地味スキル【文章自動生成】を使ったら、書籍化とコミカライズが白紙になりました

空木 架

地味スキル【文章自動生成】を使ったら、書籍化とコミカライズが白紙になりました

「昨日バイトで、ダンジョンに潜ったんだけど、私のマップ作成スキルがめっちゃ優秀で助かるって褒められちゃった」

「オレ昨日、斬撃スキルで敵を八つ裂きにしてやったわ」


 中越なかごしユイは、自分のスキルを自慢するように話しているクラスメイト達の輪に入ることなく、自分のスキルで書いた恋愛小説『瞳の奥から君を見ている』を読んでいた。

 ユイのスキルは【文章自動生成】。その名の通り文章を自動的に生成するスキルだ。


「ねぇ。ユイはどこでバイトしてるんだっけ?」

 

「え? 書店だけど……」


「書店? ぷっ。ごめんごめん。あんたのスキル戦闘向きじゃない地味なヤツだったの忘れてたわ」


(違う。忘れてたんじゃない。わざとからかいに来ただけ。まぁ、いつものことだから気にしてないけど)

 

 ユイはクリップで留めたA5用紙に目を落とすと、小説の世界に戻っていった。


 ◇ 


「あとは、スキルを発動すれば完成ね」


 放課後、ユイはバイト先にいた。彼女が手をかざすと、目の前に並べられた紙片が淡い光に包まれ、文字がスッと浮かんできた。


「これでよし、と」


 ユイのバイト先は書籍雑貨店『シティ・フォン・アタック』だ。個性的なPOPが特徴の有名店。POPで売り上げを作っていると言っても過言ではない。ようするに、ユイの仕事が店を支えているようなものだった。

 

「店長、POP書き終わったので、お先に失礼します」


 店長の金子尊がバックヤードから顔を出した。金子は中肉中背の中年男性だ。眼鏡だけが唯一のアイデンティティである。若い頃に出版社に勤めていて、その伝手を活かして、この店を始めたのであった。


「あれ? もう終わったのか? 1枚100円じゃたいしたお金にならないだろ? 品出しのバイトもやっていかないか?」

 

「いえ、ちょっと学校の宿題をやらなきゃなので……」

 

「そうか……忙しいから他の仕事もやってもらえると助かるんだがな……仕方ない、お疲れ様」

 

「はい、お疲れ様です」


 学校の宿題があるというのはウソ。ただ、スキルで書いた小説をゆっくり読みたいだけなのだ。

 ユイは、電車のホームで、リュックから小説を取り出そうとしていた。

 

「なにが『忙しいから』よ。バックヤードでずっと本読んでるだけのくせに……あれ? ないな? ヤバ。バイト先に忘れてきたかも……取りに戻るか……」


 バイト先についたユイは、バックヤードへの入り口で立ち尽くした。

 金子が自分の小説を読んでいたのだ。


「え……。なんで……?」


 金子は、ユイに気付くと悪びれることなく、話しかけてきた。


「中越君。これは、自分で書いたのか?」


「え、えぇ。まぁ……そう、ですけど……」

 

 金子の眼鏡がキラリと光った。ような気がした。

 

「ものすごく面白いじゃないか! 傑作だよ! もう誰かに見せたのか!?」

 

「いえ、誰にも見せてません……というか、見せるつもりもないです……」


「なぜ!? こんなに面白いのに!?」


「いや、目立ちたくないので……」


 ユイがそう言うと、金子の眼鏡がまたキラリと光った。


「今日だけ貸してもらえないかな?」


「え……もちろん、イヤです……」


「頼むよ! この傑作を読みたいんだ! バイト代上げるからさ! 1枚110円に上げてあげよう!」


(おっさん、セコいな。でも、10円アップか。100枚で1000円か……)


 ユイは10円に負けた。

 

「仕方ないですね……分かりました。1日だけですよ」


「交渉成立だな! ところで、なんでA4じゃないんだ?」


「え? 小さい方が持ち運びやすいので……」


「なるほどねぇ。応募とか考えたらA4の方が良さそうだけどな」


「さっきも言いましたけど、誰かに見せたりするつもりはないんですよ」


「そうだったな……もったいない……」


 そうつぶやく金子を無視して、ユイは家に帰るのであった。

 小説の行く末も知らずに。


 ◇

 

「これを埋もれさせるのは罪だよな」

 

 金子はそうつぶやきながら、コピー機の前に立っていた。


「えっと……拡大は? どれだっけ? あぁこれか」


 金子は、普段あまり使うことのないA5からA4への拡大設定に、ちょっとだけ苦労しながらコピー機の設定を終えると、ユイの小説のクリップを外した。

 コピー機のスタートボタンを押すと、フィーダーが次々と紙を送り始める。


「これでよし、と。あとは――」


 金子がスマートフォンを取り出す。しばらく呼び出し音がなった後で、相手が出た。


「よう。久しぶり。元気だったか? ……そう邪険にするなよ。すごいの書いたんだよ! オレの【金脈察知】スキルが反応してるんだよ。絶対に売れるぞ! ……ああ、間違いないって。送るから読んでみてくれ。じゃあな。よろしく!」


 金子は電話を切ると、コピーが終わるまでの間で封筒に宛名を書きながら企んだ。それはもう企みに企んだ。


「いいもの見つけたぜ。絶対に金になるぞ! あの娘は、少しだけ金を渡してやれば満足するだろう。あとは、プロデュース料とか言ってオレの懐に入れてしまえばいい……」


 ◇


 そんな事をまったく知る由もないユイは、スキルを使って書いた、新しい小説を自室のソファで読んでいた。

 サイドテーブルでは、ミルクをたっぷり入れたカフェオレが湯気を立てている。

 

「あぁ、この時間、至福だわぁ」


 ◇


 出版社では、ちょっとした騒動が起こっていた。

 原因は金子から送られてきた小説。


 そのあまりにも衝撃的なスペックに編集部の誰もが興奮していた。


 編集長の永瀬が大声で指示を出していた。


「すぐに書籍化の準備だ! データはないらしい! スキルでデジタル化してくれ! コミカライズもすぐに準備しろ! この作品を描き切るためには、相応の画力スキルが必要だ! いくらかかっても構わん! 上級スキルの持ち主を連れてこい!」


 一通り指示を出し終えた永瀬は、「アニメ化」だの「映画化」だのつぶやきながら、タバコを吸いに部屋を出ていった。


 ◇


 数日後。

 ユイが、本屋の新刊情報をチェックしていると、見覚えのあるタイトルが目についた。


【『瞳の奥から君を見ている』著者:金子尊】


 ユイはその文字から目を離せなくなった。呼吸が浅くなる。心臓が早鐘を打っていた。

 

「あ、あいつ!」


 ユイは走り出した。目的地は、もちろんバイト先だ。


「はぁ、はぁ。 ぜぇったいに許さないわ!」

 

 息を切らせながら『シティ・フォン・アタック』に着くと、そのままの勢いで真っ直ぐバックヤードに入って行く。


「ちょっと、店長!」


 金子が、読んでいた本を手に持ったまま顔を上げる。

 

「どうしたんだ中越君?」


「とぼけないでよ。私の小説の本が出るって!」


 金子は、ゆっくりとした動作で本にしおりをはさみ、その本を脇に置いて、立ち上がった。


「あぁ。新刊情報出てたもんな。まぁ、そう騒ぐなよ……そうだよ。本だけじゃない。コミカライズも準備中だ! 金になるぞ! 心配しなくて大丈夫。君にも分け前を上げよう!」


「ふざけないで! そんなものいらない!」


「もう本にしちまってるし、君が何を言っても手遅れだ」


「どうなっても知らないからね」


「どうにもならないさ。オレが金持ちになるだけさ」


 ユイは踵を返すと、店を出て真っ直ぐ家に向かった。もう、どうでも良かった。家に帰ってゆっくり小説を読むのだ。電車に乗ったユイはぼそっとつぶやいた。

 

「『瞳の奥から君を見ている』を解除……」


 その瞬間、『瞳の奥から君を見ている』が人々の頭から消えた。金子がコピーした紙も、本も全て文字が消え、全てが白紙になった。

 金子が持ち込んだという記憶だけを残して。

 金子はこの先苦労するだろうが、ユイには関係のないことだ。


 ユイは、自室のソファで、また小説を読むだけだ。

 

「やっぱりこの時間は最高ね」

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