第1話 パートナーとの出会い1


 俺、十六夜いざよい白夜はくやがヒメ――恋咲こいさきひめと関わるようになったきっかけ。

 それは今月の頭に行われた、高校の入学式の日まで遡る――


  ***


 滞りなく終わった入学式。新入生は各々自分のクラスへ。

 さてさて、ここからが地獄の始まりだ。

 どういう地獄かというと。


「それでは無事に入学式も終わったところで、みなさんにはちょっと、自己紹介をしてもらいます」


 来た。俺が一番苦手とする時間帯が。

 いっそ『みなさんにはちょっと、殺し合いをしてもらいます』と言われた方が、気が楽で良かった。

 しかもこのクラスの出席番号は俺が1番。否応なしにトップバッターを押し付けられる。……俺、リアルでのコミュニケーションとかすこぶる苦手なんですけど。


「じゃあまずは十六夜白夜くんからお願いできるかな?」


 やっぱり……こうなる運命だったか。


 のらりくらりと、廊下側最前列の俺は立ち上がる。

 すると一気にクラスメイトたちの視線が集まり始めた。

 さすがは自己紹介一人目。クラスからの注目度が高すぎる。

 できるだけ無難な回答をして、あまり目立たないようにしないと。


電子でんし工学こうがく中学出身、十六夜白夜。趣味はVRMMO、最近では『ユニーク・スキル・オンライン』というゲームをプレイしています。好きなものは辛いもの。寝不足で目つきが悪いこともありますが、別に機嫌が悪いわけではないので、気にしないでください」


 淡々と自分の簡単な紹介を終え、椅子に腰を下ろす。

 割と普通にできたんじゃないのか?

 今のならあまり目立つはずも――


「電子校って言ったら、電子工学系の中だとエリート学校だよな?」

「しかも見てよ、あの隈。ゲームのやりすぎで寝不足なのかな?」

「顔は悪くないのに、見るからに取っ付きにくそうな男の子だよね」


 教室の中がザワザワしていた。

 ……あの学校、そんなに有名なところだったのか。

 たしかに中学の頃、外部受験をするって言ったら、大騒ぎになったもんな。

 こっちはただ、仕事場が近くて通ってただけなのに。

 まあその仕事も、中学卒業と同時に契約切れなわけだけど。


「えっと……十六夜くん――」

「はい? まだ何か言わないとダメですか?」


 三徹目の顔で黒板前の担任を見つめる。

 すると睨まれていると勘違いしたのか、先生は慌てるように俺から視線を逸らした。

 別にただ、見てただけなんだけどな……。


「そ、それじゃあ次の人。お願いできるかな?」


 オロオロとした様子の女教師の指示に従い、トントン拍子に自己紹介が進んで行く。

 そのたびに、俺の時には鳴らなかった拍手が小さく響き、俺はみんなの自己紹介を眺めては、「ふむ」と分析を続けていた。


 そして遂に順番は、俺の隣の席へ。

 たぶんクラスで今、最も注目を集めているのはだ。


「恋咲姫です‼ 中学までは全寮制の学校に通っていましたが、高校は地元のできれば共学の学校に通いたいと思い、家からも通いやすい、この学校を選びました。だから同じ中学出身の人がいないので、できればみんな仲良くしてもらえると嬉しいです」


 長い金髪の女の子が、明るくハキハキとした態度で自己紹介を行う。

 俺が自己紹介をした時と比べて、明らかにクラスの雰囲気がいい。

 どうやら、こっちが正しい自己紹介らしい。


 さらに彼女は、琥珀こはく色の瞳を輝かせ。


「最近の趣味はお菓子作りです。他にも体を動かすのは割と好きで、中学時代はフラフラと、色々な部活の助っ人に赴いていました。好きな食べ物は甘いもの‼ 甘いもの好きな女子とは、是非仲良くなりたいです‼」


 パァーっと一〇〇%の笑顔を浮かべる女の子。

 なんとなく、このクラスは彼女が中心になると理解した。

 それぐらい圧倒的な可愛さとカリスマ性が、恋咲姫にはあったから。

 その証拠にさっきまでとは大違いな、大きな拍手が教室内にこだまする。


 何の拍手もされなかった俺と、ここまで拍手をしてもらえる恋咲。

 なんだかこの時点で、クラスカーストのが決まった気がした。


   ***


 それからしばらくした、ある日のこと。


 トイレから教室に戻ると、机の上に紙切れが置かれていた。

 それも、何度も折りたたんだと思われるものが。

 手紙のように見えなくもないけど、一体誰がこんな真似を?


 隣を見れば、相変わらず恋咲を囲むように男女の集団が完成していて、その中の誰かが置いた可能性は決して低くない。

 とはいえ、入学してから俺がまともに関わったクラスメイトは皆無。

 休み時間なんて、隣の恋咲グループに巻き込まれないように、一番遠いトイレに行ってる始末だ。


 まあ開いてみれば、差出人もわかるだろう。


 俺は恋咲を囲む一団に背を向けて、ノートの切れ端だと思われる紙を広げる。

 すると真ん中に小さく、綺麗な字でこう書かれていた。


『今夜20時、“はじまりの草原”にて待つ』


「これって……」


 はじまりの草原。それは俺がプレイしている『ユニーク・スキル・オンライン』――通称『USO』に存在する地名だった。それも第1層にある最初のフィールド。攻略したのは確か、ゲームが発売された直後の春休みか。本当に懐かしいな。あの時は引っ越し作業よりもゲーム優先で、様子を見に来た妹に怒られた覚えがある。


 それにしてもこの内容、まさか差出人は俺と同じUSOプレイヤー?

 俺の自己紹介を聞き、ゲーム内で接点を持とうとしてるのか?


「……悩むところだな」


 差出人は気になるけど、現実だろうとゲームだろうと、誰かと組む気にはなれない。フレンド登録してるのだって、本当に必要最低限の人間だけ。不用意に結ぶことも滅多にない。


 それでも気にならないと言えば嘘になるし、仮にこの申し出をスルーしたことがクラス内に広まれば、俺の妙な悪名が広まる可能性すらある。小中とまともに学校へ通っていない俺からすれば、初めて過ごす学校生活。できるだけ余計な茶々は遠慮したいところ。


 つまり選択肢は一つしかない。

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