第11話 居心地の良い距離
放課後の校舎を出ると、空はすっかり夕方の色になっていた。
「一緒に帰っていい?」
澪が、いつもの調子で聞いてくる。
「別に、いいけど」
五右衛門はそう答え、駅へ向かって歩き出す。
最近、このやり取りが当たり前になっていた。
会話が途切れても、気まずくならない。
無理に何か話そうとしなくてもいい。
「……ねえ、おまえざきくん」
少し歩いたところで、澪が口を開いた。
「おまえざきくんと一緒にいるとさ」
一拍置いて、続ける。
「なんか、居心地いいんだよね」
「……そうか」
それだけ返すと、澪は満足そうに頷いた。
「うん」
特別な意味はなさそうな声。
けれど、その横顔を見ながら、澪は心の中でそっと考えていた。
(居心地、いい……だけ)
ドキドキするわけじゃない。
恋って言われると、よくわからない。
それなのに――
(……この感じ、
最近じゃない気がする)
ずっと前から、こうだったような。
初めて隣に並んだ日より、もっと前。
理由は思い出せないのに、
感覚だけが、ずっとここにあったみたいで。
(……考えすぎだよね)
澪は小さく首を振る。
前を歩く五右衛門の背中は、相変わらず少しだけ遠い。
でも、不思議と離れていく感じはしなかった。
「おまえざきくんってさ」
澪が、少しだけ明るい声で言う。
「ほんと、変だよね」
「……急に失礼だな」
「悪い意味じゃないよ」
くすっと笑って、澪は続けた。
「なんていうか、
一緒にいて楽、っていうか」
「それ、褒めてんのか?」
「褒めてる褒めてる」
澪ははっきり頷いた。
五右衛門は少しだけ困ったように頭をかいた。
(居心地がいい、か)
(……澪らしいな)
それ以上、深く考えることはしなかった。
やがて、駅へ続く階段が見えてくる。
「じゃあ、ここで」
澪が立ち止まる。
「また明日ね」
「ああ」
澪は少しだけ振り返ってから、手を振った。
五右衛門がそれに応えた瞬間、
胸の奥に、小さな違和感が残る。
理由は、わからない。
ただ――
(……悪くない)
そう思っている自分がいた。
---
――同じ頃。
都内某所。
観測装置の数値が、静かに跳ね上がる。
「……この恋能の異常値」
誰かが、低く呟いた。
「明らかに、悪意を持って周囲に解放している……」
一瞬の沈黙。
「最近よく事件を起こしている
通称、“
画面の向こうで、
またひとつ、数値が上昇した。
日常は、まだ壊れていない。
だが確実に、
歪みは広がり始めていた。
「恋は誰にも邪魔させないよ」
恋に飢えた者たち――
《フォールン・アモーレ》は、そう言った。
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