【第三章 :メルツ王国編】

第6話 『処刑の刻――マーカス乱入』


 赤黒い蝋燭の炎が揺れる地下室。


 祭壇の上には三人の白魔導士がいた。

 手足を縛られ、魔符に囲まれた古びた書物が目の前に開かれている。


 「――始めろ」

 低く響く声が、地下牢全体に緊迫を呼ぶ。


 瞬間、空気が振動する。

 扉が轟音を立てて破れた。


 粉塵の向こうに、ひとつの影が立つ。

 ゆらぐ蝋燭の赤が、その輪郭を鋭く照らした。


 マーカスだった。


 背中の魔剣二本を抜き、腰の魔銃二丁を軽やかに構える。

 軽鎧に染み込む夜風を感じながら、一瞬で状況を把握する。


 「離れやがれ!」

 低く轟く声と共に、マーカスは祭壇の前に立ちはだかる。


 最初の斬撃が飛ぶ。

 儀式の邪魔を阻むため、敵の魔符を切り裂き、鋭い魔剣が一体の敵を斬り裂く。


 だが、別の敵が金髪の女性に向かって突進する。


 咄嗟に身体を挺して庇う。

 斬撃は肩と脇腹をかすめる。

 重傷ではないが、軽鎧の中で血の熱さが広がる。


「…ぐっ」


 淡い金髪の女性は、胸の奥に確かな“波動”を感じた。

 それは恐怖ではなく――誰かが自分たちを守ろうとする力そのものだった。


 栗色の髪の女性は現実の恐怖に強く肩を震わせ、必死に息を呑む。

 しかし、その震えの奥で、マーカスの立つ背中がわずかな安心を与えていた。


 漆黒の髪の女性は、声を出すことすらできない。

 硬直したまま動けず、それでも倒れ込むようにマーカスの背に縋る。


 「動くな!」

 魔剣を交差させ、次の敵の攻撃を受け流す。

 魔銃を抜き、引き金を引けば弾丸が闇を切り裂き、敵の肩を撃ち抜く。


 部屋の中で火花と血煙が舞う。

 次々に迫る敵に対して、魔剣と魔銃を瞬時に切り替え、戦線を押し返すマーカス。


 淡い金髪の女性は微かに肩を震わせ、漆黒の髪の女性は歯がカタカタと鳴る。

 栗色の髪の女性は目を見開き、息を詰めながら恐怖に耐える。


 「来やがれ……全て片付けてやる!」

 マーカスは鋭い蹴りで扉を吹き飛ばし、さらに侵入してくる敵を魔剣で薙ぎ払う。


 炎が揺れ、魔符が光を散らす。

 敵は怯む暇もなく、攻撃の連続を浴びる。


 その瞬間、地下牢の別の扉が開き、ギルド員二十一人が駆け込む。


 「援護に来た!」

 叫び声と共に、仲間たちが敵を取り囲む。

 矢の雨、魔法の衝撃波、そして斬撃が複雑に絡み合い、戦場は混沌と化す。


「ありがてぇ、助かったぜ!」


 マーカスは三人を守るため、前後左右を動き、魔剣で切り裂き、魔銃で抑える。

 敵の一撃を受け流しながらも、肩と脇腹の傷が熱く痛む。


 赤い血が軽鎧を染めるが、表情を変えずに戦い続ける。

 視界の隅で、三人の女性が互いに肩を寄せ、震えながらも必死に耐えている。


 「やるぞ!」

 マーカスの掛け声に、ギルド員が一斉に突撃する。


 敵は混乱し、次々と捕縛され、殲滅されていく。

 魔銃の弾丸が最後の一体を倒し、魔剣の斬撃が残りを封じる。


 地下室には静寂が戻る。

 マーカスは呼吸を整えながら、血で濡れた軽鎧を見下ろす。


 三人の女性は恐怖で震えながらも、無事に立っている。

 淡い金髪の女性は涙を流し、栗色の髪の女性は手を握りしめ、漆黒の髪の女性は小さくうなずく。


 「嬢ちゃんたち、こっちだ行くぞ」

 マーカスは低く声をかけ、一人のギルド員と共に三人を導く。


 廊下を駆け抜け、階段を上がり、街路に出る。

 外の夜風が血の匂いを洗い流すかのように吹き抜ける。


 ギルドへ続く裏路地へ出たとき、マーカスは思わず壁に片腕をついた。

 肩と脇腹の傷が熱を持ち、足元が揺らぐ。


 「……ちっ、まだ倒れられねぇ」


 彼の背中を追っていた三人の白魔導士は、息を荒くしながら立ち止まる。


 栗色の髪の女性は恐怖で震えが止まらず、魔力の流れが乱れて詠唱ができない。

 漆黒の髪の女性は喉を締め付けられたように声が出ず、ただ胸元を押さえた。


 ただ――


 淡い金髪の女性だけが、震える手でマーカスへと駆け寄った。


 「ま……待ってください……っ、治癒を……」


 恐怖で足も心臓も止まりそうなのに、彼女の手のひらには淡く白い光が宿る。

 マーカスの傷口に触れた瞬間、その光は弱々しくも確かな温もりへと変わった。


 「嬢ちゃん……ありがとな、助かる」


 わずかに痛みが和らぎ、視界の揺れが少しだけ戻る。

 完全な治癒にはほど遠い。だが、この一瞬が――彼の足をまだ前へ運ばせた。


 「ギルドはもうすぐだ、ついて来い!」


 マーカスは顔を歪めながらも三人の前に立ち、歩みを強める。

 金髪の女性は魔力が尽きかけた手を押さえながら後に続き、

 栗色の髪と漆黒の髪の二人も、必死にその背にすがるように歩いた。


 街角を抜け、白のギルドの灯りが視界に入る。


 ――もう少し。


 マーカスは止まりかけた足を叱りつけるように踏み出し、

 三人を連れてギルドの扉を押し開いた。


 そこまで保ったのは、奇跡に近かった。


 その奇跡の余韻のまま、物語は次へと続く。

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