第11話 愛で人は変わる
深夜の公園は、街灯がジリジリと嫌な音を立てて周囲を照らしているだけだった。遠くからでも、ブランコにポツンと座る小さな人影がすぐに分かった。
「陽葵!」
僕が息を切らせて駆け寄ると、彼女はゆっくりと顔を上げた。
そこにいたのは、昼間の太陽のような面影を失った、ボロボロの少女だった。さらさらだったはずの髪は無残にかき乱され、夜の冷気に震えている。
「……あはは、悠真くん。ごめんね、こんな時間に。……恥ずかしい格好、見せちゃった」
彼女はこんな時でも、まだ弱々しく笑おうとした。その不自然な明るさが、今の僕には何よりも辛い。
「……いいから、何があったか話してくれ。どうしてこんな……」
陽葵はブランコの鎖をぎゅっと握りしめ、地面の砂を爪先で見つめながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
「……お母さんの彼氏ね、急に目が変わったの。お母さんがいない時、私を口説くようになった。気持ち悪い言葉をかけて、体を触ろうとして……。でもね、一番怖かったのはお母さんだった。あの人に捨てられるのが怖くて、逆上したの。『あんたが誘惑したんでしょ』って」
陽葵は、自分の腕を抱きしめるようにして、肩を竦めた。
「それから毎日。お母さん、すごく狡いんだよ。顔とか人目につくところは絶対に叩かないの。制服を着れば隠れる腕とか、背中とか……そういうところばっかり、あの男と一緒に……」
陽葵の声が、恐怖で細く震え始める
。
「あざができるたびに、お母さんは私の耳元で囁くの。『そんなアザだらけで気持ち悪い体、誰にも見せられないでしょ? あんたを愛してくれるのは、世界中で私だけなのよ』って。
あの日、体育の時間に倒れて悠真くんに見られちゃった時、私、本当に死ぬかと思った……。バレたら、もっとひどいことをされるって」
陽葵は顔を覆い、言葉を震わせた。
「案の定、学校からお母さんのところに連絡がいったあと……家に帰ったら、『あんたのせいで恥をかかされた』って、何度も、何度も叩かれて……。あの男の人も、お母さんの味方をして『お前が母親を困らせるのが悪いんだ』って笑うの。誰も、私の言うことなんて聞いてくれない……」
虐待の理由。それは、母親が愛に飢えるあまり、実の娘を「女」としての敵と見なし、その憎悪を暴力へと変えたという、あまりにも醜悪なものだった。
僕の父さんに相談すれば、きっと力になってくれるだろう。父さんは昔から陽葵を我が子のように可愛がっていたし、この話を聞けば、自分のことのように怒ってくれるはずだ。
けれど、正義感の強い父さんのことだ。話を大事にして、真っ向から陽葵の家に乗り込んでしまうかもしれない。そうなれば、逃げ場を失った母親がさらに逆上し、陽葵の家族は本当の意味で修復不可能なくらいおかしくなってしまう。
何より、僕が彼女を助けたいと思ったんだ。誰かの力を借りるんじゃなく、僕の手で彼女をこの地獄から引きずり出したかった。
「……もう、あんな家に帰しちゃいけない」
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