第2話 パートナーとの出会い2


 USOプレイヤーが必ず最初に訪れる『はじまりの草原』。

 未だに初心者プレイヤーが参入してきていて、今日も草原は初期装備プレイヤーで溢れ返していた。


 こんなところで待ち合わせするなんて、もしかして相手は初心者なのか?


 草原の隅に腰を下ろして、初心者たちを観察する。

 ついつい口を出したくなるのは俺の悪いクセだ。

 それも常人には難しいモーションをさせようと。


 それにしても、さっきから何度も見られてる気がする。

 さすがに下層――それも第1層だと目立ちすぎる格好か。


 プレイヤーネームは『Hiiro』。

 白い髪に赤い瞳。着ているのは上下黒い服に、さらに背中には一本の剣を背負っていて、これがこの世界における俺の姿であり、子供の頃からの付き合いになるアバターだ。俺の成長に伴い、身長調整はしてきたけど、それ以外はほとんど変えてない。

 まあ相手に思惑があったとはいえ、誕生日プレゼントなんだから使っておかないと。


「……顔立ちだけは、リアルでも昔とほとんど変わらないけどな」


 昔からコンプレックスの塊な中性的で幼い顔立ち。

 たぶんもっとキリッとした顔なら、人付き合いも得意だったはずなんだ。

 例えばその変にいるプレイヤーに声をかけて――


「ちょっとそこのお兄さん、私と一狩り行かない?」

「ふぇ?」


 突然聞こえた声に、俯きかけていた顔を上げる。

 視界に入ったのは一人の女性プレイヤーだった。

 しかも着ているのは初期装備じゃなくて、最近導入されたばかりの着物装備。

 腰にはあまり人気のない刀武器まで装備していて、髪は腰まである黒髪。


 いわゆる和服美少女がそこに立っていた。


「も、もしかしてお前……いや、君が手紙をくれた――」

「やっぱり君で合ってたんだね、私の待ち合わせ相手のクラスメイト」


 どうやら本当にこの子が俺を呼び出したらしいけど、まさか女の子だったなんて。

 てっきり俺みたいな男子が、こっそり手紙を出してきたものかと思ってた。


 しかもハキハキとした喋り方で、無意識にこっちが引っ張られそうになる。


「私はお兄さんのことを知ってるけど、お兄さんは私のことって知ってるかな?」


 尋ねられて注目したのは、彼女の装備だった。

 追加されたばかりの着物を装備できる点、恐らく俺と同じトッププレイヤーの一人だろう。

 そして、刀を使うトッププレイヤーと言えば、思いつくのはただ一人だけ。


「もしかして噂の『切り裂き姫』か?」


 その切り返しに、女の子がニヤリと笑った気がした。

 どうやらうまく、正解を導けたらしい。

 でも彼女は有名なソロプレイヤーのはず。その彼女がどうしてまた、同じソロプレイヤーである俺を?


「色々と聞きたそうな顔だね?」

「当然だろ。そもそもお前はウチのクラスの――」


 誰なんだ?

 そう詰め寄ろうとした直前、俺の眼前にメニュー画面が表示された。

 その内容は、


『プレイヤー名“Hime”からパーティー申請されました』


 Himeというプレイヤー名を見た時、俺はキョトンと首を傾げていた。

 ひめ……ひめ……最近、どこで聞いたばかりの名前だ。

 はて? 一体どこで聞いた――


 思考を巡らせる俺を置き去りに、その場でHimeが髪の色を変えていく。

 綺麗な黒髪から神々しく輝く金色へと。さらに瞳も吸い込まれそうな黒目から、宝石のような琥珀色に。

 すべての変更が終了した時、眼前にはこの数日で見慣れたクラスで1番可愛い女の子が。


「お、お前は……」


 あまりの変貌に声が震える。

 だってさっきまでは確かに、大和撫子風な女の子がここにいたんだから。

 もしかして現実の彼女も、顔立ちはほとんど日本人だったりするのか?

 たしかにハーフやクオーターなんて噂も聞いたけど……。


 でも彼女――がこの世界にいるなんて、クラスの誰も知らないはずだ。

 今、この場にいる俺を除いては。


「……自己紹介の時、ゲームが趣味なんて聞かなかったぞ」

「当然でしょ。君の後にゲームが趣味なんて言える子、いるはずがないもん」

「俺の自己紹介、そんなに滑ってたのかよ?」

「というよりもみんな、ちょっと怖がってたかな?」

「いらない情報をどうもありがとう」


 今の会話だけでかなりの精神的ダメージを負わされた。

 もしかして嫌がらせで呼ばれたのか?

 だとするとなんでだ? 少なくてもゲーム内での面識はないはずだ。

 リアルだって隣の席だけど、話しかけられてもいつも素っ気ない態度しか見せてない。


 まさかそれを恨んでの犯行……そんなわけないか。


「なんでいきなりパーティー申請なんだよ? 俺のこと知ってるんだろ?」

「もちろん、知ってるよ。剣とけんで戦う『二刀流チーター』のヒイロくん」

「……チーター呼びはやめろ。不正は何もしてないんだからな」


 ただ自分でも、チーター染みたユニークスキルだとは思うけど。

 なにしろ俺のユニークスキルは――


「つまり俺の『一方干渉いっぽうかんしょう』が欲しいわけだ」


 MPを消費することにより、自分への攻撃をすり抜けるスキル。

 ただし使用中は武器の使用ができなくなり、体術スキルでの攻撃しかできなくなる。

 ちなみにその弱点はすでに、ユニークスキルの強化で補強済み。

 むしろただ殴る方が強かったりする時もあるほどだ。


「お前もトッププレイヤーなら知ってるはずだ。俺がソロプレイヤーだってことを。それにどうして同じソロのお前が、俺にパーティー申請してくるんだよ?」


「そんなの決まってるよ‼ 一人で冒険してもなにも面白くないんだもん‼」


 なんとも間抜けな叫び声が草原に響く。

 関係のない一般プレイヤーも、こちらを向いている始末だ。


「それでなんで俺なんだよ? どこかのギルドに入れば――」

「私、VRMMOはこのゲームが初めてなんだよね。だから現実とは違って、周りにあまり人を置きたくないっていうか。静かな空気の中で攻略したいの。もちろん、ボス戦とかは大勢の方が楽しめると思うけどさ!」


 学校で見せる一〇〇%の笑顔とは違い、今はまるでイタズラを考える子供みたいな笑顔だった。それどころかさっきから、ところどころ子供っぽい性格が見え隠れしている。もしかしたら、こっちが本当の恋咲なのかもしれない。そう断定するには、あまりにも付き合いが短すぎるけど。


「だから組むなら一人だけ。それも私と同じ、ソロで強い人がいいなと思ってたんだ。でもまさか偶然会おうと思った君が、私の探してた条件に合う人だったなんて――この出会いはもうだよ‼」


 楽しそうに語るヒメ。この申し出をあっさりと断ることは可能だ。

 現に申請された時は、俺もそのつもりでいた。でもこのまま行くと間違いなく、今後も執拗につけ回されそうな気がする。しかも学校でも声をかけられたりしたら、俺に安穏とした学園生活は一生訪れない。クラスで1番可愛い女の子と、一緒に弁当でも食べたら、ちょっとした勇者扱いですよ。


 悪目立ちするのは確定だ。


 ただでさえ自己紹介でやらかしてるのに、これ以上悪目立ちしたらと思うと――


「……わーったよ。お試しで二週間だけだからな‼ それを過ぎても、まだ俺をパートナーにしたかったら好きにしろ。どうせすぐ、コンビ解消になると思うけどな」


 こうして俺とヒメは、仮のパートナー契約を結んだ。

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