「君の小説は国益に反する」と追放されたが、私の本業は極道の娘です。背中の刺青(観音様)が覚醒したので、言論弾圧する独裁政権を物理的に破壊することにしました
第9話:混成部隊(ミックスト・トループ)の初陣
第9話:混成部隊(ミックスト・トループ)の初陣
夜明け前のダムサイトは、異様な緊張感に包まれていた。
焚き火を囲む二つの集団。
片や、刺青を入れた強面の男たち――辰田(たつた)組のヤクザ。
片や、ヘルメットやタオルで顔を隠し、鋭い眼光を放つ男たち――晴天同盟の活動家。
本来なら殺し合っていてもおかしくない両者が、今は同じ釜の飯――非常用の乾パンと缶詰だが――を食っている。空気は張り詰め、些細なきっかけで爆発しそうだった。
「おい、アカの兄ちゃんよ。俺の缶詰に手ェ出してんじゃねえぞ」
「……『共有財産』だ。独占資本主義的な考えは捨てろ、ヤクザ風情が」
「ああん? やるかコラ」
組の若衆と活動家が掴み合いになりかけたその時、鋭い声が飛んだ。
「そこまでだ。……くだらん内輪揉めをしてる暇があったら、銃の手入れでもしてろ」
父・剛(ごう)が、日本刀の柄(つか)で地面を叩いた。
同時に、晴天同盟の議長・葛原(くずはら)も眼鏡の奥で目を細める。
「そうだ。我々の敵は目の前のゴロツキではない。国家権力だ。……目的を見失うな」
二人のボスの仲裁により、男たちはバツが悪そうに離れた。
私はその様子を、少し離れた場所から見ていた。
隣には、瑛司(えいじ)がいる。彼は白いものが混じり始めた前髪を気にする様子もなく、真剣な眼差しで地図を広げていた。
「……前途多難ですね、お嬢」
「ええ。でも、意外といいコンビになるかもしれないわよ」
「買い被りすぎですよ」
瑛司は苦笑したが、その目は笑っていなかった。
私たちの目の前にある地図。そこに赤いバツ印が付けられた場所。
それが、私たちの最初のターゲットだった。
――日昇(にっしょう)県沿岸部、旧国立電波塔施設。
震災後、自衛隊によって接収され、現在は軍事通信の要衝となっている要塞だ。
*
作戦会議が始まった。
コンクリートのブロックを机代わりに、剛、葛原、私、そして瑛司が顔を突き合わせる。
「狙いはこの電波塔だ」
葛原が指示棒で地図を叩いた。
「現在、日昇県の情報網は完全に遮断されている。ネットも電話も、軍の検閲下にあるイントラネットしか使えない。……だが、この旧式の電波塔を制圧し、我々の機材でジャックすれば、県内全域、うまくいけば関東圏まで『生の電波』を飛ばすことができる」
「なるほど」
父が頷く。「紗矢が持ってる『ネタ』をバラ撒くには、最高の拡声器ってわけか」
「ああ。だが、守りは堅いぞ。駐留しているのは陸上自衛隊の機械化歩兵小隊。それに……」
葛原の声が低くなった。
「『化け物』がいるという情報がある」
「化け物?」
「ああ。最近配備された特殊部隊だ。姿を見た者はいないが、夜な夜な獣のような咆哮が聞こえるらしい。……お前たちの『獣神化』と同じ力を持った奴らだとしたら、厄介だぞ」
瑛司の眉がピクリと動く。
私たちが使った「古代インク」の力。国もそれを実用化しているのなら、ここで激突することになる。
「……私がやります」
瑛司が静かに言った。「敵が獣なら、俺が相手になる。その間に、親父や葛原さんたちが施設を制圧してください」
「無茶だ、瑛司」
私が止めようとすると、彼は首を振った。
「お嬢。俺の命は、このためにあるんです。……それに、お嬢には『書く』仕事があるでしょう?」
瑛司の視線が、私の手元にあるノートに向けられた。
そこには、私が昨晩、徹夜で推敲した原稿が書かれている。
『日昇(にっしょう)独立宣言』。
電波塔をジャックした直後に読み上げる、革命の声明文だ。
「……分かったわ」
私は覚悟を決めた。「瑛司、背中は預けるわよ。……でも、絶対に死なないで」
「御意」
*
作戦決行は、月が雲に隠れた深夜零時。
闇に紛れ、私たちは電波塔施設への接近を開始した。
先陣を切るのは、晴天同盟の精鋭たちだ。彼らは手製のドローンを低空で飛ばし、監視カメラの死角を探りながら、電子ロックをハッキングしていく。
その手際の良さは、さすが長年国家権力と鬼ごっこをしてきたプロだ。
「ゲート、開きます」
ウィィン……という駆動音と共に、フェンスのゲートが開く。
その瞬間、警報サイレンが鳴り響いた。
「バレたか! 強行突入だ!」
父・剛の号令と共に、辰田組の男たちが躍り出た。
彼らの武器は、ドスや木刀、そして奪った数丁の拳銃。火力では圧倒的に劣る。
だが、彼らには「任侠」という名のブーストがかかっていた。
「オラァァァ! ここはお前らの土地じゃねえ! 俺たちのシマだッ!」
「どけえええッ!」
サーチライトが交錯する中、ヤクザたちが自衛隊員に肉薄する。
驚いたのは自衛隊の方だった。
近代戦の訓練を受けた彼らにとって、セオリー無視で突っ込んでくるヤクザの喧嘩殺法は予想外だったのだ。
さらに、後方から晴天同盟が火炎瓶や発煙筒を投げ込む。
炎と煙が視界を奪い、戦場はカオスと化した。
右と左の混成部隊(ミックスト・トループ)。
計算された撹乱(かくらん)と、無軌道な暴力。その不協和音が、奇跡的な相乗効果を生んでいた。
「行くわよ、瑛司!」
「はいッ!」
混乱に乗じて、私と瑛司が飛び出した。
目指すは中央管理棟。
その時。
管理棟の屋上から、巨大な影が飛び降りてきた。
ズドンッ!!
地面が陥没し、アスファルトの破片が飛び散る。
土煙の中から現れたのは、身長三メートルほどの異形の怪物だった。
全身が黒い体毛に覆われ、両腕が異常に発達した類人猿のような姿。
その背中には、無理やり焼き付けられたような刺青が赤く発光している。
『ガァァァァァッ!!』
怪物が咆哮し、近くにいた晴天同盟の活動家を殴り飛ばした。
人間がボールのように吹き飛び、壁に叩きつけられる。即死だ。
「なっ……なんだあれは!?」
「ゴリラ……いや、鬼か!?」
これが、葛原の言っていた「化け物」。
国の手による人造獣人兵器。
だが、その目は瑛司のように理性的ではなかった。白目を剥き、ただ破壊衝動のみで動く、哀れな殺戮マシーン。
「……下衆(げす)な真似を」
瑛司が吐き捨てるように言った。
彼は走りながらシャツを脱ぎ捨て、背中を露わにする。
「お嬢、乗ってください!」
私は走りながら、彼の背中に手をかけた。
瑛司の体が青白い光に包まれる。
「――獣神化(ビースト・モード)ッ!」
光の爆発と共に、巨大な雄鹿が顕現した。
私はその背中に飛び乗る。
視界が高くなる。戦場が一望できる。
眼下の黒い獣人が、こちらを見上げて威嚇するが、瑛司の巨体(五メートル級)に比べれば子供のようなものだ。
「蹴散らせ、瑛司!」
瑛司が前脚を高く掲げ、踏み潰しにかかる。
だが、敵も速い。横っ飛びに回避し、瑛司の脚に噛み付こうとする。
「させないッ!」
私は鹿の背中で弓を引き絞った。
救世観音の刺青が熱く脈動する。
狙うのは、敵の眉間一点。
「――貫け!」
ヒュンッ!
放たれた光の矢は、闇を切り裂き、回避行動をとった敵の脳天に突き刺さった。
『ギャッ!?』
断末魔と共に、黒い獣人が光の粒子となって崩れ落ちていく。
私の矢には「浄化」の力が宿っているのか、その消滅はどこか安らかなものに見えた。
「すごい……一撃かよ」
「あのお嬢、マジで観音様じゃねえのか……」
味方のヤクザたちからも感嘆の声が上がる。
私たちの姿――光り輝く巨鹿と、その背で弓を構える和装の女――は、混成部隊の士気を爆発的に高めた。
「見ろ! 俺たちには『女神』がついてるぞ!」
「行けぇぇぇッ! 自衛隊なんぞ恐るるに足らん!」
形勢は決した。
瑛司はそのまま中央管理棟の壁を角で粉砕し、内部への侵入口をこじ開けた。
私は鹿から飛び降り、マイクと放送機材を持った葛原たちと共に、放送室へと雪崩れ込んだ。
*
放送室を制圧し、葛原が手際よく回線をジャックする。
軍のセキュリティを突破し、日昇県内のあらゆるテレビ、ラジオ、そして防災無線に強制的に割り込む。
「準備完了だ。……さあ、マイクはお前のものだ、作家先生」
葛原がニヤリと笑い、私にハンドマイクを渡した。
私は深呼吸をした。
手の震えはない。
私は作家だ。言葉を紡ぐことこそが、私の戦い。
ON AIRのランプが赤く灯る。
「……日昇県の皆さん。そして、この放送を聞いている、すべての日本国民の皆さん」
私の声が、電波に乗って夜の街へ、仮設住宅へ、そしてスマホの画面へと広がっていく。
「私は、辰田紗矢。かつて『売国奴の娘』と呼ばれた、小説家です」
私は言葉を選び、丁寧に、しかし力強く語りかけた。
あの日、この土地で何が起きたのか。
私たちが何を目撃し、何のために立ち上がったのか。
そして、政府がいかにして国民を欺いているか。
「私たちは、テロリストではありません。奪われた故郷と、尊厳を取り戻すために立ち上がった、ただの市民です」
モニター越しに、県内各地の様子が映し出される。
家の中で、避難所で、人々が食い入るように画面を見つめている。
「私は宣言します。本日、この日昇県は、腐敗した錦川政権からの独立を。……私たちの命は、国の実験材料ではありません」
最後に、私はカメラを見据えて言った。
「戦いは始まりました。……立ち上がってください。あなたの隣人を守るために。あなたの愛する故郷を守るために」
放送を終えた瞬間、どっと疲れが出た。
だが、すぐに歓声が聞こえた。
窓の外、制圧した施設の中で、ヤクザと活動家たちが肩を組んで叫んでいる。
そして、遠くの街からも――車のクラクションや、鍋を叩く音が、呼応するように聞こえてきた。
狼煙(のろし)は上がった。
もう、後戻りはできない。
瑛司が、人間の姿に戻って(服を着て)部屋に入ってきた。その顔には疲労の色が濃いが、誇らしげに微笑んでいた。
「最高の演説でしたよ、お嬢」
私は彼に微笑み返した。
これが、私たちの革命の第一歩。
混成部隊の初陣は、大勝利に終わったのだ。
(第9話 完)
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