『ゴミ掃除』が役立たずと追放されたが、実は『存在抹消』級のチートだった。勇者一行がゴミで溺れているが、俺は辺境で美少女と温泉宿を経営中なので手遅れです
第4話 廃棄された村に到着。邪魔な岩も古びた家も、スキルで一瞬にしてリフォーム完了
第4話 廃棄された村に到着。邪魔な岩も古びた家も、スキルで一瞬にしてリフォーム完了
「うわぁ……。これは、想像以上だね」
僕とフェリスの目の前に広がっていたのは、まさに『廃墟』という言葉がふさわしい光景だった。
石造りの門は半分崩れ落ち、村を囲む防壁はツタと苔に覆われて原型を留めていない。
村の中を見渡せば、家々の屋根は抜け落ち、道路は背丈の高い雑草で埋め尽くされている。
どこからともなくカラスの鳴き声が響き、風が吹くたびにギシギシと不気味な音が鳴る。
まさに、幽霊屋敷の集合体といった雰囲気だ。
『主よ、本当にここに住むのか? 鼻が曲がりそうなカビの臭いだぞ』
隣に立つフェリス(人型モード)が、可愛らしく鼻をつまんで顔をしかめた。
彼女は今、僕のシャツ一枚を身にまとった姿だ。
銀色の髪が風になびき、裾から覗く健康的な太腿が眩しいが、本人はそれどころではないらしい。
野生の勘が「ここは住処に適さない」と警告しているのだろう。
「普通ならそう思うよね。でも、僕には『宝の山』に見えるんだ」
僕は武者震いをした。
汚い。
圧倒的に汚い。
百年分の埃、風化、腐敗、そして放置されたゴミの山。
この村全体が、僕に「綺麗にしてくれ」と悲鳴を上げているように聞こえる。
掃除屋としての血が騒がないわけがない。
「よし、まずは玄関から綺麗にしようか。お客様を迎える顔だからね」
僕は崩れかけた村の正門に歩み寄った。
巨大な石柱はヒビだらけで、今にも倒れてきそうだ。
表面には分厚い苔が張り付き、石そのものが風化してボロボロになっている。
「対象指定、『表面の苔』『石の隙間の泥』『風化による脆化部分』『構造的な歪みという名のノイズ』」
僕の視界の中で、門が赤くハイライトされる。
ゴミとして認識された部分だ。
今回は少し範囲が広いし、対象も複雑だ。
単に汚れを取るだけじゃない。
『壊れている状態』そのものが、本来あるべき姿を損なう『汚れ』であると定義する。
「――『復元清掃(リストア・クリーン)』」
パァンッ!
乾いた音が響いた瞬間、世界が一変した。
フェリスが「ひゃっ!?」と小さく悲鳴を上げて後ずさる。
目の前にあったボロボロの石門が、白い光に包まれたかと思うと、次の瞬間には白亜の輝きを放つ新品同様のゲートへと変貌していたのだ。
絡みついていたツタは消滅し、ヒビ割れは『破損という汚れ』として除去された結果、石材同士が分子レベルで再結合して滑らかな表面を取り戻している。
苔むしていた石畳も、まるで今朝敷き詰められたかのようにピカピカだ。
『な……っ、ななな……っ!?』
フェリスが目を見開き、口をパクパクさせている。
彼女は恐る恐る、新しくなった門に触れた。
『冷たい……幻影ではない? それに、この硬度……さっきまで触れば崩れるほど脆かった石が、オリハルコン並みに硬化しているだと? 主よ、これは時間逆行の魔法か? それとも物質錬成か?』
「いや、ただの掃除だよ。石の表面の脆くなった部分を削り取って、綺麗に整えただけ。あ、ついでに『脆い』という概念もゴミ箱に捨てておいたから、当分は壊れないと思うよ」
『概念を……捨てる……?』
フェリスが頭を抱えた。
どうやら説明が下手だったらしい。
要するに、パソコンのデータ整理と同じだ。
『壊れかけ』という不要なデータを削除して、『正常』なデータだけを残した。それだけのことなのに。
「さあ、中に入ろう! まだまだ掃除するところは山積みだよ!」
僕は意気揚々と、生まれ変わった門をくぐり抜けた。
◇
村の中は、さらに惨憺たる有様だった。
メインストリートだったはずの場所には、崩落した建物の瓦礫が散乱し、巨大な岩が道を塞いでいる。
かつて広場だった場所は、毒々しい色のキノコと、トゲのある茨のジャングルになっていた。
「うーん、歩きにくいな。道を作ろう」
僕は歩きながら、右手を指揮者のように振るった。
「そこの岩、邪魔。『消去』。あ、その倒木も『回収』。道端の雑草は『草むしり(全消去)』」
シュン、シュン、シュンッ!
僕が指差すたびに、巨大な障害物が次々と消失していく。
十トンはありそうな巨岩が、音もなく空間から削り取られる。
足元に絡みつく茨の森は、根こそぎ『掃除』され、その下から美しい石畳の路面が顔を出す。
僕が歩いた後には、塵一つない完璧な道路が出来上がっていく。
まるで神様が消しゴムで世界の汚れを消しているような光景だ。
『……呆れた。国軍の工兵部隊が一年かけても終わらぬ整地作業を、散歩のついでに終わらせるとは』
フェリスは僕の後ろを歩きながら、呆れを通り越して感心していた。
彼女の裸足の足裏も汚れないよう、地面には『防汚コーティング(泥ハネ防止)』を施してある。
「あ、見てフェリス。あの建物、一番大きいね。村長の家かな?」
村の中央、小高い丘の上に建つ一際大きな屋敷。
かつては立派な木造建築だったのだろうが、今は屋根が半分抜け落ち、壁は腐って穴だらけ。
窓ガラスは一枚も残っておらず、中からはドス黒い瘴気すら漂っている。
『……あそこを拠点にするのか? あそこは酷いぞ。中にはジャイアントスパイダーの巣があるし、床下にはアンデッド化したネズミが大量に……』
フェリスの優れた嗅覚と聴覚が、屋敷の中の惨状を捉えたようだ。
彼女の尻尾が不安そうに丸まっている。
「虫とかネズミかぁ。それは衛生的に良くないね」
僕は屋敷の前に立ち、大きく深呼吸をした。
これは大仕事になりそうだ。
単なる掃除じゃない。
害虫駆除、構造補強、内装のリフォーム、それら全てを『掃除』の一言で片付ける。
「フェリス、ちょっと下がってて。埃が舞うかもしれないから」
『うむ。……といっても、主の掃除で埃が舞ったことなど一度もないがな』
僕は両手を屋敷に向けた。
イメージするのは、新築のモデルルーム。
清潔で、明るくて、住み心地の良い家。
不要なものは、全て『ゴミ』だ。
腐った木材はゴミ。
巣食う魔物もゴミ。
カビも、錆も、染み付いた臭いも、軋む床鳴りの音さえも、全てがゴミ。
「スキル全開。対象、屋敷とその敷地内にある『不快なもの全て』」
魔力が体内から溢れ出す。
今までで一番大きな出力だ。
「――『完全浄化(トータル・クリーニング・ハウス)』!!」
カッッッ!!!!
村全体を飲み込むような閃光が走った。
それは破壊の光ではない。
浄化の奔流だ。
屋敷を覆っていた黒い瘴気が、光に触れた瞬間に蒸発する。
中から「ギギギッ!?」という魔物たちの断末魔が聞こえた気がしたが、一瞬で静かになった。
光が収まった時。
そこには、奇跡が建っていた。
『……嘘、であろう?』
フェリスが目を見開いたまま固まっている。
腐り果てていた廃屋は消え失せていた。
代わりにそこに在るのは、飴色のニスが塗られた美しいログハウス風の洋館。
抜け落ちていた屋根は、新品の瓦で葺き替えられ(実際には散らばっていた瓦礫を『修復洗浄』して再配置した)、窓には透明度の高いガラス(割れた破片を融解・再構築して汚れを除去)が嵌め込まれている。
庭の雑草は消え、代わりに手入れされた芝生のような美しい緑が広がっている。
「ふぅ……。結構魔力使ったな」
僕は額の汗を拭った。
汗といっても、スキルが自動的に皮膚の不快感を除去するので、サラサラとした爽やかなものだが。
「中に入ってみようか」
扉を開ける。
キィ……という錆びついた音はしない。
無音で滑らかに開いた扉の先には、広々としたロビーが広がっていた。
床はピカピカに磨き上げられ、天井からはシャンデリア(蜘蛛の巣まみれだった金属塊を研磨したもの)が輝いている。
空気は清浄で、木のいい香りがした。
『信じられん……。魔王城の貴賓室より美しいぞ……』
フェリスが恐る恐る中に入り、キョロキョロと辺りを見回す。
『蜘蛛は? ネズミは? あの不快な気配はどこへ行った?』
「全部『片付け』たよ。命あるものでも、住居に不法侵入して環境を悪化させるなら、それは『害虫』というカテゴリのゴミだからね」
僕は冷徹な掃除屋の論理を口にした。
平和主義者だが、衛生環境を脅かす敵には容赦しない。
「二階に寝室があるはずだ。ベッドの状態を見てみよう」
階段を上がる。
かつては踏み抜くほど腐っていた階段も、今は頑丈そのものだ。
主寝室に入ると、そこにはキングサイズのベッドがあった。
元々はボロボロの布切れと藁の山だったものだ。
だが今は、僕の『繊維洗浄・弾力復元』スキルによって、最高級の羽毛布団とスプリングマットレスに生まれ変わっている。
『ふわぁ……』
フェリスが吸い寄せられるようにベッドに近づく。
そして、勢いよくダイブした。
ボフンッ!
『んあぁ〜……! なんだこれは、雲か? 私は雲の上にいるのか?』
シーツに顔を埋め、足をバタバタさせて悶えている。
尻尾がちぎれんばかりに振られているのを見て、僕は安堵した。
「気に入ってくれたみたいだね。今日からはここが僕たちの家だ」
『最高だ、主よ! 一生ここから出たくない! あ、でも腹が減ったら起きるぞ』
フェリスはゴロゴロと喉を鳴らしながら、ベッドの上で丸まった。
まさに大型犬――いや、大型狼だ。
僕は窓辺に立ち、綺麗になった村を見下ろした。
まだ屋敷とメインストリートだけだが、確実にここは『人の住める場所』になりつつある。
いや、ただ住めるだけじゃない。
僕のスキルがあれば、世界一清潔で快適な楽園を作れるはずだ。
「……さてと」
僕はポーチからタオルを取り出した。
家は綺麗になった。
寝床も確保した。
となれば、次に欲しくなるのは『あれ』だ。
「お風呂、入りたいなぁ」
汗をかいた後は、湯船に浸かりたい。
日本人の魂がそう叫んでいる。
この村は元々、湯治場だったと聞く。
ならば、どこかに水源があるはずだ。
今日はもう遅いから、明日からは温泉探しを始めよう。
◇
一方その頃。
アレクを追放して四日目を迎えた勇者パーティ『天剣の翼』は、ダンジョン内で絶体絶命のピンチに陥っていた。
「くそっ! なんだこの硬さは!?」
勇者ライオットが叫ぶ。
彼らの目の前にいるのは、『アイアン・タートル』。
鉄のような甲羅を持つ巨大な亀の魔物だ。
以前なら、ライオットの聖剣技『光断』で一撃のもとに切り裂けた相手だ。
ガキンッ!!
鈍い音が響き、ライオットの手首に激痛が走る。
聖剣が弾かれたのだ。
「馬鹿な……!? 俺の剣が通じないだと!? 切れ味が落ちているのか!?」
「きゃあっ! いやっ、来ないで!」
後方では、聖女ミナが逃げ惑っていた。
彼女の聖なる結界は、亀が吐き出す酸のブレスであっさりと溶かされていた。
今まではアレクが、結界に付着した酸をリアルタイムで『中和洗浄』していたため、結界が保たれていたことに彼女は気づいていない。
「お、俺の斧がぁぁぁ!!」
戦士ボランの悲鳴が上がる。
彼の自慢のグレートアックスが、亀の甲羅を叩いた拍子に、柄からポッキリと折れたのだ。
金属疲労。
長年の激戦で蓄積したダメージを、アレクが毎日『除去』していたからこそ保っていた寿命が、ついに尽きたのだ。
「ひぃぃっ! 杖が! 杖の魔石が砕けた!」
大賢者ガイルもまた、魔法の暴発によって杖を破損させていた。
杖の先端に溜まる『魔力の煤(すす)』を掃除していなかったため、回路が詰まり、逆流したのだ。
「撤退だ! 一度引くぞ!!」
ライオットが屈辱に顔を歪めながら叫ぶ。
Sランクパーティが、たかが中層の魔物相手に背中を見せて逃げ出す。
それは彼らのプライドをズタズタに切り裂く敗走だった。
「なんでだ……! なんで急に何もかもうまくいかなくなったんだ!」
「武器屋だ! あの街の武器屋が不良品を売りつけやがったんだ!」
「そうだわ! あの三流鍛冶師のせいですわ!」
彼らはまだ、認めようとしない。
自分たちの装備が常に最高だった理由も、野営地が快適だった理由も。
全てが、あの一人の『掃除屋』のおかげだったという事実を。
泥まみれになり、装備を失い、ボロボロになって逃げ惑うかつての英雄たち。
その姿は、皮肉にもアレクが処理してきた『ゴミ』そのものだった。
◇
翌朝。
小鳥のさえずりと共に目を覚ました僕は、最高に爽やかな気分だった。
隣ではフェリスが、僕の腕を抱き枕にして幸せそうに寝ている。
彼女の銀髪からは、昨夜僕が『ドライシャンプー(皮脂除去)』したおかげで、フローラルのようないい香りがした。
「さて、今日も働きますか」
僕はそっと腕を抜き、ベッドを降りた。
今日は重要なミッションがある。
「水だ。水がなければ、掃除も洗濯も、そしてお風呂も始まらない」
この屋敷には水道管のような設備跡があるが、蛇口をひねっても赤錆が落ちてくるだけだ。
水源が枯れているのか、パイプが詰まっているのか。
「フェリス、起きれる? 裏山の水源を見に行きたいんだけど」
『んん……主よぉ……あと五分……いや、五時間……』
「起きたら、最高に気持ちいい『お湯』に入れてあげるから」
『お湯……?』
フェリスの耳がピクリと動いた。
彼女は獣の本能で、僕の提案する『気持ちいいこと』がハズレではないと察知したらしい。
ガバッと起き上がり、真紅の瞳を輝かせた。
『行くぞ! 今すぐ行くぞ! 主の言う「お湯」とやらが、あのブラッシングを超える快楽だというなら、私は地獄の底までついて行く!』
「地獄じゃなくて、裏山だけどね」
期待に胸を膨らませる一人と一匹。
僕たちは、まだ見ぬ『奇跡の温泉』を求めて、屋敷の裏へと足を向けた。
まさかそこで、とんでもないものを『掃除』することになるとは知らずに。
続く
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