマホをいじるのもやめてしまった。
ああ、そろそろ夕飯を作らないと。
休憩したはずなのに、全然休んだ気がしない。
キッチンへ行き、サラダ用の野菜を切りながら、思う。
本当は友達ともっと遊びたい。
でも、しかたない。お母さんは仕事で忙しいから。
五年前のあの大雨の日の後、結局お父さんとお母さんは離婚してしまった。
それから母は仕事を増やし、家事は私がほとんどするようになった。
窓の方を見る。
相変わらず、雨がザーザーと降っている。
正直、今けっこう辛い。でも、私はこういう時、あの傘の下に入れてくれた男の子を思い出すようにしている。
あの時のことを思い出すと、なんだか頑張れるのだ。
あれから、あの男の子には一度も会えていない。
また会いたいな……。
翌日、学校に行くと、朝のホームルームで、びっくりすることが起きた。
転校生が私のクラスに来るという話をいきなり担任の先生がしだしたのだ。
そして教室にその転校生が入ってくる。
「宮小路琢斗です。よろしくお願いします」
と言ってぺこりと頭を下げる転校生。
見た目がかっこよかったので、女子たちがキャーキャーと騒いでいた。
私も彼からずっと目が離せなかった。
かっこよかったからではない、いや、それもあるけど、それ以上に、彼が私の初恋の人だったからだ。
びっくりした。あの時よりも大人びているけど、間違いない、あの人だ。
私のこと、覚えてくれているかな……と思って宮小路君を見るが、彼は私を見て、何の反応も示さない。
ああ、これは、私のことなんて覚えてくれていないんだろうなぁ、てわかって、がっかりしてしまう。
でも、まぁそうだよね、ちょっと話しただけで、そんなに関わってないもんね……。
自己紹介のあと、彼は窓際最後尾の席に座ることになった。
私の隣の席だ。
これは、彼との仲が進展する最高のチャンス、神様ありがとーって思っていたけど、特にラブコメっぽいイベントはそれから全く発生しなかった。
「最近雨ばっか降ってるよね」とか「今日小テストだね、勉強した?」とか隣の彼に話しかけても、「うん」とか「ああ」とか言うだけで、まるでこちらと会話しようとしないのだ。
正直、泣きそうだ。
でも、私以外にも彼はそんな感じだったので、それはちょっと救いだった。
宮小路君は顔がよかったので、転校してきたばかりの頃は女子がよく話しかけていたけど、誰に対しても超塩対応なので、そのうち彼はクラスから孤立してしまった。
なんであんなに冷たい態度をとるんだろう?
五年前はあんなに優しかったのに……。
宮小路くんはずっと不機嫌そうな顔をしている。
何か嫌なことでもあったのかな……?
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