第4話 バレた?

「終わったのかい?」


「はい。お待たせしました」


午前中の担当エリアを終え、私は既に掃除を終えていたもう一人のメイドと中庭で合流する。


彼女の名はベリス・ウェル。

勤続三十年程のベテランメイドで、体格は太め。

年齢は四十半ばとの事。


ベテランだけあって、彼女は仕事がとても早い。

掃除も、私より広範囲をカバーしているにも関わらず、既に終わらせて次の仕事の準備を始めている程だ。


因みに、これからするのは洗濯である。

当主であるアークは元より、執事を含めた従業員、兵士達の衣類も洗わなければならないので、その量はかなりの物となっている。

なので、結構な重労働と言って良い。


まあ衰えたとはいえ、私はドラゴンなので別に苦ではないが。

重労働というのは、あくまでも人間にとっての話だ。


「いやー、ドラメちゃんのお陰で助かるわー」


人の腰くらいまであるサイズの水樽に入った水を使い、汚れた衣類を洗っているとベリスがそんな事を言ってくる。


「以前は井戸から水を汲む必要があったけど、あんたのお陰でその作業から解放されたからねぇ。ほんっと、腰が楽になったわ」


洗濯は井戸を使って地下水をくみ上げ、それを樽にためてから行うのが以前の方法だった。

そしてどうやらこの井戸はかなり深いらしく。

水の汲み上げは、女性であるにベリスとって結構なきつい物だったそうな。


だが私は魔法が使えるので、魔法で簡単に水を張れるようになって大喜びって訳だ。


因みに、魔法に関する記憶は残っているという事にしてある。

都合のいい記憶喪失だが、まあ使ってからそういや記憶喪失設定だったと気づいたのだから仕方ない。


「お役に立ててよかったです」


「ほんと、大助かりだよ。私一人の時は、掃除洗濯で1日の大半が終わってたからね。メイドだって野に、アーク様の世話なんてとてもじゃないけど出来たもんじゃない」


あんたの手際がもう少しよくなったら、昼寝だって夢じゃない。

そう付け加えてベリスは豪快に笑う。


特段彼女に昼寝をさせてやりたいとは思ってはいないが、仕事のスピードアップは確かに図りたい所ではあった。

私は恩返しのためにここにいる訳で、仕事に追われてそれにかまけている今の状態では、とてもそれを果たせそうにない。

なので、メイドとしての技量向上は必須事項となっている感じだ。


「あ、あの……ドラメイドさん」


洗濯をしていると、男性が寄ってきた。

名前は憶えていないが、男爵家に雇われている兵士の一人だったはず。

年のころは二十前後。

顔にそばかすの浮く、赤毛短髪の青年だ。


「出し忘れてたのがあって……これもお願いしていいですか?」


「構いませんよ」


私は青年から汚れた衣類を受け取る。

その際、私の手が相手の手に触れてしまったのだが――


「あっ……」


青年がへんな声を漏らした。

なぜ急に変な声を?


まさか……私がドラゴンである事に気づかれたか?


人間の中には、極稀に特殊な能力を持つ者が生まれると聞く。

触れた相手の種族を見抜く様な能力をこの青年が持っていた場合、私の正体が見抜かれた可能性が高い。


不味いな。

アークはドラゴン嫌いだ。

理由は分からないが。

なので、今正体がバレるのは宜しくない。


「あ……う……その……」


「……」


青年を見ると、彼の顔は真っ赤だった。

目の前のメイドがドラゴンと知り、恐怖に顔を赤らめて……いや、たしか恐怖した際は白や青だったはず。

なのに何故赤いんだ?


色が変化しているので、何らかの強い感情の発露があるのは分かるが、それがどういった感情なのか私には分からない。

やはりドラゴンでは、人間の機微を完全に把握するのは難しい。


とにかく、恐怖でないのならまだバレていない可能性もありえる。

確認しなければ。


「なぜそんなに狼狽えているのですか?」


「あ、いや……その……手が……」


言語が不明瞭だ。

それだけを切り取れば、恐怖を感じている様にも見える。


どっちだ?

気づいたのか?

気づいていないのか?


「手?手がどうしたんです?」


手に何かあるのかと思い、彼の手を掴んで引き寄せ、色々と触って確認してみる。

すると――


「ドドド……ドラメイドさんが俺の手を……ふぁーーーー!」


「!?」


変な声を上げて、青年は倒れてしまう。


なんだ?

一体何が起きた?

私は何もしていないぞ?


「あんたも罪な女だねぇ」


意味が分からず混乱していると、背後からベリスが私の肩に手を置く。

振り返って彼女の顔を見ると、何故か楽し気な感じでにやにやしていた。


「罪?どういう事です?」


彼女は何が起きたのか知っている。

そう思い、私は言葉の意味を訪ねた。


まさか……実は彼女も、私がドラゴンである事を見抜いているんじゃなかろうな?


「チャゴはあんたに気があるのさ」


「き?」


……?

きとはなんだ?


ベリスの言葉の意味が分からず、私は首を傾げた。

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