整理

第二校舎の空き教室は、夕方になると少しだけ色が変わる。

西日が差し込み、窓際の机に長い影を落としていた。


俺と七瀬さんは、いつもの席に座っている。


「今日は……少し整理してもいいですか?」


七瀬さんが、控えめに切り出した。


「整理?」

「はい。今まで話してきたことを、そのままにしておくと、余計に分からなくなりそうで」


なるほど、と俺は頷いた。


「助けてもらったのは、入学式の日」

「うん」

「体調が悪くて、顔は見えなかった」

「そうだったな」

「覚えているのは、声と、青いスリッパ」


一つずつ言葉にしながら、七瀬さんは自分で頷く。


「改めて並べると……本当に、何も分かってないですね」

「そうだな」


そう答えながら、俺は彼女を見る。


肩にかからない長さの黒髪。

派手じゃないが、清潔感のある制服の着こなし。

視線が合うと、少し困ったように笑う癖。

クラスにいれば自然と視界に入る。


このような容姿をしている彼女を助けたとなると、男子の方から声をかけてきそうな気もするが……。


「……青木くん?」


黙っていたせいで、不思議そうに首を傾げられる。


「いや、続けて」

「はい」


七瀬さんは、小さく息を吸った。


「好きかどうかは、まだ分からないです」

「うん」

「でも、せめてもう一度お会いしたいです」


膝の上で、指先が少しだけ動く。


「助けてもらったのに、何も言えなかった自分が、ずっと引っかかってて」

「お礼、か」

「はい……それが一番の目的です」


彼女の声にも力がこもっているような気がした。


「もし、あの人が困ってたら」

「……うん」

「今度は、私が助けてあげたいです」


その言葉に、俺はすぐ返事ができなかった。


(それは、ずいぶん――)


優しいとか、真面目というか……。


「……探すのは、無理しなくていいんじゃないか」 「そうですね」


七瀬さんは、ほっとしたように笑った。


西日が、彼女の横顔を照らす。

その光が、どこか入学式の日を思い出させた。

答えは、まだ見えない。

たぶん、それでいい。


何も言わずに、隣で話を聞くだけでいい。

少なくとも今は――

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