第5話 スキル狩り


 噂は、

追うよりも

早く、

広がる。


 街道を

二日ほど

進んだ頃には、

俺たちは

すでに

二度、

視線を

感じていた。


 敵意ではない。


 値踏みだ。


   ◆


「……人を、

 集めてる」


 リリアが、

小声で

言った。


 彼女にも、

わかる。


 誰かが、

誰かを

探している。


 そして、

その条件が、

能力者である

ということを。


   ◆


 次の町で、

それは

はっきりした。


 酒場の

隅で、

低い声が

交わされている。


「最近、

 変な治癒が

 出回ってる」


「失敗しない

 治癒だ」


「値が

 付くぞ」


 俺の

背中に、

冷たいものが

這う。


 スキルを

売り物として

扱う連中。


 スキル狩り。


   ◆


 彼らは、

異端を

殺すわけでは

ない。


 捕らえ、

生かし、

利用する。


 編集された

能力は、

希少で、

再現できない。


 だから、

商品になる。


   ◆


 その夜、

宿の裏で、

争いが

起きた。


 剣戟の音。

怒号。


 俺は、

リリアを

庇いながら、

現場を

見た。


 一人の男が、

三人に

囲まれている。


 血を流し、

膝を

ついていた。


   ◆


 俺の目に、

彼の

スキル文書が

映る。


《剣術S

 ※寿命消費型》


 強力だ。


 だが、

代償が

大きすぎる。


 文字の

末尾が、

崩れている。


 長く

持たない。


   ◆


「売れ」


 スキル狩りの

一人が、

言った。


「その力、

 金になる」


 男は、

笑った。


 血に

濡れた

口で。


「……断る」


 その一言に、

三人が

動いた。


   ◆


 考える

時間は、

なかった。


 俺は、

前に

出た。


 編集の

衝動が、

胸を

突き上げる。


 だが、

倫理が、

それを

抑えた。


 本人の

意思。


 欠陥。


 責任。


   ◆


「……一行だけだ」


 俺は、

自分に

言い聞かせる。


 問題の

文言は、

明確だった。


《※寿命消費型》


 この一行は、

欠陥だ。


 強さと

引き換えに

死を

早める。


 本人が

選んだとは

言えない。


   ◆


 俺は、

線を

引いた。


 世界が、

一瞬、

沈黙する。


 音が

消え、

色が

薄れる。


 頭痛が、

今までで

最も

激しく

襲った。


   ◆


 男の

スキル文書が、

書き換わる。


《剣術S》


 それだけ。


 だが、

それだけで

十分だった。


   ◆


 次の瞬間、

男は

立ち上がった。


 動きが、

違う。


 無理が

ない。


 寿命を

削る

必要が

ない。


 三人は、

一瞬で

倒された。


   ◆


 沈黙。


 夜風が、

血の匂いを

運ぶ。


 男は、

俺を

見た。


 そして、

すぐに

理解した

顔になる。


「……あんたか」


 俺は、

否定しなかった。


   ◆


 彼の

名は、

グレン。


 元は

王国騎士だと

言った。


 だが、

スキルの

代償が

原因で、

使い捨てに

された。


 珍しい

話では

ない。


   ◆


「……借りが

 できたな」


 グレンは、

苦笑した。


 俺は、

首を

振る。


「返さなくて

 いい」


 だが、

彼は

剣を

収めず、

言った。


「なら、

 守らせろ」


   ◆


 こうして、

仲間が

増えた。


 意図した

わけでは

ない。


 だが、

書き換えられた

人生は、

元の

軌道には

戻らない。


   ◆


 翌朝、

町を

出る時、

視線が

増えているのを

感じた。


 俺たちは、

もう、

噂話では

ない。


 狙われる

存在だ。


   ◆


 スキル狩り。


 そして、

スキル庁。


 両方が、

こちらを

向き始めている。


 俺は、

理解する。


 編集者は、

一人では

いられない。


 書き換えた

結果が、

人を

集める。


 敵も、

味方も。


   ◆


 焚き火の前で、

グレンが

言った。


「……世界は、

 あんたを

 許さない」


 俺は、

静かに

答える。


「だろうな」


 だが、

視線は

逸らさない。


 許されるために

やっている

わけでは

ない。


 誤字を

直した。


 それだけだ。


   ◆


 夜空に、

星が

瞬く。


 その裏で、

確実に、

何かが

動いている。


 文章で

できた

世界が、

異端を

排除するため、

次の

一文を

準備している。


 だが。


 俺もまた、

ペンを

置く気は

なかった。


 この物語は、

もう、

始まって

しまったのだから。


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