【第五章:フィナティピ王国篇】
第1話 『ーー白き渓谷へ至る道ーー』
北方の風は、刃のように鋭く大地を裂いていた。
ハイフィディック大陸北端――フィナティピ王国。
“氷の誓士”を祖に持つ民が、白霧と氷雪の大地で今も誓いを紡ぐ国である。
マーカスとユーコは、王都を離れ、北渓谷へと続く峠道を進んでいた。
灰色の空の下、吹雪が斜めに打ちつけ、足跡をすぐに飲み込む。
「……まるで世界そのものが、眠ろうとしているみたいですね」
ユーコがマントの裾を押さえながら、静かに呟く。
その声音はいつも通り穏やかでありながら、どこか底に張りつめたものがあった。
「眠るか、凍えるか……どっちにしても“封印”の香りがする」
マーカスは肩に積もった雪を払い、視線を遠くに向けた。
ソウルイーターの柄にかすかに触れる指が、無意識に警戒を示していた。
前方――雪嵐の帳の向こうに、白く沈む峡谷の影が見える。
風の流れが、わずかに乱れていた。
「風が、輪を描いています……。何かが、この谷に眠っている証ですね」
ユーコは掌を開き、淡く光る霊子の粒を風に放った。
流れは北東へ、螺旋を描きながら収束していく。
それは、封印か、あるいは“誓い”の残滓。
「……行くか」
マーカスの言葉に、ユーコは微笑みを返した。
その瞳の奥には、白光が一瞬、星のように瞬いた。
彼らの足取りが、やがて雪の帳に消えていく。
――同じ頃、遠く北の断崖では、ひとりの青年が氷の中で祈りを捧げていた。
“氷紋の誓士”の末裔、リュゼ・アウリステル。
蒼銀の霧の中で、彼の手に宿る液体の聖銀がわずかに震え、呼応する。
その時、風が、ふたつの運命を結び合わせた。
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