第13話 これが今の僕達の選択。
深夜の公園、街灯の鈍い光の下で、ようやく僕たち三人が揃った。
駆けつけた栞は、ボロボロになった陽葵の姿を目にした瞬間、言葉を失って彼女を強く抱きしめた。陽葵は栞の胸の中で、堰を切ったように再び泣き出した。
「陽葵……! ごめん、ごめんね……。あんなに近くにいたのに、私、何もしてあげられなくて……気づいてたのに、踏み込めなくて……本当にごめんなさい……!」
栞は陽葵を壊れ物を扱うように強く、けれど優しく抱きしめ、自分のことのように涙を流した。その細い肩を震わせる栞の姿に、陽葵も震える手で栞の背中を掴み返した。
「ううん、私のほうこそ……ごめんなさい……。栞ちゃんが、あんなに優しくしてくれたのに……私、嘘ばっかりついて、隠してて……。こんな自分を見られるのが、怖かったの……っ」
二人は夜の闇の中で、互いの体温を確かめるように強く抱き合い、積もり積もった後悔と悲しみを涙と一緒に吐き出した。それは、これまでの「完璧な親友」という仮面を捨て、本当の意味で二人の心が重なった瞬間だった。
しばらくして、二人の激しい泣き声が小さく、重い呼吸へと変わった頃。栞は陽葵の涙を指で拭い、意を決したように僕のほうを振り向いた。
「……悠真くん。このまま陽葵を帰すわけにはいかないわ」
「……警察に行こう、陽葵。あざもあるし、事情を話せば保護してくれるはずだ」
僕の言葉に、陽葵は栞の腕の中で激しく首を振った。
「嫌……嫌だよ、悠真くん。警察なんて呼んだら、大ごとになっちゃう……。それに、もしお母さんが捕まらなかったら? 事情聴取だけで帰されたら、私はもっと酷いことをされる……。あの男の人だって、何をするか分からない……!」
「じゃあ、僕の親や栞の親に……」
「それもダメ! 誰かに知られたら、学校にもいられなくなる。近所の人に指を差されて、『可哀想な子』って目で見られるのは耐えられない……。お願い、誰にも言わないで……っ」
陽葵の訴えは、切実で、そして絶望的だ。
高校生の僕たちにとって、大人や社会というシステムは、自分を守ってくれる盾ではなく、自分たちを「異常な日常」へと引き戻す檻にしか見えなかった。
沈黙が流れる中、陽葵を抱きしめていた栞が、静かに、けれど鋼のような強さを持った声で口を開いた。
「……逃げましょう」
「え……?」
「警察も、親も、今は信じられない。だったら、三人で逃げるしかないわ。一時凌ぎかもしれないけれど、陽葵があの家にいなくて済む場所へ。誰にも見つからない場所へ」
栞は僕を真っ直ぐに見つめた。その瞳には、これまでの穏やかな彼女からは想像もつかないような、鋭い覚悟が宿っていた。
「私の家の別荘があるの。もう数年も使っていなくて、管理もたまに見に行くだけ。あそこなら、私の両親だって当分は気づかないわ」
栞はカバンから、使い込まれたキーホルダーのついた鍵を取り出した。
「陽葵を守るためには、これしかないわ。……悠真くん、あなたも来てくれる?」
栞の言葉に、僕は陽葵の震える手を取った。
僕がここで行かなければ、陽葵は今度こそ本当に壊れてしまう。
「……行こう、陽葵。そこなら、誰も君を傷つけない。僕と栞で、絶対に君を守るから」
「悠真くん……栞ちゃん……」
陽葵が、震える声で僕たちの名前を呼んだ。
それは、平穏な日常を捨て、社会からドロップアウトすることを意味していました。僕たちは今、ただの同級生から、一つの秘密を共有する「共犯者」になった。
「……うん。行きたい。二人と一緒に、遠くへ行きたい……」
陽葵の小さな決意を聞き、僕は深く頷いた。
夜明け前の暗闇の中、僕たちは一度も振り返ることなく、公園を後にした。
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