【第五章:フィナティピ王国篇】

第12話 『氷露柱・決戦(デシベル・オブ・シール)ー(後篇)ー』


 氷露柱が、再び震えた。

 仮面の男の足元に浮かぶ黒陣が、雪を焦がすほどの冷闇を放つ。

 その輪は柱の根元へ伸び、氷の大地全体が脈動を始めた。


「――国家間封印を繋ぐ“鎖”よ。目覚めよ。」

仮面の男の声が低く響く。

 その直後、氷露柱から無数の黒い文様が走り、地脈に刻まれていく。


 ユーコが息をのんだ。

「封印の力が……歪んで流れています! このままでは王国全体が――!」

「止めるしかねぇな。」

 マーカスが短く吐き捨て、剣を交差させる。

「リュゼ、右側の結界層を断て!」

「了解、今度こそ終わらせます!」


 リュゼが槍を突き立てる。

 《ルーミナス・グレイヴ》が液体化し、氷の大地を這うように光の陣を描いた。

「氷陣・転律――《蒼輪破界》!」

 蒼銀の柱が噴き上がり、闇の陣と衝突。

 地表が白光と黒霧の狭間で裂ける。


「甘いな。」仮面の男が腕を振る。

 黒陣が裂け、闇から数百の影兵が這い出す。

「闇に囚われた兵の残滓かよ……趣味の悪いことを。」

 マーカスは魔銃を抜き放ち、構えを低くした。


「《ブラッドソウル》――連鎖射撃!」

 紅弾が弾け、影兵たちの核を穿つ。

 血煙が氷気に溶け、霜が瞬時に凍りついた。

 続けざまに左手を翻す。

「《デッドソウル》――死弾連携、《ヴェイル・リボルヴ》!」

 黒の弾幕が曲線を描き、影を一掃した。


 だがその瞬間、仮面の男の姿が消える。

「……上か!」

 マーカスが反射的に剣を交差。

 空から、闇の刃が降り注ぐ。

 火花が爆ぜ、氷の破片が宙を舞う。


 ユーコの声が響く。

「マーカス、動かないで――《惑星詩・セラ・フォルテ》!」

 聖光の歌声が舞い、闇の刃を包み込む。

 一瞬の光の中、仮面の男の姿が露わになる。


「……光の歌。なるほどなぁ、女ぁ〜白の巫女とはお前のことか。」

「あなたにその名を呼ばれる筋合いはありません!」

 ユーコの瞳が鋭く光を放つ。

 彼女の周囲に浮かぶ惑星環が加速し、光子の奔流を生んだ。

「時の惑星、軌を戻せ――《クロノ・エクリプス》!」


 時の魔法が発動し、仮面の男の動きが一瞬鈍る。

 その隙を、マーカスが逃さない。

「喰らえ――《双刃・紅蒼交斬(クロス・イーター)》!」

 二剣が交差し、闇と光が爆ぜた。

 仮面の男の外套が裂け、血煙が舞う。


 だが、彼は笑っていた。

「悪くないねぇ。……だが、この封印、解ければお前たちの勝ち…ではないんだよ。」

 彼の掌に黒い光球が生まれる。

「“国家間封印”は、連鎖している。――一つ壊れれば、他も呼応する。」


 氷露柱が轟音を立てて震える。

 周囲の氷壁に無数の光が走り、空が裂ける。

 マーカスが叫ぶ。

「全員、全力だ! このままじゃ王国ごと凍り潰れる!」

「……来ます、暴走波動!」リュゼの声が鋭く響く。


 三人は一斉に陣を組む。

 ユーコの詠唱が風を揺らす。

「惑星たちよ、封を結び、秩序を還せ――《惑星調律・ハーモニア・エテルネ》!」

 光の輪が氷露柱を包み、蒼銀の結晶が純白へ変わる。


 リュゼが槍を掲げる。

「氷槍よ、封を鎮めろ――《極環・リフリーズ》!」

 氷の波動が封印核に流れ込み、暴走の光を押し返す。


 マーカスが双剣を地へ突き立て、叫んだ。

「魂喰いの誓いにて、我は封を斬り、道を繋ぐ――《ソウル・レゾナンス》!」


 三者の力が一点に収束する。

 蒼と白と紅。

 それが氷霜柱の中心で混ざり合い、光が爆ぜた。


 ――そして、静寂。


 雪が再び降り始めた。

 氷露柱の光は穏やかに脈打ち、凍った地に温もりを戻していく。

 ユーコが手を伸ばし、微笑む。

「……成功です。フィナティピの国家間封印、完全に解かれました。」


 マーカスは剣を収め、空を見上げた。

 氷の雲が割れ、黎明の光が差し込む。

「やれやれ……ようやく一息つけるな。」


 その背後、裂けた氷の向こうに黒い霧が漂う。

 仮面の男はそこに立ち、静かに笑っていた。

「封印は一つ解けた。……だが、すべてが鎖で繋がれている。

 いずれお前たちも気づくだろう。“真の封印”の意味にな。」


 闇が彼を包み、姿が掻き消える。


 リュゼが槍を下ろし、深く息をついた。

「……去りました。ですが、あれは終わりではありません。」

「わかってる。だが、今は――勝ちだ。」


 マーカスが帽子を直し、笑う。

 雪原の上で、三人の影がゆっくりと並んだ。

 氷霜柱の中心には、蒼く輝く紋章。

 それは、国家間封印の解放を告げる印だった。

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