第3話 緑の理想住宅
行政局でのID取得は問題なく行われた。
イツキの付き添いのディラは管理下のAIということで話がついたが……本人の言によれば精霊らしい。なんだそれは?
「ずいぶんスムーズにいくもんなんですね?」
「ああ、それはゼルがちょいと……な?」
「大したことじゃねえよ。ただ身元不明者のIDをいくつか保存してただけさ。それをイツキのに書き換えてやれば……行方不明者が“戻って”きたってだけだ」
「な、なるほど……でもそういうアングラなのもこの街ならではってとこですね」
いいな。話が分かるやつは嫌いじゃないぜ、イツキ。
「とはいえ、IDは滞在許可ってだけだ。住処は別口で探さないと……」
「金がいるな。食材を売るか? だが、“上”の連中が嗅ぎつけるだろうし、そうなりゃイツキは籠の鳥だ。どうするか……」
「あ。俺はあのスラムの廃屋でいいですよ」
イツキの発言に俺たちは固まる。
「正気か? 確かにあそこは管理外だからタダだが、イツキみたいな生身が歩いてりゃ生体素材の材料にしか見られんぞ」
この街で暮らすには機械化処置かミュータント化が必須だが。それだけに天然ものの“生身”の希少価値は天井知らずだ。
最低限の機械化処置しかしていない俺が常にゼルと連れ立つのも自衛の意味が強いのだ。
「衣食住なら“植物生成”でなんとかできます。防犯も……ディアが見張ってくれるようなので」
『はいー! わたしは役に立ちますよ!』
「本当かね……」
俺たちは連れ立って先程の廃屋まで戻ってきた。
「じゃあやってみましょう“植物生成・家屋型大樹”」
イツキが宣言すると、地面を突き破って植物が生える。
それが柱になり、壁になり、天井になり……うねるような表面を持った立派な“家屋”になった。
「こりゃあ……」
「なんでもアリだな……」
「内装を見てみましょう。お二人もどうぞ」
『どうぞー』
促されるままに家に入る。
LEDや白熱灯とは違う光が室内を照らしているし、窓にはガラスではない透明な弾力を持った膜が張られている。
床には短く刈り揃えられた植物がクッションのようになっているし、あちこちに設置された腐海植物が空調を行っているのか、吸い込む空気が心地いい。
「おい……高級住宅とほとんど変わらないぞ」
「これが全部植物でできてんのか?」
『明かりはホタルやヒカリ茸の生体発光で、窓は透過率の高い皮膜ですねー。床の芝生は一定の長さ以上で勝手に枯れるので常に同じ長さです。腐海植物は空気が汚れてれば養分いらずで便利ですよー』
「……だそうです。俺は“こういうのがいい”ってイメージで作ってるだけなんで」
『イツキのイメージが豊かだからこそなんですよ!』
イツキの力は凄いと思っていたが、それでも過小評価だったらしい。
こんなもの、国が戦争してでも奪いにくるレベルだ……!
「ん? ネット回線はさすがに無理だったか?」
「あー、確かに必要ですね。作りましょう、えっと……“疑似回線植物”と“超演算繊維質”と“送受信針葉樹”ってとこかな」
また新しい植物が生み出され、あっというまにネット環境が整えられる。
「おお! 変わった外見だがよさそうだな、繫いでみていいか?」
「ええ、試してみてください」
イツキの許可を得てゼルがこめかみから取り出した有線ケーブルを繫ぐ。
アクセスしてすぐにビクリと身を震わせると、興奮した口調で叫んだ。
「すげえ! 官庁モデルのハイエンドより性能いいぞ! おまけに生体ー電脳間ノイズもゼロだ!」
「マジか……」
「生体コンピュータだから負荷が無いのかもしれませんね」
俺の判断は間違いだ。
“国が戦争して奪いに来る”じゃない。
“国を戦争させてでも奪い合いが起こる”レベルだった。
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植物コンピュータというと天地無用! ですかね。
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サイバネスラムに降りた植物使い グラビ屯@G-tron @G-tron
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