第2話






 「…フゥ、」





 白い息とともに、冬らしい季節の変革を視野に、取り入れながら。





 私は、スーッと鼻から深呼吸をすると、肺にはいった空気を

 今度は、口から小さく吐き出し。




 縮み上がっていた体内の、凡ゆる器官をほぐしたあと再び、

 立ち止まりかけていた重い足を、

 車体を横付けにしている、公園の入り口傍まで、運んでいった。





 ────コンコン、





 腰を屈め、後部座席側のフルスモーク硝子ガラスをいつものように、軽く、ノックする。





 すると、

 すぐに下に降りたウィンドウから、サングラスをかけたグレーブラックの髪の男が、「…終わったか?」と。




 なんとも、絡みつくような甘い重低音で私に問いを、投げかけたのだ。





 「……はい。今、お昼休憩になりました」


 「そうか」





 ふ、と綺麗な薄い唇が、甘やかに弧を描いて和らいだかと思えば。




 私の手首に吊り下がったシロモノを、薄暗いレンズ越しの奥の、流し目で捉えるなり、

 瞬時に、眉間に皺を寄せ、





 「…なんだ。今日は昼飯持ってきたのか」


 「あぁ、…ぁっはい。いつもいつも(健康的な)外食。は、……ちょっと。申し訳ないです。し、」





 お金もすべて持ってもらってる上、さすがに、してもらってばかりと言うのは、

 気が引ける。





 ・・・・それに、

 肌の調子も自分で見たいから、





 …と正しく心内こころうちでひっそり、思ったことだったのに、





 それらを丸ごと、筒抜かすかのごとく。


 彼の真横にいた男が、「…んあぁ、そういや最近、肌の調子悪ぃもんなァお前」と

 いつものごとく軽侮けいぶするように水を差したのである。





 挙句、「おれが懇切こんせつていねいに手塩にかけてお前診てやってるってのに、その態度。あったく勘弁してほしいぜ」なんて。





 まったく、一片も。




 これっぽっちもデリカシーの欠片もない横やりには、さすがの私も

 その、小綺麗に波うつシルバーブルーの、(持ち主とは、まったく釣り合ってない)

 繊細そうな髪をむんず、と引っ張ってやりたい衝動に駆られたのは、

 言うまでもない。





 プカプカ能天気に煙草を吹かしながら、はんッ、と鼻で嗤って

 毒づいてきたもんだから、今すぐ。


 何ならその高い鼻梁びりょうをへし折ってやりたいぐらいだ。





 「…余計なお世話ですね。だから言っ、」


 「寒いだろ。中に入れ」


 「……あ。あぁ、はぃ」


 「ハッ。ガキか」


 「…何か言いました?」


 「貧乳っつった」


 「ガキって言いましたよね」



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