第10話 編集者のいない世界


 朝は、

静かに

訪れた。


 空は

青く、

雲は

流れている。


 そこに、

文字は

ない。


   ◆


 リリアは、

目を

覚ました。


 胸の

奥に、

何かが

抜け落ちた

感覚が

ある。


 だが、

名前は

思い出せない。


   ◆


 世界は、

昨日と

同じだ。


 少なくとも、

見た目は。


 市場は

開き、

人々は

笑い、

怒り、

悩んでいる。


   ◆


 だが、

誰も

「正解」を

知らない。


 それを

決める

文章が、

どこにも

存在しないからだ。


   ◆


 グレンは、

剣を

磨きながら、

違和感を

覚えていた。


 戦い方は

知っている。


 だが、

何のために

振るうのか。


 それが、

決められて

いない。


   ◆


 悪くない、

と思った。


 命令が

ない。


 評価も

ない。


 結果だけが、

残る。


   ◆


 スキル庁は、

再編された。


 管理では

なく、

記録の

組織へ。


 秩序を

強制する

権限は、

失われた。


   ◆


 セレスは、

机に

向かっている。


 真偽判定は、

もう

発動しない。


 だが、

彼女は

ペンを

取った。


 事実を、

確認し、

書き留める。


 それだけだ。


   ◆


「……難しいな」


 彼女は

呟く。


 だが、

その顔は、

どこか

穏やかだった。


   ◆


 人々は、

間違える。


 争い、

傷つけ、

後悔する。


 だが、

それを

消す

力は

ない。


   ◆


 代わりに、

謝る。


 話し合う。


 やり直す。


 面倒で、

不格好で、

時間が

かかる。


 それでも、

自分で

選ぶ。


   ◆


 夕暮れ、

丘の

上。


 リリアは、

なぜか

そこに

来ていた。


 理由は

わからない。


 だが、

胸が

静かに

疼く。


   ◆


「……誰か、

 いた気が

 する」


 風が

吹く。


 答えは

ない。


   ◆


 空には、

もう

文章は

浮かばない。


 原初文書は、

ただの

沈黙に

なった。


 世界を

支えるのは、

法則では

なく、

人の

選択だ。


   ◆


 夜。


 街に

灯りが

ともる。


 一つ

消え、

一つ

ともる。


 誰かが

決めた

わけでは

ない。


   ◆


 それでも、

世界は

続く。


 完璧では

ないが、

未完成の

まま。


   ◆


 遠くで、

誰かが

物語を

書き始めている。


 英雄の

話か。


 失敗者の

記録か。


 それは、

まだ

わからない。


   ◆


 だが、

一つだけ

確かな

ことがある。


 もう、

誤字を

直してくれる

存在は

いない。


   ◆


 だから、

人は

読むのを

やめ、

書く。


 消せない

行を、

抱えた

まま。


   ◆


 それが、

この世界の

選んだ

結末だ。


 編集者の

いない、

物語の

始まり。


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