第6話

「……や、め……」


拒絶の言葉は、熱を持った空気に溶けて消えた。

私の喉を震わせた微かな振動は、むしろ零華を焚きつける合図になってしまったらしい。

彼女の指先が制服の第二ボタンに掛かる。

カチリ、と小さな硬質の音が鳴り、首元を締め付けていた窮屈な束縛が解かれた。


「ふふ、佳奈子ちゃん。鼓動が早いよ?」


彼女の瞳は、獲物を追い詰めた猛獣のように澄んでいる。逃げようと足掻くたび私と彼女の膝が、腰が、そして胸が、嫌というほど擦れ合う。

厚い冬用の制服越しですら、彼女の肌の滑らかさが、その下の柔らかな肉の感触が、脳の奥深くまで直接流れ込んでくる。


(……おかしい。女子同士なのに、なんでこんなに頭が真っ白になるの)


心の中の毒舌な私は、どこかへ消え去っていた。

語彙力の乏しい脳が唯一弾き出したのは、あまりに情けない事実だけ。

私は今、この銀髪の王子様に完全に支配されている。


「ほら、身を委ねて。君が『重い』って言った、本当の理由の答え合わせをしようか」


零華の手がさらに奥へと侵入する。

ブラウスの隙間に差し込まれた指先が私のブラジャーの縁に触れた。


「ひゃぅっ……」


喉から漏れたのは、自分でも耳を疑うような情けない声。中学の三年間、誰とも喋らず、自分の体すら無機質な物体として扱ってきた私にとって、他人の指がこんなに熱く、敏感に響くものだなんて想像もしていなかった。


「……っ、あ……だめ……誰か、くる……から」

「大丈夫。ここは誰も来ないから。……佳奈子ちゃん、すごく綺麗だよ」


零華の左手が私の腰に回り、強引に密着度を高める。私の大きな胸が彼女のそれと押し潰され、形を変えていくのが分かる。

布越しに伝わる乳首の刺激。

彼女の銀髪が私の首筋をくすぐり、甘ったるいイチゴオレの香りと、彼女自身の体温が混ざり合って、視界がちかちかと明滅した。


「……あ、っ……ん……」


彼女の指がカップの中に滑り込む。

包み込まれた瞬間の衝撃に私は、膝の力が抜け、彼女の体に縋り付くことしかできなくなった。

人差し指が私の中心を優しく、確実に捉える。


「……はぁっ……零華、さん……」


初めて名前を呼んだ。

それは、助けを求める声だったのか、それとももっと深い何かを求めての拒絶だったのか。

零華は、満足げに目を細めると、私の耳たぶを優しく食んだ。


「そう、もっと呼んで。……佳奈子ちゃん。君のこと、もう放してあげられそうにないや」


踊り場に満ちる、熱い吐息と衣類が擦れる微かな音。外では昼休みを謳歌する生徒たちの喧騒が聞こえるのに、この連絡通路の影だけが世界から切り離された密室へと変貌していた。


私のズレた日常は、もう二度と元には戻らない。

銀髪の王子様に暴かれたのは、制服の下の肌だけでなく、私がずっと閉じ込めてきた、歪な孤独そのものだった。

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