【第四章:インデビト王国篇】「深層の審律」

第2話 『水環の都ルベル=ハルマへ』


 灰街を抜けた先に、濃霧の水面を渡って姿を現したのは、〈水環都ルベル=ハルマ〉――インデビト王国の中心都市だった。


 高層の楼閣が水路の上に浮かび、無数の橋と水晶の管が交差している。

 街全体がひとつの巨大な**水環機構(アクア・ルーメ)**として機能し、水と魔素の流れを制御している。

 その中心には、青白く輝く巨大な柱――

**第四柱水環柱(アクア・ラビリンス)**がそびえ、王国の“審律”を司る心臓として脈打っていた。



【入都】


 王国境界の関門を越えると、蒼銀の鎧をまとった**水守騎士団(ハイドロナイツ)**が待ち構えていた。

 彼らの胸甲には、波を模した紋章とともに古代語で刻まれた銘――“Aqua Ordinis(流水の律)”。


騎士長:「止まれ、異邦の旅人よ。名と目的を」

マーカス:「魔銃剣士、マーカス・ロッティ。封印柱の調律任務で来た」

ユーコ:「白魔導士、ユーコ・クラウス・リップコットン。同行者として同任務に従事しています」

騎士長:「……中央管理庁の印章、確認。よかろう。封印柱への接近には、“王家審律院”の承認が必要だ。導師をつけよう」


 重い水門が開く音が響く。

 水と魔素が混じり合う風が二人を包み込み、

マーカスはわずかに顔をしかめた。


マーカス:「……湿気が濃い。魔力が水に引かれる感覚だ」

ユーコ:「ええ。ここの魔素は“流れ”を記憶しています。人の感情や祈りまでも、水脈として街に巡る……そんな印象です」

マーカス:「まるで街全体がひとつの“生き物”みたいだな」



【出会い――審律院の導師 セルナ=オルド】


 出迎えたのは、青白の法衣をまとった導師。

 銀の杖に水晶環を掲げ、その瞳は湖底のように静かだった。


セルナ:「――ようこそ。審律院導師、セルナ=オルドと申します」

「お二人の目的は承知しています。第四柱水環柱への接続ですね」

マーカス:「ああ。封印の解調を行う。ここに来たのは、それだけだ」

セルナ:「……ですが、柱は“深層の環”に沈んでいます」

「接近するには、“水律の許可”を得ねばなりません」

「それはこの都で、自身の“心の流れ”を審律に照らす儀式を通してのみ許されるのです」


ユーコ:「“心の流れ”を……照らす?」

セルナ:「ええ。水は嘘を映しません。もし心に濁りがあれば、たちまち波立ち、通過を拒むでしょう」


 マーカスは少し沈黙したあと、苦笑を浮かべる。

「つまり、“素直じゃない奴”は通れないってわけか」

 ユーコはその言葉に小さく笑いかけそうになったが、目を伏せて静かに息を整えた。

 彼女にとって“審律”とは、ただの試練ではない――

 惑星術士としての内界との調和そのものだった。



【水環市の静寂】


 セルナの手配で、二人は水環市内の滞在許可を得る。

 街のいたる所で、透明な水晶管が水を流し、音もなくそれが建物を潤していた。

 この国では、“流れを見る”ことが祈りとされている。


 ユーコは広場の噴水の前に立ち、その水面に指をかざした。

 流れに魔力を乗せ、心の詩を紡ぐ――彼女の特有の祈り方だった。


ユーコ:「……“流れよ、惑う心を写すことなく、ただ真を還せ”……」

マーカス(少し離れて見ながら):「あの集中力……まるで水に話しかけてるみたいだ」

セルナ:「彼女のような詠唱は、この国でも稀有です。もしかすると――“水律”が彼女を先に選ぶかもしれませんね」

マーカス:「……俺の方は、水と相性が悪くてな。錆びちまうんじゃないかって気がしてる」


 セルナは小さく微笑み、言葉を返さなかった。

ただ、その視線はマーカスの背を静かに追っていた。

 “水律の許可”は、必ずしも力だけで得られるものではない。

――そのことを、彼女は誰よりも知っていた。

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