【第三章 :メルツ王国編】

第10話 『北風に揺れる調律の兆し』


◆シーン1 氷原への道


 メルツ北方――《フロストヴェール氷原》。

 白銀に覆われた大地が、果てしなく続く。風は鋭く、雪粒が肌を刺すように吹き付けた。


 マーカス・ロッティは重い革靴を雪に沈め、静かに歩を進める。

 ユーコ・クラウス・リップコットンはその後ろをゆっくりと追い、杖の先で小さく雪を払いながら歩いた。


 「……風が強いですね」

 ユーコが息を整えつつつぶやく。

 「ん。氷原の風は容赦ねぇ。だが、方向は示してくれる」

 マーカスの声は低く、雪に紛れそうなほど静かだった。


 微かに震える霊脈の感覚が、マーカスの左肩の印を疼かせる。

 ――氷霜柱フロスト・コラム。その異変は確かに始まっていた。



◆シーン2 資料館での調査


 氷原を抜けた先、古い資料館の建物が視界に入る。

 冒険者や魔術師が記録を調べるための館で、王国魔術庁と星霊教の共同管理下にあった。


 館内は静寂に包まれ、雪明かりが窓から差し込む。

 古文書の匂いと、氷の冷気が混ざった空気が漂っていた。


 「ここで封印柱に関する資料を探す……」

 マーカスがつぶやくと、ユーコはそっと頷いた。


 「氷霜柱フロスト・コラムについては……中央大陸に残る文献に、ほんの少しだけ記述があります。

 でも、その内容は断片的で、古い表現ばかりで……。

 実際に“どんな封印なのか”までは、誰にも分かっていません。


 それに――

 それ以外は本当に断片的で……どれが正しいかは誰にも分かりません。

 どの文献も“答え合わせ”ができないからです。


 はっきり分かっているのは――

 封印に触れられるのは、調律者印を持つ者だけだということ。

 それ以外は、本当に……全部“推測”なんです。


 だからこそ、マーカスさんにしか確かめられません。

 封印の本当の姿も、調律が何をもたらすのかも……」


 ユーコは書架から資料を取り、慎重にページをめくる。


 「なるほど……嬢ちゃん、頼りになるな」

 マーカスの低い笑みが氷の空気をわずかに温める。

 ユーコも微かに頬を紅らめ、視線をそらした。



◆シーン3 魔力の揺らぎ


 資料館を出た途端、氷原の風が二人を包む。

 マーカスの肩の印が鋭く疼き、ユーコの杖の星紋が淡く光った。


 「……封印の魔力が動いています」

 ユーコの声は、まるで氷の中に響く鐘の音のように澄んでいた。


 「よし、氷霜柱フロスト・コラムに接近する。準備はいいか?」

 マーカスは静かに確認する。


 「はい……あなたとなら、どんな異変でも乗り越えられそうです」

 ユーコの瞳に、恐れではなく確かな意志が宿っていた。


 雪の舞う中、二人の魔力がわずかに共鳴する。

 風が二人の間を通り抜け、互いの決意を伝えるかのようだった。



◆シーン4 氷霜柱フロスト・コラムの姿


 雪原の先に、氷の巨柱が聳え立つ。

 凍てついた表面には古代の刻印が彫られ、微かに光を反射していた。


 「これが……氷霜柱フロスト・コラムか」

 マーカスは手を上げ、肩の調律印を意識する。


 「……私も、全力でお手伝いします」

 ユーコは決意の色を帯びた視線でマーカスを見つめる。


 「頼むぜ、相棒」

 マーカスの手が差し伸べられ、ユーコはためらうことなくその手を握った。


 風が雪を巻き上げ、二人の足元に舞う。

 その旋律は、まるで“共鳴の道”の始まりを告げる序章のようだった。

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