第3話
異変は、あまりにも些細な違和感から始まった。
「……流刑島からの定期報告が、三週間届いておりません」
王城・執務室。
老齢の文官が、恐る恐る切り出した。
「遅延だろう」
即答したのは宰相だった…眉一つ動かさない。
「嵐の季節だ。船が出せないこともある」
「しかし、緊急連絡用の魔導通信も――」
「壊れたのだろう」
重ねて即答する宰相は、それ以上の議論を許さない声音で示す。
場にいる全員が理解していた。
問題は異変ではない、責任だ…と。
流刑島は王国の汚点でもある、
冤罪者、政敵、邪魔者――公式記録には残せない人間の存在を消す場所。
「余計な詮索は不要だ」
宰相は書類に視線を落とす。
「どうせ囚人同士で殺し合っているのだろう。看守が多少減ったところで、問題にはならん」
武器や武具のある看守によって制圧される。
その言葉に、誰も反論しなかった。
だが、誰かが疑問を言葉にする。
「……おかしいですね」
若い監察官が、小さく呟いた。
「補給物資の受領確認も、途絶えています」
「囚人が勝手に食い尽くしたのだろう」
「いえ。受領印が押されていないのです」
空気が、わずかに揺れた。
受領印は、看守長の個人印だ。
無断欠如は重罪。
「……看守長は?」
「三週間前の報告を最後に、音信不通です」
宰相が、初めて顔を上げた。
「……事故死と処理しろ」
「は?」
「病死だ。流刑島ではよくある」
誰もが耳を疑った。
「記録を書き換えろ。遺体は――海に捨てられた、でいい」
沈黙。
だが、その沈黙は同意ではなかった。
「失礼ですが」
監察官が一歩前に出る。
「既に、矛盾が発生しています」
「何だと?」
「看守長の病死日以降も、彼の筆跡で記された命令書が存在します」
宰相の顔が、引き攣った。
「……誰が気づいた」
「私です」
若者は淡々と言う。
「そして――既に写しは、騎士団本部にも提出済みです」
部屋の空気が、凍りついた。
その夜。
王太子の私室に、報告が入る。
「……流刑島が?」
「はい。通信断絶、看守全滅の可能性あり…との事です」
王太子は、不機嫌そうに鼻を鳴らした。
「たかが島一つだろう。どうでもいい」
「しかし……例の終身刑囚、アマギ・マシロの件が――」
ピクリ、と指が止まる。
「……ああ。あの平民か」
「その、彼の処刑報告が――存在しません」
沈黙。
王太子は、ゆっくりと立ち上がった。
「……聖女は?」
「ご健在です」
「なら問題ない」
言い切ったが、声はわずかに掠れていた。
翌日。
王城に、一つの結論が出された。
流刑島は反乱を起こした
首謀者は不明
調査隊を派遣する
責任は曖昧に。
罪は島に押し付ける。
だが――遅すぎた。
流刑島では既に、看守の制服が焼かれ、王国の旗が引き裂かれていた。
そして、海を見下ろす岩山で腕を組む男がいた。
「……来るか」
マシロは、水平線を見つめる。
「調査隊。もしくは、討伐軍」
どちらでもいい。
「王国が、俺の存在に気づいたなら」
唇が、静かに歪む。
「次は――こちらから出向いてやる」
破壊帝は、初めて“王国”を正面から見た。
それは、
滅ぼす対象ではなく、奪う対象として。
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