第4話 間話

天城真白という名の、人間。


アマギ・マシロ。


その名は、転生後に与えられたものだ。


だが、かつて――

天城真白という少年が、確かに存在していた。


彼は、普通の高校生だった。

成績は中の下。

運動は苦手。

そして、太っていた。


それだけで、理由は十分だった。


「くせぇ」

「豚」

「存在が迷惑」


言葉は、日常だった。

教室で、廊下で、SNSで。


最初は笑って耐えた。

次は無視した。

最後は、声が出なくなった。


教科書は破られ、体操服は隠され、机の中にはゴミが詰められる。


教師は言った。


「気にしすぎじゃないか?」


親は言った。


「我慢しなさい」


――逃げ場は、どこにもなかった。


精神は、静かに壊れた。

夜、眠れない。

朝、起きられない。

鏡に映る自分が、他人に見えた。


高校二年、一学期。

天城真白は退学した。


「社会に出るには早すぎる」

「やり直せる」


そんな言葉は、もう意味を持たなかった。


転機は、叔父だった。

中東を渡り歩く、戦場カメラマン。

その男の一言は、短かった。


「……行くか?」


逃げる場所として。

消える場所として。


真白は、うなずいた。


中東は、地獄だった。

入国して三ヶ月。

武装組織に拉致された。


選択肢は一つ。


生きるために、撃て。


名前は捨てられ、年齢も関係なく…この国での命の価値は、弾丸一発分しか無い。


そして二年間が過ぎた。

殺し殺されかけ、仲間が死に敵が死んだ。


恐怖は消えた。

代わりに、感情そのものが人外になった。


十八歳になり復興を進める人物に発見され、奇跡的に生還した。


戦場では英雄だった。

だが戦争の無い日本に戻った真白を、誰も英雄とは呼ばなかった。


だが、彼は探した…それは自身の存在意義を見出す為に。


――かつて、自分を壊した者たちを。


一人ずつ。

確実に。


男女は関係ない。

謝罪も、命乞いも、意味はなかった。


それは、十六人。


復讐ではない。

清算だった。


当然、警察は動いた。

真白は、ロシアへ亡命した。

命が惜しかったわけでは無い…存在意義を探す為だった。


そしてまた、戦地へ。


死は、北京で訪れた。

爆発。

混乱。

逃げ惑う人々。


その中で、泣き叫ぶ日本人の子供がいた。


考える前に、身体が動いた。


抱き寄せ、覆いかぶさる。


――爆風。


それが、天城真白の最期だった。


そして今。


流刑島で、魔王として立つ男がいる。


彼は、かつて守られなかった。

だから、守るという概念を捨てた。


彼は、救われなかった。

だから、救いを与えない。


アマギ・マシロは、最初から怪物だったわけではない。


世界が、そう作っただけだ。


そして――

次に壊されるのは、彼を生み出した王国である。

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