第2話

 4月。高校に入学する日がやってきた。


 俺がこれから学校生活を送る花岡中央高校は、宮崎県花岡市にある進学校だ。


 花岡市出身の生徒が多いけど、隣のひなた市から電車で通う生徒も少なくない。


 俺も、その1人だった。


 俺は両親と別れ、クラス分けを見に行った。


 できれば西園寺中の出身者が同じクラスだと心強い。確か、10人ぐらいは進学したはずだ。


 クラスの名表を見てみると、市川大治(いちかわ だいじ)の名前があった。


 大治は俺のいわば悪友で、中学時代によく休みの日にゲーセンやスケボー、サーフィンで遊んだ仲だ。


 親友、というわけではないけど、面白い奴だ。大治がいるからとりあえずクラスにはなじめそうだと思った。


 下のほうを見ると、雛崎夢乃、という名前があった。


 雛崎ともまた同じクラスか。運がいい、と言っていいのだろうか。


 すると、バン、といきなり背中を強く叩かれた。この学校に、こんなことをしてくる奴はあいつ1人しかいない。


 「慎一ィ、また同じクラスだな。よろしくな」


 大治は悪気なさそうにニヤニヤしている。


 「いってぇなあ。いきなり叩くな、大治。まあ、お前と同じクラスでほっとしたよ」


 「なあ、雛崎も同じクラスだぞ。ラッキーだな俺ら」


 大治は本当に嬉しそうだ。


 「何、お前雛崎狙ってんの?」


 俺が試しに冗談を言うと大治はすぐに首を振る。


 「ないない。俺もお前もモテないだろ? モテない奴が高望みしたってロクなことがないってこと、俺は中学で学んだからな」


 確かに、大治は中学で高望みして痛い目に遭っていた。


 大治は決して、全くモテないってほどの奴じゃない。ノリもいいし、身長は俺より少し低いけど顔も悪くない方だった。少なくとも俺よりモテそうな顔だ。


 「だから、高校じゃ俺に合った女子と出会って、付き合いたいなって」


 「ま、頑張れよ」


 俺が興味なさそうに答えると、大治はすぐにかみついた。


 「お前俺の恋愛とかどうでもいいと思ってるだろ。今に見てろよ、かわいい子連れてくるからな」


 やっぱりこいつ、中学から何も学んでないじゃないか。


 「楽しそうな話してるね」


 そう声をかけてきたのが誰だがすぐ分かる。


 「そんな楽しい話でもないぞ、雛崎」


 雛崎はこっちを見てにこりと笑った。


 「あ、ひ、久しぶり雛崎。卒業式以来だね」


 同級生相手になに緊張してるんだ大治の奴。


 「久しぶり、市川くん」


 そう言うと雛崎はすぐに俺の方を向いた。


 「ねぇ園山、また同じクラスだね。卒業式の約束、覚えてる?」


 忘れるわけがない。俺は即答した。


 「覚えてるよ。ちゃんと話聞くから、何かあったら言ってくれよ」


 蚊帳の外に置かれた大治が割り込んでくる。


 「ちょっと慎一、二人の世界に入るなよ」


 「別に入ってなんかないって。雛崎とはいつもの会話をしてるだけだから。なあ雛崎」


 そう、知らない人が見たら一見親しげに見えるだろうけど、俺と雛崎の間には友人以上のものは何もなかった。


 「そのいつもの会話ってのがうらやましいんだけどな」


 大治がぼそっとつぶやく。まあそう思うのも無理はないわな。


 雛崎がクスッと小鳥のように笑う。


 「それじゃまたね」


 そう言って雛崎は女子の集団の方へ行った。あーやっぱ雛崎かわいいわ。


 いやいや、間違えるなよ、俺。かわいい子に惚れて青春を棒に振るんじゃなくて、ちゃんと自分に合った運命の相手を探すんだ。





 入学式が終わってしばらくすると、クラスの人間関係ができてきて、クラスメイトの大体の様子も分かるようになってきた。


 俺は改めてクラスを見回す。もしかしたら、この中に俺の運命の相手がいるかもしれないからだ。


 1年C組のクラスメイトは男女ともにノリが良くて、基本的に明るい人が多い。俺は陽キャって訳じゃないけど(隠れオタクではあるけど)、これならすぐなじめそうだと感じた。ほんと、いいクラスで良かったよ。


 それに、女子のレベルも結構高めだし。色んな意味でいいクラスだ。


 そんな中、男女問わず視線を集めているのが3人。


 1人は男子だ。スラッと背が高く正当派のイケメンで、中学じゃサッカー部だったらしい。ぱっと見た感じ間違いなく運動能力は高いだろう。多分、放っておいても彼女ができる典型的なモテ男だ。


 名前は空野彼方(そらの かなた)と言うらしい。名前からして完全に主人公じゃないか。実際、空野は女子の視線を一身に集めていた。


 こういう空野だけど、話してみると実は人当たりが良くて話しやすい奴だった。何回か接して、直感でこいつとはきっと仲良くなれるだろうなと思った。少なくとも、陽キャイケメン特有の偉そうなオラオラした感じは全くなかった。


 あとの2人は女子だ。


 1人はもちろん雛崎夢乃。つやつやとした黒髪のポニーテールが本当によく似合う。整いすぎてる容姿はもちろん、圧倒的な明るさとコミュ力で女子はもちろん男子とも分け隔てなく仲良くなっている。


 もう雛崎のことが気になってそうな男子が結構いる。まあ当然だよな。雛崎は間違いなくこのクラスの中心的存在になるだろう。


 もう1人は、雛崎とは系統の異なるかわいさを持つ女子、玉木愛瑠(たまき あいる)さんだ。背が低めで、髪型は少し茶色めのツインテール。目がくりくりした小動物っぽいかわいい系女子だ。


 雛崎とは対照的に、他の女子とつるまず1人で過ごしていて、休み時間はだいたいスマホを見ている。ただ、雛崎とは話が合うらしくて、時々甘ったるくてかわいい笑い声が聞こえてくる。というのも、玉木さんは俺の隣の席だからだ。


 ただ、入学してから今まで話したことはなかった。だって男子が話しかけてもほとんど無視されてるから。怖くて話しかけられないだろ。


 玉木さんを気になっている男子も結構いるみたいだ。でも、玉木さんは彼氏いるって聞いたような気がするけどな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る