極彩色のカウントダウン


「出席番号、1番から。手短にな」

先生の声が、アスファルトのような重い色を教室に引きずっていく。


一番前の男子が立ち上がった。

「部活ばっかりでしたけど、最後の大会で勝てて良かったです」

彼の声からは、泥臭い山吹色が飛び散る。それは頑張った証のような色で、

周りの友達が「お疲れ!」と放つ明るいレモン色と混ざり合い、教室の一角を

まぶしく照らした。


私の二つ隣の席に座る、おとなしい梨乃。

彼女は理香からお土産をもらっていた一人だ。

「私は、おばあちゃんの家で花火を見ました」

消え入りそうな声。けれど、その指先からは淡い藤色の光がこぼれ、理香のソーダ

ブルーと溶け合って、まるで夜空のような美しいグラデーションを作っている。

それは、お土産を介して「繋がっている」者たちだけが持つ、特別な色の連鎖だった。


その光の輪が、私のすぐ隣まで迫ってくる。

右隣の席の健太が、椅子を引く音を立てて立ち上がった。

「塾の合宿が地獄でした。でも、帰りにみんなで食べたラーメンが最高で……」

彼が喋るたび、熱を帯びたオレンジ色が勢いよく弾ける。その色は、私の机の端をかすめ、床に落ちて、すぐに消えた。


私の机は、彼らの鮮やかな色が反射することすら拒む、乾いた灰色のままだ。

色と色が手をつなぎ、お互いを引き立て合う「内側」の世界。

対照的に、私の足元には、誰の声も届かない、色が混ざり合うこともない、ぽっかりと空いた無彩色の空白が広がっていた。

まるで、ここだけ誰かが消しゴムで消したかのように、世界から切り離されている。


「じゃあ、次。」

ついに順番が来て、心臓が跳ねた。

私は、ゆっくりと椅子を引いた。

ガタガタという不快な振動さえも、今の私には鋭利な灰色の針となって突き刺さる。

教室中の視線が、私に集まる。

そこには「お土産」という共通言語を持たない異分子への、無関心に近い好奇心が

混じっていた。

私は、喉の奥に溜まった冷たい鉛を、言葉という形に変えるために唇を開く。


「……近所の、神社にいました」

私の声が零れた瞬間。

私の口から漏れた声は、案の定、砂利を撫でる風のような、頼りない灰色だった。けれど、その奥に宿る記憶は、あの理香の鮮やかな青とは正反対の、透明な静寂だ。

線香の匂い。古い木造の社殿が吸い込んできた、何百年分もの沈黙。

そこには、私の視界を叩きつけるような暴力的な色は一つもなかった。ただ、古びた緑の苔と、影のような深い墨色が、疲弊した私の網膜を優しく休ませてくれた。

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