第12話 理想と現実

深夜の公園、街灯の冷たい光の下で、僕は震える陽葵の肩を抱き寄せたまま言った。


「陽葵……。栞にも、連絡しよう。三人で考えなきゃダメだ」


 僕がそう言うと、陽葵はビクッと体を強ばらせ、力なく首を振った。


「……嫌。嫌だよ、悠真くん……。栞ちゃんには……絶対に知られたくない。栞ちゃん、ずっと『陽葵の家は昔から仲のいい親子だね』って言ってくれてたのに……。」

 

陽葵は僕の胸元に顔を埋め、声を押し殺して泣き始めた。


「蔑まれたり、同情されるのも辛いけど……それ以上に、私の家族が、あんなにおかしくなっちゃったことを知られる方が怖いの。栞ちゃんの記憶の中にある『幸せな私』を、壊したくないよ……」


 彼女にとって、栞は「理想の自分」を知っている唯一の親友だった。その栞に現実を突きつけることは、陽葵が必死にしがみついている最後のプライドを、自ら粉々に砕くのと同じことなのだろう。


陽葵は自分のボロボロになった袖をぎゅっと握りしめ、惨めさに耐えるように顔を伏せた。

親友だからこそ、自分の家庭が地獄に変わったという「汚れた現実」を見せたくない。その気持ちは痛いほど分かる。


「でもさ、陽葵。考えてみてよ」


僕は彼女の目を見つめるように、語りかけた。


「もし、逆の立場だったらどう思う? もし栞が一人でこんなに苦しんでて、それを後から知らされたら……陽葵は『隠してくれてて良かった』なんて思えるか? 『親友なのに、なんで頼ってくれなかったの』って、自分を責めて、後悔すると思わないか?」


僕は彼女の目を見つめるように、語りかけた。


「隠し通すことが、栞のためになるとは思えない。自分だけ何も知らずに笑ってたなんて後から気づく方が、あいつにとっては一番残酷で、悲しいことなんじゃないかな」


陽葵は唇を噛み、しばらく黙り込んでいた。公園の池に反射する街灯が、彼女の瞳の中で揺れています。やがて、彼女は小さく、消え入りそうな声で答えた。


「……そうだね。私だったら、栞ちゃんが苦しんでるなら、絶対隣にいたいって思う。……わかった。栞ちゃんにも、お話しする……」


陽葵が意を決したように頷くのを見て、僕は震える手でスマホを取り出し、栞の番号を呼び出した。


呼び出し音は三回で止まった。

深夜一時過ぎだというのに、栞はまるで待っていたかのように、すぐに電話に出た。


「……悠真くん? 陽葵と一緒なのね?」


栞の声は、すべてを見越していたかのように静かで、けれど切迫した響きを帯びていた。

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