お天気占い

沙華やや子

お天気占い

「おいしいね! みぞれ、このプリンパフェ!」


「うん、たかしっ、あたしここのプリンパフェが一番好きよ……でもぉ、パフェより……貴が好き! 貴が一番好きよっ」


 1月下旬、夕暮れ迫る喫茶店でアイスクリームを溶かしちゃいそうな熱々カップルがここにいる。

 二人はお付き合いを始めてまだ半年。


 平日のせいかお客さんはまばらで、二人はのんびりくつろいでいる。


 ショートカットで毛先だけグリーンに染めているおしゃれな霙は28才のレディ。

 一方、地味目なムードでメガネをかけた貴は霙の恋人、27才の男性だ。


 今日は二人とも休日。回転寿司店で共に働く二人だ。


 東京暮らしの二人にはそれぞれ故郷がある。でも2025年~2026年の年越しは、貴の家にてカップルで過ごした。


 12月30日の夜、スーパーへ二人で行った。


「貴~! あたし天ぷらも揚げるし、おそば、湯がくからね。今年の年越しそば、カップ麺はやめてね、ウフフ」

 嬉しそうに年の瀬のムードを楽しんでいる霙。


 初めて恋人同士で迎える新年が待っている。


「まじで?! 嬉しいな~、じゃ、おそばは任せるね、霙」


「うん、うん」


――――ところが……。大晦日の夕方。


 ソファーにゴローンとやわらかい猫のように寝そべり、テレビをボーっと見ている霙。そばにあるローテーブルの上のスナック菓子に手を伸ばしてはムシャムシャ。

 なんだかダルそ~だ。無表情。


(ハー……。大晦日もいつものアレが顔を覗かせたか。仕方ない! これが霙だもんな)

 半ば呆れるようにしょんぼりする貴。


 遊園地でデートした時もそうだった。

 行きの車の中では「あたしメリーゴーランドに乗ってお姫様になるから、写真撮ってね! 貴っ」

 鼻歌を歌いながらはしゃいでいた霙は……ジェットコースターや観覧車などに乗った後、いざメリーゴーランドまで行くと突然「あたし疲れた。貴、乗りなよ。写真撮ってあげるから」と憂鬱な顔。


 かと思うとこんなこともあったぞ……。


「なに! 貴、またSNSでこの女の人としゃべってんの!?」

「ああ、ラジオ仲間だぜ?」

「フン! いやよ! 貴、この人と話すならもう嫌いだからね、あたしは貴を! フン! フン!」


 貴のパソコンをのぞき込み霙がそんなことを言い出したのだ。


「ンー。わかった、わかったよ! もう話さないから」


 そんな風に言っても向こうの部屋でふくれっ面。背中を向けたままの霙。

 なんとその霙の怒りは3日間も続いたので、ヤバいと思い貴は強行作戦に出た。


 なけなしのポケットマネーをはたき、霙がずっとずぅーっと欲しがっていた、けっこうなお値段の指輪を買ってあげたのだ。

 ちなみに霙は当初おねだりをした際、事前にちゃっかり指の太さをバッチリ糸で測り、サイズを貴に知らせていた。

 サプライズプレゼントを試みた貴。


 これが大成功だった。


「わーい! 貴、大好き。ラジオのお友だちならしゃべったら良いじゃな~い」だなんてうそぶいた。


 この半年間、霙に振り回され、時々豪雨のように泣きたくなる貴。

 でもお茶目な霙が好きだ。なんならお天気屋さんなところも好きで、更に振り回されたいかも。貴にはMっ気があるかもしれない。


 メリーゴーランドには恥ずかしがりながら乗ってスマホのカメラに手を振り……想定外に年越しそばを湯がき、てんぷらを一生懸命揚げ、ことあるごとにプレゼント大作戦で、お財布が2月上旬並みの寒さになる……。

 ため息でメガネを曇らせる貴だ。


 ある日、霙宅の合鍵を持っている貴が「来たよ~、霙ぇ」とアポなし訪問した。

 そういったことは、これまでも時々あることだった。


 霙の様子が何かおかしい。ギクッ! とした顔をしている。


 即座に彼女のノートパソコンをまじまじと見る貴。


 ななな、なんと! 霙がいわゆる『出会い系サイト』をみていたのだ。


「え……。なにこれ? 霙……。どういうこと?」


「あ、ああ……」


 貴は知っている。霙を愛しているから。霙が嘘をつけない正直者であることを。ごまかすのが下手なことも。


 しどろもどろで、うつむくだけの霙。


「なんでだよ?! オレがいるじゃん!」


 その雄たけびに触発されたかのように霙が火を噴いた。


「だって、貴ってさ、あたしの言いなりじゃん! つまんないっ」


「ハ?! オレは霙を愛してるから優しくしたいの! わかんないのっ?!」


「優しいだけだもん。𠮟ってもくれないし! 貴なんか大っ嫌い! ワ――――ッ!」


 霙は2月の寒空の下、泣きわめきながら飛び出して行った。


 すぐに外へ出ると空からみぞれが降ってきている。


(なんて足の速い女なんだ。どこ行っちゃったの、霙!)

 貴は霙への愛を、今一度思い知る。


 霙は風のように消えてしまった。



 翌日から霙は回転寿司店を無断欠勤し続けた。

 店長に尋ねると「こっちが聴きたいぐらいだよ! 霙ちゃん。電話に出ないし」と貴は言われた。


 毎日霙の家に通ったが、霙はいない。


 4日目の日中、貴は霙の実家に電話をした。


 すると霙の母親が電話に出た。


「貴君、本当に御免なさいね。霙が勝手な態度を取って。あの子は元気よ。ここにいるわ」


「え!?」


 霙は富山の実家に帰っていた。


「話したいです。霙さんと、お母さん」


「……。はい」


 そして電話口に霙が出た。


「霙! 霙?」


「貴……」


(ああ!)貴は安堵で涙が滲んだ。


「ごめんね、霙。オレのあの激しい口調はいけなかった。謝るよ」


「……ううん。良いの」


「霙、東京に帰って来てくれるの」


 霙は、しばらく考えるように黙っていた。


「うん」


 どうにかなりそうなほど嬉しい、霙にベタ惚れの貴。


「いつだい?」


「ンーと、あたし、湿気で髪の毛モジャモジャになるのやだから晴れたらね、バイバイ」

 ガチャッ。プー、プー、プー……。


(なんてオリジナリティに溢れた女なんだ! オレは、オレは……コイツが! 好きだ――――!)


 東京の天気予報を見ると……雪、雪、雨、雨のち曇り、雪、雨のち晴れ……。


 霙が貴のもとに帰るのは少し先になるみたい。



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お天気占い 沙華やや子 @shaka_yayako

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