第9話 世界の再編集
山を
下りる
途中、
空が
割れた。
比喩では
ない。
雲の
向こうに、
巨大な
文章構造が
露出している。
世界が、
臨時更新に
入った。
◆
原初文書への
接触は、
想定外の
事態だった
のだろう。
空に、
警告文が
流れる。
《秩序緊急保全》
《編集権限
強制凍結》
俺の
頭が、
鋭く
痛んだ。
◆
「始まったな」
グレンが
剣を
構える。
周囲の
地形が、
書き換え
られていく。
山道は、
直線的な
回廊へ。
逃げ道は
ない。
◆
セレスが、
俺の
横に
立った。
「スキル庁
本部命令です」
「あなたを
排除し、
世界を
安定状態へ
戻します」
声が
震えていない。
覚悟が
固まっている。
◆
「それでも、
聞く」
俺は
言った。
「この世界は、
正しいか」
彼女の
真偽判定が、
激しく
揺れる。
答えは、
出ない。
◆
空から、
文字が
降ってくる。
巨大な
拘束文。
《例外排除》
《強制終了》
世界そのものが、
俺を
消しに
来ている。
◆
逃げても
意味は
ない。
俺は、
立ち止まった。
そして、
編集を
始める。
世界全体を
直すのでは
ない。
たった
一行だけだ。
◆
原初文書の
末尾。
以前
見つけた
あの文章。
《世界は、
編集不能である》
それが、
すべての
免罪符だった。
神も、
秩序も、
責任を
取らないための。
◆
指を
伸ばす。
視界が
白く
焼ける。
脳が
悲鳴を
上げる。
この負荷は、
死に
等しい。
◆
それでも、
書き換える。
削除では
ない。
修正だ。
誤字の
訂正。
◆
《世界は、
人によって
編集され続ける》
たった
それだけ。
だが、
世界が
止まった。
◆
落下していた
文字が、
空中で
静止する。
拘束文が、
崩れる。
地形が、
不確定な
状態で
揺らぐ。
◆
秩序が、
権限を
失った。
神は、
管理者では
なくなった。
ただの、
最初の
編集者だ。
◆
俺の
体が、
崩れ始める。
能力の
反動では
ない。
役割の
終了だ。
編集者は、
世界に
常駐する
べき
存在では
ない。
◆
「やめろ!」
リリアの
声が
聞こえる。
だが、
もう
止まらない。
俺は、
自分自身を
文章として
認識している。
◆
《編集者
※一時的存在》
その一文を、
俺は
自分から
消した。
◆
力が
抜ける。
世界が、
俺から
離れていく。
視界の
端で、
セレスが
膝を
ついた。
彼女の
スキルは、
沈黙している。
◆
「……これで、
いい」
俺は
呟いた。
誰もが
編集者に
なれる
余白。
誰もが
間違え、
直せる
世界。
◆
最後に
見えたのは、
空から
文字が
消えていく
光景だった。
世界は、
文章で
あることを
忘れた。
◆
それで
いい。
人は、
読者では
なく、
書き手として
生きるべきだ。
◆
意識が、
闇に
沈む。
だが、
恐怖は
ない。
俺は、
誤字を
一つ、
直しただけだ。
その結果を、
世界が
どう
書き継ぐかは、
もう
知らない。
◆
――そして、
物語は、
次の
章へ
委ねられる。
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