第2話「元カレ同盟、駒たちを魅了する女」

 復讐を決意してから三日後、私は銀座の高級ホテルのラウンジにいた。


 窓の外には夜景が広がっている。きらめくネオン、行き交う人々。この街のどこかに、美咲も、麻衣も、大輔もいる。私を裏切った三人が、何食わぬ顔で生きている。


 許せない。


 私は——グラスに注がれたシャンパンを一口飲んだ。


 そして——待った。


 五分後。


 ラウンジのドアが開いて、一人の男が入ってきた。


 涼太——二十八歳、フリーのカメラマン。


 細身で、繊細そうな顔立ち。黒いシャツに、ジーンズ。カジュアルだけど、どこか儚げな雰囲気がある。


 美咲の——元カレ。


 美咲が「しつこい」「うざい」「別れて正解だった」と笑っていた男。


 涼太は——私を見つけて、近づいてきた。


「優里さん……お久しぶりです」


 私は——微笑んだ。


「久しぶり、涼太くん。座って」


 涼太は——私の向かいに座ろうとした。


 でも——私は彼の手を取った。


「こっち」


 私の——隣。


 至近距離。


 涼太は——戸惑った顔をした。


「あの……近くないですか?」


「気になる?」


 私は——涼太を見つめた。


 彼の目が——泳ぐ。


 私の髪が、涼太の肩に触れる。


 彼の呼吸が——少し速くなった。


「優里さん……美咲の、親友の……」


「元・親友ね」


 私は——涼太のネクタイに手を伸ばした。


 少し曲がっていたネクタイを、ゆっくりと直す。


 私の指が——涼太の首筋に触れた。


 涼太の体が——ビクッと震えた。


「美咲ね」私は囁いた。「あなたのネクタイ、いつも曲がってるって笑ってたわよ」


 涼太の顔が——歪んだ。


「彼女……そんなこと言ってたんですか」


「ええ」私は微笑んだ。「『涼太って不器用だよね』『稼ぎも少ないし』『別れて正解だった』って」


 涼太の拳が——震えた。


「でも私は——」


 私は涼太の耳元で囁いた。


「几帳面な男性、嫌いじゃない」


 涼太の呼吸が——荒くなった。


 私の唇が——彼の耳に触れそうな距離。


「涼太くん」


「はい……」


「美咲を後悔させたくない?」


 涼太は——私を見つめた。


 彼の目に——憎しみの炎が見えた。


「後悔……させたいです」


 私は——微笑んだ。


「だったら——私が協力してあげる」


 涼太の手が——震えていた。


 男なんて——簡単。


 距離を詰めて、囁けば——落ちる。


 特に、捨てられた男は——復讐心に燃えている。


 それを利用すればいい。


「何をすれば……いいんですか?」


 涼太が聞いた。


 私は——スマホを取り出して、美咲のインスタを見せた。


 そこには——幸せそうな美咲の写真。


 婚約者とのツーショット。


 キャプション:「この人と一生一緒♡」


 涼太の顔が——苦しそうに歪んだ。


「美咲……幸せそうですね」


「でもね」私は言った。「これ、全部嘘かもしれないわよ」


「え?」


「美咲ってね、涼太くんと付き合ってた時も、他の男と遊んでたって知ってた?」


 涼太の目が——見開いた。


「そんな……」


「本当よ」私は続けた。「私、美咲から聞いてたもん。『涼太には内緒だけど、もっとハイスペックな男探してる』って」


 涼太の手が——グラスを握りしめた。


「あの……それ、本当ですか?」


「本当」


 嘘だった。


 でも——涼太を動かすには、これくらいの嘘が必要。


「だから——美咲の婚約、壊しましょう」


 涼太は——黙っていた。


 私は——彼の手に、自分の手を重ねた。


「涼太くん、カメラマンよね?」


「はい……」


「だったら——美咲の『本当の姿』を撮影して」


 涼太が——私を見た。


「どういう……ことですか?」


 私は——微笑んだ。


「詳しくは、また連絡するわ。とりあえず——私を信じて」


 涼太は——頷いた。


「わかりました」


 私は——涼太の頬に、軽くキスをした。


 挨拶のキス。


 でも——涼太の顔が、真っ赤になった。


「じゃあね、涼太くん。また連絡する」


 私は——ラウンジを出た。


 振り返ると、涼太はまだ座ったまま、私を見ていた。


 彼の目には——混乱と、憧憬と、憎しみが混ざっていた。


 完璧。


 駒、一つ目——確保。


 次の夜。


 六本木のバー。


 カウンターに座っている私の隣に、一人の男が座った。


 健人——三十二歳、IT企業勤務。


 真面目そうな顔立ち。黒縁メガネに、スーツ。


 麻衣の——元カレ。


 麻衣が「稼げない男」「将来性ゼロ」と笑っていた男。


「優里さん……お久しぶりです」


 健人は——緊張した顔で言った。


「久しぶり、健人くん。覚えてる?私」


「はい……麻衣の、上司の」


 私は——ウイスキーを一口飲んだ。


 それから——健人の耳元で囁いた。


「麻衣ね、あなたのこと『稼げない男』って笑ってたわよ」


 健人の手が——グラスを握りしめた。


 私は——健人の肩に手を置いた。


「『健人って真面目だけど、つまらない』『もっとお金持ちの男と付き合いたい』って」


 健人の目に——涙が浮かんだ。


「そんな……僕、麻衣のために一生懸命働いてたのに……」


「知ってるわ」


 私は優しく言った。


 嘘だけど。


「健人くんは——誠実な男性よね」


 健人が——私を見た。


「でも私は——」


 私の唇が——健人の耳に触れそうな距離。


「お金より、誠実な男性の方が好き」


 健人の顔が——赤くなった。


「優里さん……」


「麻衣を後悔させたくない?」


 健人は——頷いた。


「させたいです……でも、どうやって……」


 私は——スマホを取り出した。


 そこには——麻衣のSNSの投稿。


 彼女が昇進したことを自慢する投稿。


 キャプション:「努力が実りました♡」


 健人の顔が——苦しそうになった。


「麻衣……昇進したんですね」


「ええ」私は言った。「私の企画を盗んで。そして私を地方に左遷させて」


「え……優里さんが?」


「そう」


 私は——健人の手を握った。


「麻衣は——人を踏み台にして、のし上がったの。健人くんもそうでしょ?」


 健人は——黙った。


「麻衣って……そういう女だったんですか」


「そうよ」


 また嘘。


 でも——健人を動かすには必要。


「だから——麻衣を失脚させましょう」


 健人が——私を見た。


「どうやって……」


「健人くん、麻衣の会社の経理、知ってるわよね?」


 健人は——頷いた。


「はい……付き合ってた時、よく愚痴を聞いてました」


「だったら——麻衣の不正、知ってるでしょ?」


 健人の目が——見開いた。


「不正……?」


「会社の経費、私的に使ってたって。健人くんに話してたわよね?」


 健人は——少し考えてから、頷いた。


「……確かに、麻衣は時々、会社のカードで買い物してました。でも、それって……」


「立派な不正よ」


 私は微笑んだ。


「それを——会社に報告して」


 健人は——躊躇した。


「でも……それって……」


「健人くん」


 私は——健人の顔を両手で包んだ。


 至近距離。


 彼の目を見つめる。


「麻衣は——あなたを捨てたのよ。『稼げない』って笑って」


 健人の目に——怒りが浮かんだ。


「だったら——仕返ししてもいいでしょ?」


 健人は——長い沈黙の後、頷いた。


「……わかりました」


 私は——健人の額にキスをした。


「ありがとう、健人くん。頼りにしてるわ」


 健人の顔が——真っ赤になった。


 男は——誠実なほど、騙しやすい。


 駒、二つ目——確保。


 三日後。


 表参道の美容室。


 私は——客として予約を入れていた。


 店の名前は「ERIKA」。


 オーナーは——絵里香。


 三十三歳、美容師。


 大輔と五年付き合って——私と結婚する直前に捨てられた女。


 大輔が「重い」「束縛が激しい」と言っていた元カノ。


 店に入ると——綺麗な女性が出迎えてくれた。


 絵里香だ。


 長い黒髪、切れ長の目。美人だけど、どこか寂しそうな雰囲気。


「いらっしゃいませ。ご予約の——」


 絵里香が——私を見て、凍りついた。


「あなた……」


「初めまして」私は微笑んだ。「白石優里です」


 絵里香の顔が——蒼白になった。


「大輔の……」


「元・妻ね」


 私は——椅子に座った。


 絵里香は——何も言えずに、私の後ろに立った。


 鏡越しに、二人の目が合う。


「カットとカラー、お願いします」


 絵里香は——震える手で、ハサミを持った。


「……わかりました」


 しばらく——沈黙が続いた。


 ハサミの音だけが響く。


 それから——私が口を開いた。


「大輔、今新しい女と付き合ってるわよ」


 絵里香の手が——止まった。


「……知ってます」


「そう」私は続けた。「あなたが五年かけて育てた男を、私が奪って、そして捨てた。で、今は別の女。面白いわよね」


 絵里香の手が——震えた。


「あなた……何しに来たんですか」


「復讐よ」


 私は——鏡越しに絵里香を見た。


「私も——捨てられたの。大輔に」


 絵里香が——私を見た。


「あなたも……?」


「そう」


 私は——立ち上がって、絵里香の方を向いた。


「大輔って最低よね。あなたを捨てて、私と結婚して、私も捨てて、また新しい女」


 絵里香の目に——涙が浮かんだ。


「私……五年も尽くしたのに……」


「私も三年」


 私は——絵里香の手を握った。


「だから——一緒に復讐しましょう」


 絵里香は——私を見つめた。


「復讐……どうやって?」


「大輔を——社会的に殺すの」


 絵里香の目が——見開いた。


「社会的に……?」


「SNSで——大輔の本性を暴露する。あなたとの五年間、全部」


 絵里香は——少し考えてから、頷いた。


「……わかりました」


 私は——微笑んだ。


「女同士、わかるでしょ?この屈辱」


 絵里香も——微笑んだ。


 でも、その笑顔は——悲しかった。


「わかります」


 駒、三つ目——確保。


 これで——全員揃った。


 復讐は——三週間後に実行することにした。


 まず——美咲。


 涼太からの報告によると、美咲は来週、ブライダルサロンでウェディングドレスの最終試着をするらしい。


 完璧なタイミング。


 私は——涼太に指示を出した。


「そのブライダルサロンに、カメラマンとして潜入して」


「どうやって……?」


「私が手配するわ。あなたはカメラを持って、その場にいればいい」


 涼太は——頷いた。


「わかりました」


 私は——ブライダルサロンに電話をかけた。


 偽名を使って、「カメラマンの変更をお願いしたい」と依頼。


 元々いたカメラマンをキャンセルして、涼太を指名した。


 サロン側は——何も疑わなかった。


 準備完了。


 次に——麻衣。


 健人は——麻衣の会社に「中途採用」として応募していた。


 IT企業だから、健人のスキルなら簡単に採用される。


 そして——入社初日、全社会議でプレゼンをする。


 内容は——麻衣の不正経理について。


 証拠も全て揃えた。


 健人が付き合っていた時に撮った、麻衣の会社カードの写真。


 レシート。


 メールのやり取り。


 全部。


 麻衣は——逃げられない。


 最後に——大輔。


 絵里香は——大輔との五年間の記録を全てまとめていた。


 写真、メール、LINEのやり取り。


 そして——決定的な証拠。


 大輔が絵里香に借りた500万円の借用書。


 絵里香が流産した時の病院の記録。


 全部——SNSに公開する。


 タイトルは——「5年付き合った彼に捨てられた話」。


 これが——バズれば、大輔は終わり。


 そして——実行の日が来た。


 まず——美咲。


 午後二時。青山のブライダルサロン。


 私は——カフェから、涼太にメッセージを送った。


「準備はいい?」


「はい」


 涼太からの返信。


 それから——三十分後。


 涼太から写真が送られてきた。


 ブライダルサロンの中。


 美咲が——純白のウェディングドレスを着て、幸せそうに微笑んでいる。


 その横には——婚約者。


 そして——。


 涼太が——カメラを持って立っている。


 私は——微笑んだ。


 それから——涼太にメッセージを送った。


「今よ」


 三分後。


 涼太から——動画が送られてきた。


 再生すると——。


 ブライダルサロン。


 プランナーが言った。


「では、記念撮影をお願いします」


 美咲と婚約者が——並んだ。


 涼太が——カメラを構えた。


 そして——シャッターを切る直前。


 涼太が——カメラを下ろした。


「久しぶり、美咲」


 美咲の顔が——蒼白になった。


「え……涼太?」


 婚約者が——困惑した顔をした。


「美咲、この人誰?」


 涼太は——微笑んだ。


「俺?俺は美咲の元カレ。君の幸せな瞬間、撮影させてもらうよ」


 美咲が——涼太に近づいた。


「ちょっと、何してるの……」


 涼太は——封筒を取り出して、婚約者に渡した。


「これ、彼女の『本当の姿』です」


 婚約者が——封筒を開けた。


 中には——写真。


 美咲が——涼太と付き合っている時に、他の男とキスをしている写真。


 私が——涼太に渡した、偽造写真。


 婚約者の顔が——歪んだ。


「美咲……これ、何?」


 美咲が——写真を見て、凍りついた。


「違う、これは——」


 涼太が——冷たく言った。


「君は——俺を捨てた時と同じことを、この人にもするんだろう?浮気して、嘘ついて」


 美咲の目から——涙が溢れた。


「違う!涼太、これ嘘よ!」


 でも——婚約者は信じなかった。


「美咲……俺、もう無理」


 婚約者は——サロンを出て行った。


 美咲は——床に崩れ落ちた。


「嘘……嘘よ……」


 動画が——終わった。


 私は——微笑んだ。


 最高の瞬間に、最悪の現実を突きつける。


 これが——本当の復讐。


 美咲——婚約破談。


 次に——麻衣。


 翌日。


 私の元会社で、全社会議が開かれた。


 健人から——LINEが来た。


「今から始めます」


 私は——返信した。


「頑張って」


 三十分後。


 健人から——写真が送られてきた。


 会議室。


 麻衣が——蒼白な顔で立っている。


 周りの社員たちが——麻衣を見ている。


 そして——。


 健人が——資料を配っている。


 私は——微笑んだ。


 後で健人から聞いた話。


 健人は——新入社員として紹介された。


「皆さん、今日から入社した健人です」


 麻衣が——健人を見て、凍りついた。


「え……健人?」


 健人は——微笑んだ。


「久しぶり、麻衣さん。実は僕、この会社に転職しました」


 麻衣の顔が——蒼白になった。


 それから——健人は資料を配り始めた。


「皆さん、申し訳ありませんが、重要なお話があります。麻衣さんの不正経理について」


 会議室が——ざわついた。


 田中部長が——立ち上がった。


「健人くん、何を言ってるんだ?」


 健人は——淡々と説明した。


「麻衣さんは、会社の経費を私的に使い込んでいました。これが証拠です」


 資料には——。


 麻衣の会社カードの使用履歴。


 ブランドバッグ、高級レストラン、エステ。


 全部——私的な支出。


 田中部長が——麻衣を見た。


「麻衣、これは本当か?」


 麻衣が——震える声で言った。


「違います、これは——」


 健人が——冷たく言った。


「どうしてって?君が僕を『稼げない男』って笑ったからだよ」


 会議室が——静まり返った。


 麻衣は——全社員の前で、立場を失った。


 私は——微笑んだ。


 人前で恥をかかせる。


 これが——一番効く。


 麻衣——失業。


 最後に——大輔。


 その夜。


 絵里香が——SNSに投稿した。


 タイトル:「5年付き合った彼に捨てられた話」


 内容:


「私は、ある男性と5年間付き合っていました。


彼の名前は、白石大輔。


彼は優しくて、将来を約束してくれて、私は彼のために全てを尽くしました。


でも——。


彼は突然、別の女性と結婚しました。


理由は『お前は重い』。


私が流産した時も、見舞いに来てくれませんでした。


そして——彼は私に借りた500万円を返していません。


これが証拠です」


 添付:借用書の写真、メールのやり取り、流産の診断書。


 投稿は——瞬く間にバズった。


 リツイート:10万件。


 リプライ:


「最低な男」

「こんな奴が結婚してたの?」

「大輔の会社どこ?教えて」

「許せない」


 大輔の個人情報が——拡散された。


 会社名、住所、顔写真。


 会社にも——クレームの電話が殺到した。


 大輔は——社会的に死んだ。


 私は——ソファに座って、スマホを見ていた。


 全部——成功した。


 美咲は婚約破談。


 麻衣は失業。


 大輔は社会的死。


 ネットの力は——恐ろしい。


 一度火がつけば、止まらない。


 その夜、私は——元カレ同盟を自宅に呼んだ。


 涼太、健人、絵里香。


 三人と——祝杯を上げた。


「お疲れ様」


 私はシャンパンを注いだ。


 涼太が——微笑んだ。


「ありがとうございました、優里さん。美咲、ざまあみろって感じです」


 健人も——頷いた。


「スッキリしました。麻衣、あんな顔するんですね」


 絵里香は——静かに言った。


「これで終わりですね」


 私は——微笑んだ。


「ええ。三人とも、ありがとう」


 でも——。


 私は——笑えなかった。


 心の奥底に、何か重いものがあった。


「ちょっと、トイレ行ってくるわ」


 私は——浴室に入った。


 そして——鏡を見た。


 そこには——冷たい目をした女がいた。


 まるで——悪魔。


 私は——自分の顔を見つめた。


 復讐は——成功した。


 なのに、なんで——こんなに虚しいの?


 嬉しくない。


 満たされない。


 美咲が泣く顔を想像しても。


 麻衣が失業したことを知っても。


 大輔が社会的に死んだことを見ても。


 何も——感じない。


 ただ——空っぽ。


 私は——何をしてるんだろう。


 マウント女だった自分を反省するどころか、もっと悪い女になってる。


 人を利用して、嘘をついて、陥れて。


 そして気づいた。


 私は——本当の「悪女」になっていた。


 涙が——一粒、頬を伝った。


 でも——すぐに拭いた。


 今さら泣いても、遅い。


 私は——リビングに戻った。


 涼太たちは——楽しそうに話していた。


 私は——微笑んだ。


 完璧な、嘘の笑顔。


「さあ、もう一杯飲みましょう」


 深夜二時。


 涼太たちは帰った。


 私は——一人、ソファに座っていた。


 その時——スマホが鳴った。


 未登録の番号。


 変な時間に誰だろう。


 私は——電話に出た。


「もしもし?」


 男の声がした。


「白石優里さんですね。週刊誌『フラッシュ』の記者、田村と申します」


 私の心臓が——止まった。


 週刊誌?


「あの……何か用ですか?」


「あなたの復讐、全部取材させてもらいました」


 私の手が——震えた。


「え……どういうこと?」


「元カレの一人が、全部売ったんですよ」


 記者は——淡々と続けた。


「『復讐インフルエンサーの正体』ってタイトルで、来週掲載します。美咲さん、麻衣さん、大輔さんへの陰湿な復讐。全部、記事にしますよ」


 私は——呼吸ができなくなった。


「誰が……誰が売ったの……」


「それは言えませんが——」


 その時——。


 玄関のドアが開く音がした。


 私は——振り返った。


 そこには——涼太が立っていた。


 鍵を持っている。


 私の合鍵——。


 いつの間に。


 涼太は——申し訳なさそうな顔をした。


「ごめん、優里さん」


 私の世界が——崩れた。


「涼太……あなた……」


「美咲から300万もらったんだ」


 涼太は——スマホを見せた。


 そこには——美咲からの振込記録。


 300万円。


「美咲が……あなたに……」


「ええ」涼太は言った。「美咲、婚約は破談になったけど、お金持ちだから。俺に『優里の復讐を全部バラして』って頼んできた」


 私は——何も言えなかった。


「ごめん」


 涼太は——そう言って、ドアを閉めた。


 私は——床に座り込んだ。


 電話の向こうで、記者が言った。


「白石さん、何かコメントは?」


 私は——電話を切った。


 スマホを——床に投げた。


 そして——笑った。


 声を出して、笑った。


 おかしくて、おかしくて。


 私は——涼太を利用したつもりだった。


 でも——実は、涼太に利用されていた。


 美咲は——まだ終わってなかった。


 お金で涼太を買って、私の復讐を全部バラした。


 私は——また負けた。


 涙が——溢れてきた。


 でも——今度は止まらなかった。


 声を上げて、泣いた。


 私は——何をしてたんだろう。


 復讐して、人を陥れて、嘘をついて。


 それなのに——自分が一番陥れられてる。


 私は——本当の悪女にもなれなかった。


 ただの——愚かな女。


 スマホが——また鳴った。


 SNSの通知。


 見ると——。


 ハッシュタグ:#白石優里の復讐


 もう——拡散され始めていた。


「復讐インフルエンサー、白石優里の正体」


 記事が——ネットに流れていた。


 また——炎上する。


 また——全てを失う。


 私は——スマホを握りしめた。


 そして——呟いた。


「もう……終わり」


(第2話 完)

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2026年1月12日 15:00

マウント女王の転落、そして女帝への逆襲    復讐インフルエンサー ~元カレ同盟で親友・同僚・夫を破滅させたら、私が一番の悪女になった~ ソコニ @mi33x

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