第5話 警戒ではなかった?


ドラゴンは人類の言葉を操る事が出来た。

だが、それは完璧ではない。

そのためか、時々理解が出来ない事がある。

五百年前、勇者アーク達と行動をしていた時もそうだった。


「あんたに惚れてるって事さ」


「惚れている……私を好きだという事ですか?」


「そうさ。あんただって経験あるだろ?好きな相手の前で顔が熱くなった事」


「いえ、ありませんが?」


もちろんそんな経験はない。

そもそも、ドラゴンは普通、顔の色が変わったりしないからな。

赤だ青だと色を変える、不気味なドラゴンがいるのなら見てみたいものである。


「え?あんたの歳で……って、そういや記憶喪失だったね。そりゃ覚えてる訳ないか。こりゃ失言だったね」


「お気になさらずに。それで……彼は私が好きで、顏を赤くしていたという訳ですか?にわかには信じられない話なのですが?」


「顔を真っ赤にして挙動不審なのは、確実にその証拠さ。特に若い子らはその辺り顕著なもんよ」


ベリスが自信あり気にそう答える。

彼女がここまで断言するのなら、まあきっとそうなのだろう。

付き合いは長くはないが、嘘を吐く様な人物でないからな。


とりあえず……挙動不審で顔が赤いのが私に惚れた結果というなら、ドラゴンである事はバレていない様だな。


私はほっと胸をなでおろす。

そして同時に疑問が湧き上がってきて、ベリスへとその疑問を問いかけた。


「しかし、彼は何故私の事を好きになったのでしょうか?私はこの屋敷に来てまだ日が浅いですし、彼と特に親しかった訳でもありません。好きになる様な理由などない気がしますが?」


「……あんた、本気で言ってるのかい?」


私の疑問に、ベリスが目を剥く。

何をそんなに驚いているのだろうか?


「はい」


「……いや、いやいやいや!あんた……自分がどんな姿をしてるかは分かってるわよね?」


「はい。それはまあ」


当然だ。

ポリモーフ後の姿は正確に把握している。


「だったらなんでかは……って、記憶喪失になるとその辺りも分からなくなるもんなのかねぇ……」


ベリスが小声でぼそぼそと、独り言のように呟く。


「まあいいわ。自分では何とも思ってないかもしれないけど、あんたは………びっくりするほど綺麗な顔をしてるのよ。それこそ、女の私が見ほれるレベルのね」


「はぁ……」


それがなんだというのだろうか?


人間の美的感覚への理解は浅いので、美醜のランクという物を精密に把握できていないのは確かだ。

だがそれと、異性を好きになる事と何の関係があるのか、それが全く理解できない。


「あと、スタイルもそれじゃねぇ。細いのに胸バーンだ。そりゃ男共も気が気でないってもんさ」


「男共?チャゴ以外も私に惚れていると?」


「あんた……あれだけ男共の視線を集めてて、そんな事にも気づいてなかったのかい?」


視線が向けられる……

てっきり、私の事を警戒して見張っていたのだとばかり思っていたが……ひょっとして、全員私を異性として興味があって視線を向けていたという事か?


「てっきり、身元の良く分からない私を警戒して見張っていたとばかり思ってました」


「ぶははははは!そんな訳ないじゃないか!他の貴族家なら兎も角、こんな何もない……ああいや、メイドのあたしが言うのはあれだけどさ。とにかく、今のペンドラゴン家に入り込んで悪さを働こうとするような奴なんていやしないさ」


そういう物だろうか?

まあ、言葉半分に聞いておこう。

警戒されていないと油断して、ドラゴンとしての尻尾を晒す羽目になっては不味いので。


「しかし……見た目だけで誰かを好きになるなんて事、本当にあるのでしょうか?」


見た目だけで誰かを好きになるなど、愚か極まりない。

ドラゴンの私からすれば正直信じがたい話である。


「そりゃもう。あたしだって経験あるからね。アーク様は綺麗な顔立ちしてるだろ?」


「ええ、まあそうですね」


良く分からないが、まあそうなのだろう。

たぶん。


「アーク様はお父様似でさ。それで、先代当主様はそりゃーーーーーー、もう素敵な顔をしてらしてね。初めて見た瞬間、もう、こう、ハートをズキュンって感じよ」


ベリスがうっとりした表情になる。

どうやら彼女は、先代当主に惚れていた様だ。

しかも話を聞く限り、見た目だけで。


「そうなのですか」


「ええ、もう一目で夢中になったわよ。ま、身分違いで結局結ばれなかったけどね。苦い恋の思い出って奴よ」


人間の世界では、身分が違うと番になれないルールがあった。

正直、意味不明なシステムだ。


血筋の保護による、才能の有無を守ろうとしているのならばまだ分かる。

だが人間のそれは、単に権力の有無で引かれる線でしかない。


能力ではなく、ただの生まれのみで判断する事に、いったい何の意味があると言うのか?

人間というのは、本当に不可思議な社会形態を持つ生き物である。


「アーク様も、その内とんでもない男前に成長なさるだろうから。そうなったら、嫌でもあんたにも分かるだろうさ。美しさが孕む罪って奴をね」


「はぁ……」


私が人間だったなら、ベリスの言う通り、それを知る事が出来たかもしれない。

だが私はドラゴンだ。

この先、アークの見た目がどう変化していこうと、人間のような感情を持つことはないだろう。


なにせ、種自体が違う訳だからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

最強ドラゴンメイドの恩返し~かつてと現在、二つの恩を返すべく元竜王は残り少ない寿命を没落男爵家に捧げる~ まんじ @11922960

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画