【第三章 :メルツ王国編】

第11話 『氷原に揺れる封印の呼び声』


◆シーン1 霊脈の震え


 フロストヴェール氷原の空気は、先ほどより重く沈んでいた。

 寒さではない。風でもない。

 大地そのものが低い唸り声を上げ、雪面に微細な振動を伝えている。


 マーカスは足を止め、左肩に意識を集中させた。


――ドクン。


 調律印が深く脈打つ。


 「……来てるな。封印の“揺らぎ”だ」


 ユーコはグリンガーブの錫杖を胸元に寄せ、瞳を細める。

 風鈴の音が小さく震え、周囲の魔力の乱れを知らせる。


 「魔力の流れが……乱れています。

  フロストコア周辺で、何かが起きています……」



◆シーン2 封印の乱流


 二人が歩を進めるほど、空気は逆巻き、雪は渦を描き舞い上がる。

 まるで天へ吸い込まれるかのような白い嵐。


 「嬢ちゃん、下がれ。魔力の“断層”だ」


 マーカスが警告すると、前方の空間にひび割れのような光の裂け目が走る。


――バキンッ。


 裂け目から氷片の魔獣が姿を現した。

 狼の形をしているが、身体は砕けた氷と濁った魔力の塊で構成されている。


 ユーコが息を呑む。


 「これ……封印の魔力が、自壊して生まれた“欠片”……!」


 「喋ってる暇はねぇ!」


 マーカスが雪を蹴り、前へ飛び込む。



◆シーン3 戦闘―共鳴のはじまり


 氷片の魔獣が鋭く咆哮し、白い光の軌跡を描きながらマーカスへ襲いかかる。

 牙と氷片の破片が空間を裂く。


 「はぁッ!」


 マーカスは魔吸剣ソウルイータを構え、斬撃は魔獣の進路を断ち切る。

 切断の衝撃と同時に、奪い取った魔力が刃に宿り、鎧の上で脈打つ。


 氷片が飛び散り、光の粒となって舞う。

 その粒に、ユーコは杖を高く掲げ、胸元の星紋を輝かせた。


 「聖光壁プロテア!」


 柔らかな光の膜が展開され、散乱する氷片を一つ残らず弾き返す。

 膜は風と共鳴し、微かに揺れるが決して崩れない。


 裂け目から次の魔獣が滑り出す。

 マーカスは瞬時に魔蝕剣イロゥドイータを抜き、敵の装甲を蝕みながら押し返す。

 続けて魔血銃ブラッドソウルを構え、血魔力を標的から吸い取り、弱体化させる。

 弾丸が魔獣の防御を突き抜け、光の軌跡を描く。


 ユーコは杖を振り、白魔法プロテアで防壁を再展開。

 さらに惑星術・光星術ルーミナル・スフィアを重ね、光の奔流が氷片の魔力を浄化する。


 短い間に、斬撃・蝕撃・銃撃・魔法が連鎖する。

 互いに呼応するように、マーカスの斬撃は魔獣を切り裂き、ユーコの魔法は破片を弾き返す。

 戦場に星の律が降り注ぐかのような、神聖な響きが満ちる。


 「マーカスさん……私、見えます。

  封印の魔力の流れ……ほんの少しだけ……!」


 「……上等だ。“共鳴”が起きてる」


 再び魔獣が跳躍し、ユーコの側へ迫る。

 マーカスは雪を蹴り、横から割り込み、魔蝕剣で裂き払う。

 瞬間、魔獣は粉砕され、光の粒となり霧散する。


 戦場には短い静寂が訪れる。

 調律印が肩で脈打ち、封印の声が呼びかける。



◆シーン4 封印の“声”


 マーカスは肩に手を当て、深く息を吐いた。


――ドクン、ドクン……


 調律印がさらに強く反応する。

 刺すような痛みではなく、まるで呼びかけるような震え。


 ユーコが心配そうに駆け寄る。


 「マーカスさん……!」


 「大丈夫だ。だが……聞こえる。

  封印が……俺を、呼んでる」


 ユーコは目を見開く。


 「調律者印を持つ者だけが感じられる“封印の声”……

  文献では存在だけ語られていましたが……本当に……!」


 風が静かに二人の間を通り抜ける。

 その風は、迷いを振り払うように優しかった。


 マーカスは氷原の奥を睨む。


 「行くぞ。氷霜柱フロスト・コラムは、もう隠れていられねぇみてぇだ」


 ユーコは頷き、杖を握りしめる。


 「はい。マーカスさんと一緒なら……大丈夫です」


 二人の影が長く伸び、雪原の先へ進む。

 氷霜柱フロスト・コラムは、確かに二人を待っていた。

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