第4話
5月の連休が過ぎたころ、そろそろ俺も部活に入ろうかと思っていた。高校生活にも慣れたし、高校の教員をやってる父さんからも入っておいた方がいいと言われてるからだ。
それで、今日の放課後は部活を見に行くことにした。
大治は入学してすぐ中学と同じ野球部に入部した。
同じ野球部出身の俺も大治からかなり誘われたけど断った。電車で通いながら野球部は正直大変だし、高校では違う競技をやりたかったからだ。
花岡中央高校(通称ハナコー)は勉強だけでなく部活にも力を入れている学校だった。個人レベルでは全国大会に行く生徒も少なくない。
ただ、俺の部活選びには譲れない基準があった。
それは、運動部であり、活動が盛んだけど休みがしっかりあって長時間練習をしない部、というものだ。
友達からは「そんな部あるか」と笑われたけどな。
だけど、高校生活は3年間しかない。
俺は学校生活も勉強も、部活動もプライベートも全部楽しくやりたい。少なくとも中学みたいに部活漬けの毎日はごめんだった。
グラウンドに出ると、陸上部、サッカー部、ラグビー部、テニス部が活動していた。
大治の所属する野球部は学校外に専用グラウンドがあるらしい。
サッカー部の方を見ると、彼方がすごい速さでドリブルしながら相手を抜いていった。
さすがだなあいつ。生まれ持ったモノが俺とは違いすぎるわ。
すると、マネージャーをしている雛崎と目が合った。サッカー部のマネージャーは3人いるけど、明らかに存在感が違う。
雛崎がマネージャーとしてサッカー部に入ると、サッカー部の連中は相当浮き足立ったらしい。
もしかしたら俺にもワンチャンあるかも、と思うのが男子の性(さが)だしな。
でも、雛崎がサッカー部の誰かと特別仲がいいという話は聞こえてこないし、誰かと付き合ったという話ももちろん聞いていない。
あえて言うなら、俺を通して彼方とは結構話しているけど、ほとんど俺が間にいることが多かった。
雛崎と目が合うと、笑って手を振ってきた。
うれしいけど、ちょっと待ってくれ雛崎。みんなが思いっきり見てるんだけど。
さすがに無視するわけにもいかないので、こっちも遠慮がちに手を振り返した。
すると、サッカー部男子の視線が突き刺さって痛い痛い。お前雛崎さんの何だよ、という声が聞こえてくるようだ。
いや特に何でもないんです、ハイ。
でも、そういうところは彼方がうまく言ってくれてるみたいで、特に恨まれるとかトラブルとかはなかった。ほんと、持つべきものは友達、だよな。
雛崎が部の仕事に戻ったので、俺は視線を変えた。お目当ての部活動は、サッカーコートの横で活動していたからだ。
陸上部は短距離、長距離、フィールドに分かれて練習していた。全員で20人くらいだろうか。
俺は短距離のゴールに近い、運動場側の校門に寄りかかって活動の様子を見ていた。
聞いたところによると陸上部は月・木・日がほぼ確定で休みだそうだ。
それでいて顧問の中谷先生は若い体育の先生で指導熱心で有名だった。当然部員それぞれのレベルも高く、去年は全国大会でに上位に行った先輩もいるらしい。
でも、練習時間は短いと聞いている。中谷先生が「進学校なんだから短く効率的に」という考えらしく、平日は遅くても18時半までに終わり、休日は3時間以上の練習はしないようだった。もっと練習したい人は個人でクラブに行ってるらしい。
見ていると、女子が短距離のレーンを走っていた。
明らかに1人だけ速い。
少し背が高くスラッとしたその女子は、瞬く間にゴールを駆け抜けていった。ショートカットの髪が風に揺れている。
ゴールの近くにいたせいか、その女子と目が合った。かわいい子だな、と思ったのつかの間。
その美少女の視線は明らかに俺を不振そうに睨んでいる。
「何の用ですか」
極端に抑揚のない声で彼女は言った。俺は正直に答えることにした。
「部活動を見に来たんですけど。陸上部に入ろうかなって」
すると、相手の女子はあきれたような顔をしていた。あれ、季節外れの新入部員って歓迎されないのかな。
「部活動入部期間は終わりましたよ。この時期に見に来るということは、本当は女子目当てですか。さっきも私の方ジロジロ見てましたもんね。サイテー」
彼女の声は実に冷ややかだ。明らかに俺を軽蔑している。
というか、俺は知らない間に変態扱いされていたらしい。まあこの場所で女子の陸上部員を見てたらそう思われても仕方がないのか。
いやいや、そうじゃないだろ。このままじゃ、陸上部に入っても女子からずっと「あの時の変態」って言われてしまう。
「いやちょっと待ってください。本当に入りたいだけなんですけど」
俺の心からの言葉を聞いても、彼女は一切俺を信じている様子はなかった。
誰か助けてください!
すると、後ろから中谷先生がやってきた。若くて気さくないい先生だ。俺は体育の授業でお世話になっていた。
「お、園山じゃないか。やっと部活やる気になったか。陸上部はどうだ?」
「あ、中谷先生。頑張りますので、ぜひ、陸上部に入らせてください。よろしくお願いします!」
俺は祈るように、すがるようにして中谷先生を見た。
「当然だよ。もっと早く来ても良かったくらいだ。明日から練習来いよ」
「はい! ありがとうございます」
こうして、俺は陸上部に入部することになった。
さっき俺を変態扱いした美少女が申し訳なさそうな顔をしている。
「ごめんなさい。本当に入部希望だなんて思わなかったんです」
美少女が頭を下げる。俺はもう気にしていなかった。
「頭を上げてよ。気にしなくていいから、俺も気にしてないし。それより、これから同じ部活だからよろしくね」
俺は落ち込む相手をなだめるように、なるだけ優しく言った。
「俺は園山慎一。君って1年生? だったら敬語はなしで。あ、先輩だったらすみません」
長めのショートカットの、スレンダーな美少女がこちらを向いている。何となくだけど、同級生じゃないかと思っていた。
少しだけ噂で聞いていたのだ。陸上部にかわいい1年生が入ったって。
「私は1年6組、高山花音(たかやま かのん)。これからよろしくね、園山君」
6組か。理数コースだな。ハナコーは1~4組が普通コース、5・6組が理数コースだ。当然、理数コースの方が成績が良い。
「こちらこそよろしく、高山さん」
高山さん、って言うのか。正面から見ると噂の通りかわいいな。雛崎とか玉木さんと系統が違う。言ってみれば、爽やかスポーツ系美少女だ。
それから陸上部の活動が始まった。
種目は、俺は迷った結果、短距離を選択した。
正直言って俺は足が抜群に速いわけじゃない。普通より速い、というくらいだ。
それでも、短距離に挑戦したいと思った。思い切り走ることが好きだったからだ。
決して、高山さんと一緒だからって訳じゃないぞ、多分。
陸上部は事前のリサーチ通どおり、活動は熱心だけど週三日の休みが確保されていて、練習時間も短期集中だった。
これなら、俺が思い描いていた理想的な全部楽しむ高校生活が送れそうだ。陸上部に入ってほんと良かったと思った。
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美少女達の友人A ~女子の話を聞くのがうまいだけのモブな俺が、気がついたら学年屈指のイケメン美少女グループの中心にいたんですが(でも、絶対に好きになっちゃいけない)~ エルティ @ltmkun
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