強い雨と小さな優しさ

桜森よなが

前編

 忘れもしない、初恋の人と初めて出会った時のことを。


 あの日は、強く雨が降っていた。


 お父さんとお母さんの仲がその頃、すごく悪くて、毎日のように二人は喧嘩していたのだけど、その日、とうとう離婚の話まで出てきてしまった。


 そして、私は父と母に言われたのだ。

 パパとママ。どっちの方が好きって。


 私は答えられなくて、そこにいづらくなって、家を飛び出してしまった。

 大雨が降っていたというのに、傘も差さず。


 私は母と父がどっちも好きだった。だから選べなかった……

 いや、違う。

 本当はどっちも好きなんかじゃなかった。毎日、私の目の前で喧嘩ばかりしている二人なんて、大嫌いだった。


 気づいたら、近所の公園にいた。


 誰もいない、当然だ、こんな大雨が降っている中、外で遊ぶ奴なんているはずない。

 でも、どうしよう、家には帰りたくないし……。

 そう考えていた時、公園に誰か入ってくるのが見えた。

 男の子だった。

 精悍な顔つきの子で、傘を差しながら私に向かって走ってきた。


「どうしたんだ、風邪ひくぞ」


 その男の子は傘の下に私を入れてくれた。

 ドキリ、とした。

 私より10センチくらい背が高い彼の顔を見つめる。


 長い睫毛、切れ長の目、その整った容貌を見ていると、私はなんだか顔が熱くなってきてしまった。

 私が黙っていると、彼が「やるよ」と言って傘の取っ手を握らせてきた。

 そして、走り去ってしまう。


「あ、あの、でも、あなたが濡れちゃう!」

「おれ、家近くだから、大丈夫!」


 そう言ってあっという間に公園を出て、どこかに行ってしまった。

 公園で一人、ぽつんと佇んでしまう。


 それはとても小さな優しさだった。

 状況が好転したわけじゃない。

 私が抱えてる問題は全く解決していない。

 でも、それでも、私はこのちょっとした優しさに救われた気持ちになったんだ。


「名前、聞いておけばよかったな」


 高鳴る胸の鼓動。

 そこで、私は自覚する。

 名前も知らないその男の子に恋をしてしまったことを。

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