第6話 熱中症にご注意!

体育の授業、グラウンドは初夏の陽気に包まれていた。クラスメイトの男子は皆半袖で、女子も多くが腕を出している中、陽葵だけが頑なに長袖のジャージを着込んでいた。


「陽葵、脱がないの? 今日、結構暑いよ」


 僕の問いかけに、彼女は額ににじんだ汗を拭いもしないで笑った。


「ううん、大丈夫! 私、日焼けするとすぐ赤くなっちゃうからさ」

 

先ほど栞のお弁当を「美味しい」と食べていた彼女の笑顔が脳裏をよぎる。ダイエットだなんて嘘をついて、本当は家で何も食べさせてもらっていないんじゃないか。そんな僕の不安を振り払うかのように、彼女は無理に声を張り上げてボールを追いかけていた。


しかし、不意に彼女の動きが止まった。

ボールを追うこともなく、ふらりと膝をついたかと思うと、そのまま土の上に倒れ込んだ。


「陽葵!」


僕は叫び、教師よりも早く彼女の元へ駆け寄った。

陽葵は顔を真っ青にして、呼吸を荒くしていた。熱中症か、それとも…

  

陽葵は顔を真っ青にして、呼吸を荒くしていた。

「陽葵、しっかりしろ! 保健室に運ぶからな」

 僕が彼女を抱き起こそうと背中に手を回した、その時だった。


 激しく地面に倒れ込んだ衝撃で、長袖の袖口が肘のあたりまで大きく捲り上がった。

 そこに見えたのは、透き通るような白い肌ではなく、誰かに強く掴まれたような指の跡や、殴りつけられたような赤黒い打撲痕だった。それは一つや二つではなく、細い腕を覆い尽くすように無数に点在していた。


「……っ」

 息を呑む僕の視線に気づき、陽葵は弾かれたように薄く目を開けた。彼女は顔を引きつらせ、震える手でむしり取るように袖を引きずり下ろすと、力なく笑った。


「……あはは、見ちゃった? 最近、私、転ぶことが多くてさ……。ほら、今のサッカーでも派手に転んじゃったし。……本当に、私ってドジだよね」

 

今しがた転んだだけでは説明がつかないほど、その痕跡は古く、そして新しかった。

彼女の瞳には、痛みよりも「嘘がバレてしまう」ことへの絶望的な恐怖が浮かんでいた。

 

少し遅れて、栞が駆け寄ってきた。彼女は陽葵の顔色と、僕の凍りついた表情を交互に見て、すべてを察したように唇を噛んだ。

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