第3話

 「ねぇ園山。ちょっといい?」


 今は4月半ば。休み時間になると、結構な割合で雛崎が俺に話しかけてくる。


 雛崎は女子と話している時も多いけど、そうじゃないときは俺に話しかけてくることが結構あった。


 当然、事情を知らない男子達からは毎回奇異の目で見られる。


 分かる分かる、「何でこいつが雛崎さんと仲いいんだ?」だろ。俺だっていまだに何でか分からないからね。


 でも、雛崎はそんな男子の視線をまるで気にしていないようだった。


 雛崎は机に座っている俺を下からのぞき込むようにして見ながら聞いてくる。


 「どう? 入学してしばらく経ったけど、気になる人はいる?」


 雛崎からこの質問が来たのは既に3回目だ。


 俺は過去2回と全く同じように即答する。


「いや今んとこ全く。高校に来たら運命の出会いが待ってると思ってたんだけどな」


 それを聞くと、雛崎は左手を口に近づけ、少しいたずらっぽく笑う。心なしかうれしそうにも見える。その顔もかわいい。


 それにしても雛崎ってほんと、人の恋バナ好きだよな。俺の恋バナとか、何が面白いんだろ。


 「ふーん。いつもと同じ答えかー。つまんないね園山は。つまんない高校生活だね」


 そう言いつつも雛崎は楽しそうだ。


 つまんなくて悪かったな。こいつ、俺の恋で遊ぼうとしてないか?


 俺はちょっと悔しかったから、少し考えて反撃することにした。


 「おい、恋愛相手がいないからって俺の高校生活がつまらないって決めるなよ。俺の高校生活はまだ始まったばかりだからな。ていうか、雛崎お前俺に相手がいないのを面白がってるだけだろ。そっちこそどうなんだよ。高校に来て運命の相手に出会ったのか?」


 うーん、と雛崎は頭を左に傾けて考えるポーズを見せた。すると、いいいたずらを思い浮かべたような、ニヤリとした顔をして俺に向き直った。


 「運命の相手、ねぇ。じゃあ、私との出会いは運命じゃないってこと?」


 反撃したつもりが、思いっきりどでかいカウンターを食らってしまった。


 おいみんなの前で何言ってんだよ。いきなりドキッとすること言うよな雛崎って。


 でも、俺はそれ以上動じなかった。


 普通の、雛崎が気になってる奴ならどぎまぎするところだろうけど、中学で雛崎に鍛えられた俺はこの程度じゃ動揺しないからな。


 「なに冗談言ってんだよ。運命だって俺が勘違いしてたら、今みたいな関係にはなってないだろ」


 そう、ただの友達として話すだけの関係に。それでも、俺にとっては結構大事なものだ。


 雛崎の顔には『そう来たか』という、また面白がっている表情が浮かんでいた。


 「じゃあ、園山は私の運命の友達ってこと?」


 ああいえばこう言うなぁ雛崎って。まあいいか。俺ら友達だしな。


 「それならしょうがないな。そういうことにしておこう」


 そう言うと、雛崎は満足そうな顔をした。


 「ふふ、園山もまだまだね。ところで、園山って何部に入るの?」


 話題が変わった。部活動の話だ。


 「俺は、今んとこ未定かな。運動部で楽なとこないかなーって」


 雛崎は冗談めかしたような、あきれたような顔を見せた。


 「またそんないい加減なこと言って。野球はもういいわけ?」


 雛崎は俺と同じ中学校だから、俺が野球部だったことは知っている。


 「いや、野球はもういいかなって。勉強もやらないといけないし、続けやすい運動部を探してるとこだよ。雛崎は、もう決めたのか?」


 雛崎は中学の頃は軟式テニス部だった。少しだけプレイを見たことがあるけど、お世辞にもうまいって感じじゃなかったな。


 「私はサッカー部のマネージャーって決めたんだ。お兄ちゃんがサッカーやってたしね」


 「そうなんだ」


 雛崎の兄は、確か俺らの3つ上で、サッカーのすごい選手だって聞いたことがあった。


 キンコーン、キンコーン。


 「じゃ、またね」


 次の授業の予鈴の音と同時に、雛崎は自分の席に戻っていった。





 雛崎と話し終わったあと、毎度のように男子が群がってくる。


 「園山。お前、やっぱ雛崎さんと付き合ってんの?」


 「いや何度も言うけど、マジで付き合ってない。今後もそんな予定はない」


 「じゃあ好きなんだろ、雛崎さんのこと」


 「好きでもない」


 「じゃあ何であんなに仲いいんだ?」


 この話何度目だよ、と思いながら、ため息をぐっとこらえる。必要以上に雛崎に気を使わせたくないしな。


 「そんな仲良く見えるか? 普通の友達で、ただ話し相手になってるだけだって。中学から何も変わってない。悲しいくらいにな」


 俺は最後おどけることで何とか話を終わらせようとした。


 その後も男どもが羨ましいだの代わってほしいだの言っていたけど、こればかりは雛崎が決めることだからな。俺にはどうしようもない。


 「俺も気になるな。園山が雛崎さんと本当はどんな関係なのか」


 そう言ってきたのはスーパーハイスペックイケメンこと空野彼方だった。


 「空野。そう言ったって何も出ないぞ。だってただの友達ってだけで本当に何もないんだからな」


 「どうせそう言うと思ったよ。でも、今後はどうなるかなんて分からないだろ?」


 やれやれ、空野もか。仕方ないな。


 「いやいや。ちょっと考えてみろよ。お前みたいなイケメンならともかく、俺と雛崎の間に何かあるわけないだろ」


 空野は腕組みしてフフッと笑う。なにこいつ、男の俺から見ても格好いいんだけど。下手したらうっかり惚れてしまうだろ。


 「いや、本当にこれからどうなるか分からないぞ。雛崎さんとは部活で一緒だし、頑張ってていい子だと思うけど、俺は今んとこいいかな。お前頑張ってみたら?」


 「はあ? 何を頑張れっていうんだよ」


 空野、今後は彼方って呼ぶけど、彼方とはこの後すぐに気が合って何でも話せる仲になった。


 部活のない日の放課後にカラオケに行ったり、休みが合えば遊びに行く仲だ。高校からの親友、って言ってもいいと思う。

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