【第三章 :メルツ王国編】

第9話 『依頼の光、風の導き』


◆シーン1 《光の都ミルディア》


 《光の都ミルディア》。

 白石の尖塔が空に連なり、星霊教の大聖堂と王国魔術庁の庁舎がその中心に堂々と佇む。

 信仰と魔術が交錯するこの街は、どこか清冽で、歩く者の心までも澄み渡らせるようだった。


 白魔導士誘拐事件が終息し、街にはようやく安堵の空気が戻りつつあった。

 だがその裏では、別の異変が静かに進行していた。


 霊脈の微かな震え。

 封印柱の崩壊前にだけ現れる“兆候”。

 そして今、その兆候がメルツ国北方、氷原の広がる《フロストヴェール氷原》にある氷霜柱フロスト・コラムから観測されていた。



◆シーン2 王国と星霊教の“正式要請”


 冒険者ギルド《コールドリム》の応接室。

 マーカス・ロッティは腕を組み、静かにレヴァンの顔を見据えていた。


 「……で、俺に“依頼”ってわけか」


 レヴァンは深く頷く。

 「マーカス。今回の件はギルドだけじゃない。王国魔術庁と星霊教本部の連名だ」


 「……珍しい組み合わせだな」


 「珍しいどころではない。前代未聞だよ」


 レヴァンは机の上に書簡を置く。

 そこにははっきりと記されていた――


 ――封印調律者マーカス・ロッティに、第三封印の調律を依頼する。


 マーカスは鼻で笑った。

 「命令じゃねぇだけマシだな」


 「当然だ。封印調律は“お前にしかできない”。だからこそ、国も宗教も、頭を下げる形になった」


 「まぁ、筋は通ってる」


 その声は淡々としていたが、心の底には確かな意志が燃えていた。

 ――師匠が守ろうとしたものを、俺が引き継ぐ。


 命令されるから行くのではない。

 誰かに選ばれたからでもない。


 ただ、自分が“やる”と決めたからだ。



◆シーン3 ユーコからの訪問


 応接室を出ようとしたとき、扉の向こうからぎこちないノック音がした。


 「し、失礼します……あの……」


 扉の隙間から、ユーコが顔をのぞかせた。

 

 白魔導士のローブではなく、旅装束。

 占星術士の星紋が入ったスカーフが、風に揺れる。


 「マーカスさん……その、私にも同行を許可してほしいです……」


 マーカスが眉を寄せると、ユーコは慌てて首を振った。


 「ち、違うんです! “行くように命じられた”のではなく……

 “あなたと行くことが適切である”と、そう判断しただけで……」


 「適切?」


 「氷霜柱フロスト・コラムの魔力は、白魔導士の術式と占星術の補助が必要だそうで……

 それに……」


 「あなたの……調律印の反応が……私と近い、と」


 彼女は小さく目を伏せた。

 震える声。だがそこには、確かな覚悟と意志が宿っていた。


 マーカスは一瞬まぶたを動かし、それから軽く笑った。

 「悪くねぇ判断だな。むしろ願ったりだ……嬢ちゃんは強い」


 「つ、強くなんてありません! わ、私は――」


 「少なくとも、俺は助けられたぜ」


 風のように柔らかく軽い声。

 その一言で、ユーコの肩から緊張がふっと抜けた。


 「……ありがとうございます。あなたと一緒に行けるなら、私も心強いです」



◆シーン4 誘拐事件の影


 ユーコが落ち着いたところで、レヴァンが声を潜めた。

 「……マーカス。例の白魔導士誘拐事件だが」


 マーカスは足を止め、冷たい目を向ける。

 「……やっぱり、裏があったか」


 「魔術庁高官の一部が動いていたことが判明した。"白魔導士を意図的に減らすことで、星霊教の発言力を抑える"――そんな企みだ」


 「チッ…くだらねぇ」


 マーカスの声は氷のように冷たかった。


 「だが、黒幕の一人はすでに逃げている。追及には時間がかかる……お前は気にせず調律に向かえ」


 「あぁわかってる。そっちは任せた」


 彼の瞳に宿ったのは、戦場帰りの男の静かな怒りだった。

 「……ただ、また誰かが泣くような真似をしやがったら――」


 「その時は?」


 「俺が止める。それだけだ」


 レヴァンは微笑み、深く頷いた。



◆シーン5 風が導く同行者


 ギルドを出た瞬間――

冷たい風が二人の頬を撫でた。


 ユーコの杖についた風鈴が、微かに揺れる。


 「……風が、示しています」


 「どこへ行けって?」


 「北です。《フロストヴェール氷原》へ。

  氷霜柱フロスト・コラムの方角……」

  

 ユーコはゆっくりマーカスを見上げる。

 「マーカスさん……私も……一緒に行かせてください」


 その瞳には、恐れもある。

 でもその奥に、確かな“覚悟”が宿っている。


 マーカスは帽子を押し上げて笑う。


 「なら、決まりだ」


 そしてユーコに手を差し出した。


 「行くぞ、相棒」


 「……っ、あ……い、相棒……?」


 ユーコの頬に、ふわりと紅が差す。

 「照れる暇はねぇぞ。氷原は厳しい」


 「は、はいっ……! 相棒として、がんばります!」


 マーカスは歩き出し、ユーコは嬉しそうにその後を追う。


 風が二人の間をすり抜けていく。


 その風の音は――

“共鳴の始まり”を告げていた。


 こうして、風に導かれた二人の歩みは、初めて同じ道へと重なった。

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