第5話






 言いながら、クイッ、と顎先に絡みついた男の指先によって

 その、白皙はくせきの麗しいおも立ちが近づけられる。




 あまりに真近に寄ったために、



 ふわり、香った仄かなアロマの匂いが、鼻腔びくうくすぐったのには

 場違いにも、あ。いい匂い。と一瞬、意識が逸れてしまったが、





 ・・・とは言え、銀水晶のような双眸に、

 射竦いすくめられてることに変わりはないのだけれど、





 「引っ掻いてはねぇな」


 「ぁ…はい」



 そんなら、と。




 いつもの救急箱から、サラっとしたタイプのローションを取り出した男は、


 しっかり、手のひらを消毒してのち

 液体を乗せると、私の首まわりに馴染ませるように

 (言動の雑さとは裏腹に)優しく塗りひろげてくれた。





 「しばらくはこっちのローション渡しとくから、風呂上がりに塗っとけ。かゆみがある時は……あ〜、なるべく塗らせたくはねぇけど。極力、少量でステロイド剤な」



 「…はい。分かりました」





 最近は、この人の治療のおかげで冬の乾燥時も、そんなに酷くなく

 治癒ちゆは早かったりするんだけど、





 ────…いつだったか、

 私が、彼らとはじめて出会ったばかりの頃。


 思い返せば、たったの数ヶ月まえのハナシに遡る。





 私はもともと、肌のバリアが薄く、弱い。




 思春期から皮膚ひふ科医に通院していたことも手伝って、その頃よりは、

 皮膚 疾患しっかんが重度になることは少なくなったものの、

 痒みじたいが決して治まったワケではない。





 それが

 自分を毛嫌いする、要因のひとつでもあったりして、





 ────…ただ、確かに。




 多感な時期は、

 とくに他人と比較して、劣等感を抱くことも、それなりに多かった。


 それは20代前半になっても、

 コンプレックス部分はやっぱり、いつまでも付き纏って。





 ・・・・あぁ、

 あんな肌が羨ましい。





 羨望や嫉妬、脱力、劣等感。


 自分を負のループに追い詰めることを、とりわけ得意とする、自己の性質。





 ────…ある時、

 そんな自分の外側と内側と向き合うきっかけがあった折、

 それは、どちらも「自分」なのか、と。




 自分自身に対して同調してみた瞬間、なんだか胸を巣食っていた波のおり

 スッ────、と潮引いていき軽くなったような気がした。





 ・・・・ずっとしこりとして

 くっついて来ていた、"ナニカ"が。





 汚い自分も、良い自分も、こんなテンパる自分も、間違った考えのまま行動してしまう自分も。


 「悪」も「善」も、どちらも「自分」なんだ、と。





 ────…そんな、ことを

 ふと、自己分析していた時期だった。




 彼らと

 はじめての遭遇を果たしたのは。



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