第3話






 いつ、何時なんとき、乗車してみても慣れることはない。





 バーカウンターのようにセッティングされた、シャンパングラスたちや、

 質感のよい高級クッションシートで囲われた、リムジンの車内。




 そこで豪快に足を広げて座る、

 真正面の。





 相変わらず、食えないような笑みを浮かばせて

 乗り込んだ私を、紫煙越しに見下す、外見(だけの)派手な男。





 若干、薄暗い車内でも艶めいて耀くシルバーブルーの髪が、ゆったり、ウェーブを描いて白皙はくせきおもてを縁取り、

 幾房か、無造作に外跳ねしている。




 きれいに楕円だえんを描いた、透きとおるような銀色の瞳。


 高い鼻梁びりょう、ダークレッド色味の薄い唇。





 猛烈に美しくて、かつ、野生みを窺わせるが甘さはなく、

 決して、女性的にも見えない。





 スーツ着のがたいも、そればかりでなく

 衿もとが異様にはだけたシャツの隙間から除く胸板は、

 しっかりと鍛えられたであろう、男性のもの。




 皮肉っぽく笑みを滲ませたその男は、

 指先に挟んでいた煙草を、吸い殻に捻りつぶすと「ホレ、診察すっから服脱げ」と。





 これまた、セクハラ紛いのサイテー発言をするもんだから

 私も応戦して「…髪散らかし男め、」と奮然として悪態をこぼした。





 「あん?今なんつったお前、」


 「髪そんなに禿げ散らかして大丈夫ですかって言った」


 「嘘を吐け嘘を。おれサマの耳は誤魔化せねェぞ。てめぇ今、「髪散らかし男」っつったな「髪散らかし男」って」


 「…2回も言い直すくらいちゃんと聞いてるじゃないですか、」


 「おれのは髪散らかしたウチに入んねーんだよ、天然だ天然。天からの授かりモンだばぁか。…非常識なことばっかヌかしてっと乳揉むぞ」


 「……D以外は論外って言ったクセに卑怯者」





 あー論外だ論外。Aカップもねー生娘が調子こい、…ごにょごにょ、とまだ、言い足りない様子であろう男のセクハラ発言は、総無視して

 ストン、。




 静かに鎮座する、もうひとりの彼の隣に、私も腰を据え直した。





 同時に、動いた骨っぽい指先が

 私の頬に伸び、宥めるように手の甲で撫でられると、




 「…疲れたか、」と。

 労う声音が落とされて、





 「……ちょっと、だけ。たかだかアルバイト、なんですけどね…」



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