【第三章 :メルツ王国編】

第13話 『氷原を抜けた先のひととき』


◆シーン1 戦いの余韻と街への帰還


 氷原の封印柱フロスト・コラムを安定させてから、マーカスとユーコはゆっくりとメルツ王国の街へ戻った。

 雪解け水が流れる道沿い、氷の結晶を含んだ風が柔らかく頬を撫でる。


 街は戦闘前の喧騒を取り戻していた。

 石畳の広場には屋台が並び、暖かいスープや焼き魚の香りが漂う。

 子供たちは雪の残る広場で遊び、通りには毛織物や革製品を売る店が軒を連ねていた。


「嬢ちゃん、ほら、あのパン屋の香り……悪くねぇな」

 マーカスが鼻をくすぐらせるように言うと、ユーコは小さく笑った。


「はい……久しぶりに、人の生活の匂いっていうか……落ち着きます」


 二人は屋台の前で足を止め、温かい飲み物を買った。

 人々の会話が柔らかく響き、氷原の冷たさと緊張が嘘のように遠ざかる。

 「今日は一日ゆっくりしていきなさい」と、老店主が笑顔でスープを差し出す。


 マーカスは少し照れたように、

「お前さぁ、あんまり無理すんじゃねぇぞ」

と言いながら、ユーコの手にカップを渡す。

 ユーコは驚いた顔をしたが、素直に受け取った。



◆シーン2 滞在のひととき


 街に滞在する日々、二人は氷原の戦いを思い返すことが多かった。

 夕暮れ、街の塔の鐘が響き、通りの灯が雪に反射して淡く光る。

 屋根の上では子猫がじゃれ合い、道行く人々は日常の笑顔を交わしていた。


「お前……あの時、すぐに《プロテア》を展開してくれたよな」

 マーカスがふと呟く。ユーコは少し頬を赤くして小さく頷く。


「ええ……でも、マーカスさんがいてくれたから、できたんです」

 その言葉に、マーカスの肩の力が自然と抜ける。

 戦いの緊張はまだ胸に残るが、確かに“共鳴”が二人の間に残っているのを感じた。


 市井の人々の生活もまた、二人の心を和ませた。

 子供が滑り台で転ぶと、母親が笑いながら手を差し伸べる。

 鍛冶屋の男は、通りすがりの旅人に剣の手入れの助言をしていた。

 どれも、氷原では見えなかった生の営みだ。



◆シーン3 絆のささやき


 ある夕方、二人は街外れの小さな噴水広場に立った。

 水面に街灯が映り、淡い光の輪が揺れる。


「嬢ちゃん……」

 マーカスは言葉を切り出す。

 「…お前、疲れてないか?」


 ユーコは杖を軽く握り直し、微かに笑う。

 「大丈夫です……マーカスさんが一緒だから」


 その短い言葉に、マーカスは肩の力を抜き、少しだけ微笑む。

 戦闘の疲労と、互いに感じる信頼の温かさが胸を満たす。

 彼は一瞬、ユーコの目を見つめたが、すぐに視線をそらし、軽く頭をポンっと叩く。


「遠慮なんかすんなよ……俺ら相棒だろ」

「なんでも言いたいことを言うのが、相棒ってもんさ」


 二人は自然に笑い、短い沈黙が心地よく広がる。


 ユーコは少し頬を赤くして、目をそらしながら小さな声でつぶやく。

 「……私、つい頼りすぎちゃいますね、マーカスさん……」


 その言葉は自分でも少し照れくさかった。

 でも胸の奥では、戦場で感じた安心感と温かさが混ざり、自然と彼を男として意識している自分に気づいていた。

 優しくて、頼もしくて……これって、恋……なのかもしれない、と。


 マーカスはまだ気づいていない。

 だが、ユーコの胸に芽生えた小さな想いは、静かに、確かに二人の絆に色を添えていた。


 この一週間、街での滞在と日常の営みが、二人の距離を少しずつ縮めていた。



◆シーン4 旅立ちの前の静けさ


 滞在最終日、街の広場では収穫祭の準備が進められていた。

 新鮮な野菜や果物、冬用の毛布、地元の蜂蜜が並び、子供たちの笑い声が通りに溢れる。


 マーカスは雪の残る道を歩きながら、ユーコに声をかける。


「嬢ちゃん……次の国は、もう決まってる。インデビト王国だ」

 ユーコは少し驚き、でも微笑みを浮かべて頷いた。


「はい……でも、マーカスさんと一緒なら、怖くないです」


 風が二人の間を通り抜け、街の喧騒をやさしく包む。

 空は薄く茜色に染まり、街の屋根や塔の影を長く伸ばした。


 雪原を渡る風が、二人の歩みに合わせて優しく揺れ、遠くの山々に静かな旋律を響かせる。

 そして、次章、インデビト王国への旅が、二人を新たな冒険へと誘うのだった。

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