【第二章:ファニング王国編】

第3話 『風樹の遺跡ミラージュ・ルート



【風樹の遺跡ミラージュ・ルート


 黎明。風樹海の奥、霧に包まれた古代の石環。

 湿った土の匂いが鼻をかすかにくすぐり、朝の光はまだ淡く、霧を淡青色に染めていた。

 その中心で、マーカスは一人、封印核コア・クリスタの光をじっと見つめていた。


――風が、語っている。

 かつてここに立った巫女の祈りを、今も伝えているかのように。



【幻影の巫女】


 蒼翠の風が、微かに旋律を奏でる。

 葉のざわめき、枝の軋み、全てが一つの音楽のように重なり、森の奥の空間がゆるやかに振動した。

 そして、幻影のように森の巫女が現れる。白い衣の裾が霧に溶け、姿は儚く揺らぐ。

 その声は、時を超えて響く囁きだった。


「旅人よ……汝は風の子か、それとも嵐の使いか……」


 マーカスは魔剣を地に突き、膝をつく。

 その額には薄く汗がにじみ、緊張が胸を押さえる。


「俺は――ただ、封印を正す者だ。

 誰の命令でもねぇ、世界そのものの願いに従い、ここに来た」


 幻影の巫女は微笑み、柔らかな風が逆流するように舞い上がった。

 落ち葉や細かな砂塵が光を反射し、森の空間は一瞬にして神秘の舞台と化す。

 その中で、風が形を取り、“試練”が姿を現した。



風狼ゼフィール・エコーとの戦い】


 風狼ゼフィール・エコー

 かつて調律者に仕えた残響体――封印の意思そのもの。

 狼の目は冷たくも鋭く、魂の奥底から放たれる威圧を伴っていた。


「なるほどな……守りたいのか、巫女の祈りを」


 マーカスは拳を握り、軽く息を吐いた。

 銃剣を引き抜き、刃に魔力を纏わせる。青白い雷が微かに走り、刀身を震わせる。


「風よ――俺の呼び声を試すがいい」


 轟、と風が森を揺らし、幻の狼が襲いかかる。

 その動きは人の目では追えないほど速く、しかしマーカスは剣を返し、銃を撃ち、躍動する。

 全てがひとつの詩のように、呼吸と動作が融合した瞬間だった。


「やるぞ、ソウルイータ!」


 魔剣が風を裂き、封印陣の光が震える。

 狼は風と共に砕け、光の雨となって降り注ぐ。

 その中で、眠りにつく巫女の微笑がマーカスの瞳に映った。


 風狼ゼフィール・エコーが砕けた瞬間、森に静寂が戻る。

 だが胸には微かな振動が残り、封印の意思はまだ眠りながらも、確かに彼の呼び声を聞いていた。



【戦いの余韻と次の道】


 マーカスは深呼吸をひとつ。肩の力を抜き、周囲の静寂を感じ取る。

 葉の隙間にかすかな脈動を残す風の感触が、次なる道への誘いのように思えた。


 帽子のつばを押さえ、マーカスは空を見上げた。

 柔らかな光の中、風が答えるように吹き抜け、コートを揺らす。


――まだ封印は完全に目覚めぬまま、次の鼓動を待っている。

 旅は続く。森と風が、その先を静かに指し示していた。



【断章:風の典礼】


 風よ、記せ。

 まだ名を持たぬ者たちの行く末を。


 響きはひとつに集い、

 調律の門は再び開かれん。


 旅人よ、忘るるな。

 出会いは偶然にあらず、

 呼ばれし声が導くものなり。


──ファニング遺跡・典礼詩碑断片より

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る