【第四章:インデビト王国篇】「深層の審律」

第6話 『インデビト最終章

――封印の真響・心の残響――』


 夜明け前の蒼光が、王都〈トリル=メッサ〉の尖塔を撫でていた。

 空はまだ眠りの色を残しながらも、遠くで微かに「光の脈動」が震えている。

 それはこの地の封印が解かれた証――

 神代から閉ざされていた“魂の門”が、再び星と呼応を始めた時の徴。


 マーカスは砕けた祭壇の中央に立っていた。

 足元にはまだ黒曜石の破片が散り、魔力の残響が淡く流れている。

 風が舞い、灰と光を混ぜながら、静かな旋律のように周囲を包む。


「……終わった、のか」


 独り言のように呟いた声は、どこか遠く、己の胸の奥へ沈んでいく。

 戦いの熱も、怒りも、全てが霧散し、ただ空虚な静けさが残った。

 だが、その沈黙の奥で――何かが確かに“動き出して”いた。


 背後から、柔らかな気配が近づく。

 白銀の衣を揺らしながら歩むユーコ。

 その瞳には、もう“迷い”という言葉は似合わない。


「封印は解けました。でも……この大地の響き、聞こえますか?」

「……心臓の鼓動みたいだな。大陸そのものが生き返ってる」


 二人の言葉が重なった瞬間、風がわずかに熱を帯びた。

 インデビト王国の地脈が蘇生を始め、各地の聖泉や古塔に宿る魔紋が再び光を放つ。

 だがそれは、同時に〈監視の目〉の覚醒でもあった。


 王城の奥、封印の観測者たちが慌ただしく報告を交わす。

 魔導庁の水晶鏡が軋みを上げ、見たことのない符号を描き出していく。


「……観測限界を越えた。これは“封印の共鳴”ではない。世界律そのものが――」


 その言葉を呑み込むように、鏡の中に“誰かの影”が浮かんだ。

 それは遠く離れた三つの宗派が、それぞれの聖地で異変を感知する


「この光……女神の律を越えた波。異端、あるいは――“新しい神格”」


 そして、砂の果てで封印監視を続ける黒衣の者もまた、呟いた。


「……目覚めたか、彼女。愛による神性……。これが、信仰を超える者の光か」


 一方その頃、マーカスは剣を収め、空を見上げていた。

 あの戦いの中で見た、ユーコの“白き覚醒”の輝きがまだ瞼の奥に焼きついて離れない。

 恐れではない。畏敬と、そして――愛。


「なあ、ユーコ」

「はい、マーカス?」

「お前、もう……人の枠なんて越えちまってるんじゃないか?」

「越えたとしても、私は“あなたの隣”にいたい。

それが、わたしの〈祈り〉なんです」


 その微笑みの中に、確かに神の気配が宿っていた。

 だがマーカスは、それを“人としてのユーコ”として抱きしめた。

 剣士と聖女――二つの魂が、戦いの果てに再び“共に生きる”という現実へ戻る。


 ……インデビトの地に、長い夜が明けていく。


 だが、彼らが知らぬところで。

 王国の地下、封印の空洞に残された“もう一つの印章”が、微かに光った。

 それはまだ、解かれていない第七の紋。

 そして、その震動は――東方のフィナティピ王国の魔法塔にも伝わっていった。

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