第7話 秩序の名の下に
町は、
封じられていた。
門は
閉ざされ、
街道には
兵が
立っている。
誰も
叫ばない。
混乱は、
すでに
文章として
処理された
後だった。
◆
俺の
視界に、
町全体を
覆う
巨大な
スキル文書が
重なって見える。
《臨時封鎖
※秩序維持
※違反者拘束》
個人の
意思は、
そこには
存在しない。
国家の
文章だ。
◆
「……来たな」
グレンが、
低く
呟く。
彼の
剣は、
まだ
抜かれていない。
だが、
いつでも
振るえる。
それだけの
緊張が、
空気を
張り詰めさせていた。
◆
中央広場に、
黒衣の
一団が
並んでいる。
スキル庁。
その中で、
一人の
女が
前に
出た。
整いすぎた
動作。
胸元に
浮かぶ
文字が、
ひときわ
鮮明だ。
《真偽判定》
セレス。
◆
「異端能力者、
通称
スキル編集者」
彼女の
声は、
よく
通った。
「あなたを、
世界秩序
攪乱の
容疑で
拘束します」
その宣告に、
感情は
ない。
だが、
悪意も
ない。
◆
「……質問は」
俺が
言うと、
セレスは
頷いた。
「認めます」
対話が
成立している
ことが、
かえって
恐ろしい。
◆
「俺は、
誤字を
消しただけだ」
「世界に、
害を
与える
つもりは
ない」
セレスは、
一瞬だけ
目を
伏せた。
「理解しています」
その答えが、
最も
残酷だった。
◆
「理解した
上で、
排除します」
彼女の
スキルが
発動する。
世界が、
色を
失った。
モノクロの
景色の中で、
俺だけが
浮いて見える。
◆
視界に、
文字が
走る。
《判定不能》
それが、
彼女の
恐怖だ。
真偽を
見抜く
能力が、
俺にだけ
通じない。
◆
兵が
動く。
グレンが
前に
出る。
「ここからは、
通さない」
剣が
抜かれ、
空気を
切り裂く。
衝突は、
一瞬だった。
◆
剣と
魔法が
交錯する。
だが、
どれも
致命打に
ならない。
スキル庁は、
殺さない。
捕らえる。
編集者を、
生きたまま。
◆
俺は、
理解する。
彼らに
とって、
俺は
災害だ。
善悪では
測れない。
制御
不能な
編集行為。
◆
頭痛が、
限界に
達する。
視界が
揺れ、
文字が
崩れる。
それでも、
俺は
動いた。
◆
広場の
一角で、
捕らえられた
少年が
いた。
胸の
スキル文書が、
震えている。
《過剰発火
※制御不能》
暴発すれば、
周囲を
巻き込む。
時間が
ない。
◆
俺は、
倫理を
思い出す。
本人の
意思。
欠陥。
責任。
少年の
視線が、
俺を
捉えた。
必死だ。
助けを
求めている。
◆
「……一行だけだ」
俺は、
線を
引いた。
頭が
焼ける。
だが、
止まらない。
《※制御不能》
削除。
◆
炎は、
静かに
消えた。
広場が、
凍りつく。
セレスの
目が、
大きく
見開かれる。
◆
「今のは……」
「欠陥の
修正です」
俺は、
はっきり
言った。
「秩序を
壊して
いません」
セレスは、
唇を
噛む。
真偽判定が、
沈黙している。
◆
彼女は、
初めて
迷っていた。
正しい。
だが、
正しすぎる
世界は、
人を
切り捨てる。
◆
鐘が
鳴った。
撤退の
合図。
スキル庁は、
一斉に
退く。
だが、
視線は
外さない。
◆
「次は、
必ず
拘束します」
セレスは
そう
告げて、
去った。
脅しでは
ない。
宣言だ。
◆
広場には、
沈黙だけが
残った。
助けられた
人々が、
俺を見る。
感謝と、
恐怖が
混じった
目。
◆
俺は、
わかっている。
もう、
戻れない。
スキル庁は、
敵になった。
だが、
完全な
悪でも
ない。
◆
夜、
町を
離れる。
追撃は
ない。
だが、
文章は
続いている。
次の
章へ。
◆
リリアが
言った。
「……それでも、
間違って
ない」
グレンが
頷く。
俺は、
空を
見上げた。
原初文書は、
沈黙したまま。
だが、
確実に
更新を
待っている。
異端の
編集者が、
どんな
結末を
選ぶのかを。
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