マウント女王の転落、そして女帝への逆襲 復讐インフルエンサー ~元カレ同盟で親友・同僚・夫を破滅させたら、私が一番の悪女になった~
ソコニ
第1話「マウント女王は、三人に刺された」
スマホの画面が光った。
通知:「いいね」が10万件を突破しました。
私、白石優里のインスタグラム。フォロワー数は100万人。今日アップした写真は、シャネルの新作バッグを持った私の笑顔。
キャプション:「夫からのサプライズプレゼント♡ いつも私を大切にしてくれてありがとう。毎日が幸せです」
嘘だった。
このバッグは自分で買った。三十五万円。クレジットカードで一括払い。夫は何も知らない。でも「夫からのプレゼント」って言った方が、断然映える。コメント欄を見れば一目瞭然だ。
「旦那さん素敵すぎる!」
「優里さん羨ましい!私もこんな結婚生活送りたい!」
「お似合いの夫婦ですね♡」
私は——マカロンピンクのネイルをした指で、コメントに「いいね」を返していく。
正直に言おう。
私、白石優里(三十五歳)は——最低な女だった。
人より上に立ちたくて、人を見下したくて、SNSで嘘をついて幸せを演出してた。マウントを取ることが、生きがいだった。
でも——それが何?
勝ち組になるって、こういうことでしょ?
私は鏡を見た。メイクは完璧。髪も完璧。服も完璧。そして——笑顔も、完璧。
今日も——勝つ。
午前十一時。青山のおしゃれなカフェ。
テーブルの向かいには、親友の美咲が座っている。三十三歳、アパレル企業勤務。可愛い顔立ちで、性格も優しい。だからこそ——私のマウントの標的に最適だった。
「優里、聞いて!」
美咲は目を輝かせて言った。
「私、婚約したの!」
左手の薬指に——小さなダイヤの指輪。
私の心臓が——一瞬、嫌な音を立てた。
嫉妬。
美咲が——私より先に、結婚?
いや、待って。私はもう結婚してる。三年前に大輔と結婚した。だから私の方が上のはず。でも——美咲の幸せそうな顔を見ると、イライラした。
でも、私はすぐに完璧な笑顔を作った。
「わあ!おめでとう、美咲!」
私は美咲の手を取って、指輪を見た。
「可愛い指輪ね。で——彼氏って年収いくらなの?」
美咲の笑顔が——少し固まった。
「え、そういうの……聞く?」
「だってさ」私はカフェラテを一口飲んだ。「結婚って現実でしょ?愛だけじゃ生きていけないよ。うちの旦那は年収1500万だけど、それでも足りないって思う時あるもん」
美咲の顔が——明らかに強張った。
「優里の旦那さん、すごいね……」
「まあね」私は髪をかき上げた。「でも大変よ。こういう男の人って、浮気とか心配じゃん?だから私、毎日ジムに通って体型維持してるの。美咲も結婚したら、気をつけなよ」
「……うん」
美咲の声が——小さくなった。
私は——微笑んだ。
「ごめんね、心配で。美咲のこと大事に思ってるから、つい厳しいこと言っちゃう」
美咲は——笑顔を取り繕った。
「ありがとう、優里」
でも、その笑顔は——明らかに無理をしていた。
私は心の中で、優越感に浸っていた。
やっぱり私の方が上。美咲は可愛いけど、所詮は年収も低い男と結婚する負け組。私とは格が違う。
カフェを出た後、私はすぐにインスタのストーリーズを更新した。
写真:美咲との二人のツーショット。
キャプション:「親友の婚約を祝って♡ 幸せになってね」
投稿して三分後——。
「いいね」が3000件。
コメント:「優里さんって本当に友達思いですね!」
私は——笑った。
友達思い?
冗談じゃない。私はただ——美咲より上にいたかっただけ。
午後三時。オフィスビル三十階。
私が勤める広告代理店の会議室。
プロジェクターに映し出されているのは——私の部下、麻衣が三ヶ月かけて作った企画書。
でも——今、それを発表しているのは、私だった。
「以上が、新商品のプロモーション企画になります」
私はレーザーポインターで画面を指しながら、淀みなく説明する。
上司の田中部長(五十歳)が、感心したように頷いた。
「白石さん、素晴らしい企画ですね!これなら確実にクライアントも納得するでしょう」
「ありがとうございます」私は微笑んだ。「あ、もちろん麻衣さんにもデータ収集を手伝ってもらいました」
会議室の隅に座っている麻衣——二十八歳、入社三年目——の顔が、蒼白になった。
彼女の目が、私を見ている。
でも——私は目を合わせなかった。
会議が終わった後、麻衣が私のデスクに近づいてきた。
「優里さん……あの、さっきの企画なんですけど」
麻衣の声は震えていた。
「あれ、私が作ったものですよね……」
私は——驚いた顔をした。
「え、そうだっけ?二人で作ったんじゃなかった?記憶違いかな」
「でも……」
「麻衣ちゃん」私は優しく微笑んだ。「確かにデータは麻衣ちゃんが集めてくれたけど、企画の骨子は私が作ったよ。麻衣ちゃんが作ったバージョン、正直言うとちょっと弱かったから、私が大幅に手を加えたの。わかるでしょ?」
麻衣は——何も言えなくなった。
「部長にも認められたんだから、良かったじゃん。これで次の案件も任せてもらえるよ。私たちチームなんだから、誰の手柄とか気にしなくていいと思うけど」
麻衣の目に——涙が浮かんだ。
でも、彼女は何も言わずに自分のデスクに戻った。
私は——心の中で笑った。
麻衣は要領が悪い。あの企画書、確かに彼女が作ったけど、私が手を加えたから良くなったんだ。だったら、私の手柄でしょ?
それに——麻衣みたいな地味な子が評価されるより、私が評価される方が、会社のためにもなる。私はフォロワー100万人のインフルエンサー。会社の広報としても価値がある。
その夜、私はオフィスでの「仕事風景」をインスタに投稿した。
写真:パソコンの前で真剣な顔をしている私。
キャプション:「今日も夜遅くまで企画書作成。でも好きな仕事だから頑張れる♡」
「いいね」が5万件。
コメント:「優里さんかっこいい!」「仕事も家庭も完璧ですね!」
完璧——。
そう、私は完璧だった。
午後八時。自宅のマンション。
港区のタワーマンション、二十五階。夫の大輔と二人暮らし。
玄関のドアを開けると——リビングから声がした。
「優里、おかえり」
夫の大輔。三十七歳、商社勤務。整った顔立ちで、穏やかな性格。結婚三年目。
でも——私は、大輔のことを愛していなかった。
正確に言えば——大輔は、私のSNS用の「夫」だった。
「ただいま。夕飯は?」
「まだ作ってないけど……」
「じゃあコンビニで買ってきて」私はソファに座ってスマホを取り出した。「今からインスタ投稿しなきゃいけないから」
大輔の顔が——少し曇った。
「今日も?優里、最近ずっとスマホばっかりじゃない?」
「仕事なの」私は画面から目を離さずに言った。「SNSも大事なマーケティングツールなんだから」
「でも……」
「ねえ、ちょっと」私は大輔を見た。「夫婦の写真撮るから、こっち来て」
大輔は——ため息をついたけれど、私の隣に座った。
私はスマホのカメラを起動して、自撮りモードにした。
「はい、笑って」
シャッター音。
写真を確認する。大輔の顔——疲れてる。目の下にクマ。これじゃ使えない。
「もう一回」
シャッター音。
また確認。まだダメ。大輔の笑顔が——ぎこちない。
「大輔、もっとちゃんと笑って」
「優里……俺、疲れてるんだけど」
「いいから!これSNSに上げるんだから、ちゃんとして」
大輔は——何も言わなくなった。
私たちは十枚以上写真を撮って、ようやく使える一枚が撮れた。
「オッケー、ありがとう。もういいよ」
大輔は——立ち上がって、自分の部屋に行った。
私は——写真を加工した。美肌フィルターをかけて、明るさを調整して、大輔の目のクマを消して。
完璧。
投稿。
キャプション:「愛する夫と休日まったりタイム♡ こんな穏やかな時間が一番幸せ」
実際は——写真撮影だけで、その後は別行動。
でも、SNSではそんなこと関係ない。
私は——大輔の部屋のドアを見た。
閉まったまま。
最近、大輔とちゃんと話したのっていつだろう。
でも——別にいい。
大輔は私の「幸せな結婚生活」を演出するための、小道具なんだから。
次の日——全てが崩れ始めた。
朝、七時。
目覚ましのアラームで目を覚ました。
いつもならリビングからコーヒーの香りがするはずなのに——今日は何もない。
おかしい。
私はベッドから出て、リビングに行った。
そして——凍りついた。
テーブルの上に——離婚届。
私の名前の欄には、もう大輔の署名とハンコが押してある。
横には——手紙。
震える手で、開封した。
「優里へ
もう限界だ。お前と一緒にいると、息が詰まる。
俺は——お前の『SNS用の夫』じゃない。
もっとちゃんと向き合いたかった。もっと話をしたかった。でも、お前はいつもスマホばかり見ていた。
俺が何を考えているかなんて、興味もないんだろう。
だから——もういい。
さようなら。
大輔」
手紙が——手から滑り落ちた。
え。
何これ。
冗談だよね?
私は慌ててスマホを取り出して、大輔にLINEを送った。
「ねえ、これどういうこと?冗談だよね?」
送信——。
既読にならない。
もう一度送信。
既読にならない。
まさか——。
アカウントを見ると——。
「メッセージを送信できません。ブロックされている可能性があります」
私は——電話をかけた。
プープープー。
着信拒否。
大輔の携帯——繋がらない。
私の手が——震えた。
どういうこと。
どういうこと。
大輔が——私を、捨てた?
冗談じゃない。
私は——勝ち組の妻だったのに。
SNSでは完璧な夫婦だったのに。
でも——。
離婚届は、現実だった。
午前九時。会社。
私は——何も考えられないまま、出社した。
大輔のことは——後で考えればいい。
今は仕事に集中しないと。
でも——。
デスクに着いた途端、内線が鳴った。
「白石さん、会議室に来てください」
田中部長の声。
何だろう。
私は会議室に向かった。
ドアを開けると——。
田中部長と、人事部長の山田さん(四十五歳)が座っていた。
そして——麻衣も。
嫌な予感がした。
「座ってください、白石さん」
私は——椅子に座った。
田中部長が——重い口を開いた。
「白石さん、残念なお知らせがあります。来月から、地方支店に異動してもらいます」
私の頭が——真っ白になった。
「え……どうしてですか?」
「麻衣さんから、告発がありました」
山田さんが——資料を私の前に置いた。
それは——麻衣が作った企画書の元データ。
作成日時、編集履歴、全部記録されている。
麻衣が——口を開いた。
「これ、私が作った企画書の元データです。優里さんが盗んだ証拠です」
私の心臓が——止まった。
「違う、これは——」
「白石さん」田中部長が遮った。「麻衣さんから詳しく聞きました。あなたは何度も、彼女の成果を自分のものにしていた」
「そんなこと——」
「もういいです」
田中部長の声が——冷たかった。
「会社としては、これ以上問題を大きくしたくない。だから、地方への異動で処理します。来月から、福岡支店に行ってもらいます」
福岡——。
私は——東京から、追い出される。
「待ってください、これは誤解です!」
「白石さん」
山田さんが——書類を出した。
「これにサインしてください。異動の同意書です」
「嫌です!」
「では——懲戒処分にしますか?」
私は——何も言えなくなった。
麻衣が——私を見ていた。
その目には——勝利の色があった。
私は——負けた。
午後八時。自宅。
私は——ベッドに倒れ込んでいた。
夫に捨てられた。
会社で左遷された。
全部、一日で。
スマホが鳴った。
LINEの通知。
美咲から。
私は——震える手で開いた。
「優里、もう連絡しないで。あなたといると、疲れる。」
添付ファイル:画像
画像を開くと——。
グループLINEのスクリーンショット。
グループ名:「優里の本性を暴く会」
参加者:美咲、麻衣、大輔
メッセージ履歴が——並んでいる。
美咲:「優里、また私にマウント取ってきた。婚約したって言ったら、年収聞かれて、旦那は1500万だけど足りないとか言われた。もう無理」
麻衣:「私の企画、また盗まれた。あの女、本当に許せない」
大輔:「俺もう限界。毎日SNSの撮影させられて、道具扱いされて。もう人間扱いされてない」
美咲:「いっそ、一斉に切りませんか?同じ日に」
麻衣:「いいですね。優里さんが一番ダメージ受ける方法で」
大輔:「賛成。俺は離婚届置いていく」
麻衣:「私は会社で告発する」
美咲:「じゃあ私はこのグループLINEのスクショ送る」
私は——スマホを放り投げた。
全員が——裏で繋がっていた。
全員が——私を憎んでいた。
全員が——私を裏切った。
同じ日に。
計画的に。
私は——何も考えられなくなった。
深夜二時。
眠れなかった。
スマホを見ると——Twitterの通知が止まらない。
何だろう。
アプリを開くと——。
トレンド一位:#白石優里の本性
私の心臓が——止まった。
タップすると——。
私のマウント発言を全てまとめた投稿が、何万回もリツイートされていた。
「白石優里の本性まとめ
①友達の婚約を祝うフリして年収マウント
②部下の企画を盗んで自分の手柄に
③夫をSNS撮影の道具扱い
動画、音声、全部あります」
添付された動画——。
カフェでの私と美咲の会話。
誰かが——盗撮していた。
音声——。
麻衣との会話。
誰かが——録音していた。
スクリーンショット——。
私のインスタと、現実の違い。
全部——暴露されていた。
リプライ欄——。
「最低」
「こんな女が100万フォロワーとか終わってる」
「こいつと友達だった人可哀想」
「ざまあみろ」
「消えろ」
「人間のクズ」
私は——フォロワー数を見た。
100万人——。
99万人——。
95万人——。
90万人——。
どんどん減っていく。
80万人——。
70万人——。
50万人——。
30万人——。
20万人——。
止まらない。
メールの通知も——止まらない。
企業からのメール。
「白石様
この度の件を受けて、誠に遺憾ながら弊社との案件をキャンセルさせていただきます」
「契約を解除します」
「今後の取引は見合わせます」
全部——なくなった。
仕事も。
フォロワーも。
信用も。
私は——スマホを床に叩きつけた。
画面が割れた。
でも——私の心の方が、もっと割れていた。
深夜三時。
私は——床に座り込んでいた。
割れたスマホの画面には、それでも私を罵る言葉が並んでいる。
涙が——止まらなかった。
こんなに泣いたの——何年ぶりだろう。
いつから私は——こんな女になったんだろう。
マウント女。
嘘つき。
人を利用する、最低な女。
でも——。
でも、私だって——頑張ってたのに。
夫のために、毎日ジムに通って綺麗でいようと努力した。
仕事でも、結果を出した。企画だって、私が手を加えたから良くなったんだ。
友達にも——最初は、本当に良かれと思ってアドバイスしてた。美咲が幸せになってほしかった。だから、現実的なことも言ってあげたかった。
それなのに——。
全員で裏切るなんて。
一斉に、計画的に。
こんな仕打ち——受ける筋合いある?
私の中で——何かが、変わった。
悲しみが——怒りに変わった。
涙が——止まった。
私は——立ち上がった。
鏡を見た。
目が腫れている。髪はボサボサ。メイクは崩れている。
でも——。
私は——まだ終わってない。
許せない。
絶対に、許せない。
美咲。
麻衣。
大輔。
三人——全員。
でも——今の私には、何もない。
お金も、地位も、味方も。
……味方。
そうだ。
私には——まだ「使える駒」がいる。
彼女たちの——元カレたち。
美咲の元カレ、涼太。
麻衣の元カレ、健人。
大輔の元カノ、絵里香。
三人とも——美咲、麻衣、大輔に捨てられた。
「ゴミ」みたいに捨てられた。
だったら——彼らは、私の味方になる。
復讐したいはず。
私は——スマホを拾った。
割れた画面でも、まだ使える。
連絡先を探す。
涼太——。
美咲から聞いていた。彼女が「しつこい元カレ」って笑ってた男。
健人——。
麻衣から聞いていた。彼女が「稼げない男」ってバカにしてた男。
絵里香——。
大輔から聞いていた。彼が「重い女」って言ってた元カノ。
私は——メッセージを打ち始めた。
「久しぶり。話があります。
あなたを捨てた女に、復讐させてあげる」
送信。
三人に。
一斉に。
そして——私は、待った。
返信が来るまで。
復讐は——これから始まる。
翌朝、六時。
スマホが鳴った。
涼太から。
「優里さん、どういうことですか?」
健人から。
「お話、聞かせてください」
絵里香から。
「会いましょう」
私は——微笑んだ。
涙を拭いた。
鏡を見た。
そこには——まだ「マウント女王」の顔が残っていた。
ボロボロだけど。
でも、これから私は——変わる。
マウント女王じゃない。
復讐の——女帝になる。
私は立ち上がった。
シャワーを浴びて、メイクをして、服を着替えた。
完璧に。
もう一度、完璧に。
でも今度は——SNSのためじゃない。
復讐のために。
私は——玄関のドアを開けた。
新しい戦いが——始まる。
美咲。
麻衣。
大輔。
覚悟しろ。
私は——絶対に、お前たちを許さない。
完璧に——破滅させてやる。
(第1話 完)
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