第7話 勇者パーティの自業自得

「――あはは、ひどい有様だねぇ。それ、もう剣じゃなくて、ただの『ギザギザの鉄棒』だよ?」


黒煙と、焦げた肉の臭いが立ち込める「黄昏の渓谷」。 そこには、かつての栄光など見る影もなく、ボロボロに傷ついた勇者ゼクスたちの姿があった。


彼らが対峙しているのは、古代の守護騎士「アダマン・ゴーレム」。その巨体はあらゆる物理攻撃を弾き、手にした巨大なメイスが振り下ろされるたび、大地が悲鳴を上げて爆ぜる。


「くそっ……! なぜだ、なぜ斬れない……っ!」


ゼクスが血を吐きながら叫ぶ。彼が誇る聖剣は、度重なる酷使と不適切な手入れのせいで、刃のあちこちが欠け、魔力伝達の「芯」が歪んでいた。振るたびに、嫌な金属の軋み音がゼクスの腕に伝わってくる。


「当然よ……。ルカがいた頃は、あいつが毎日、寝る間も惜しんでミリ単位の調整をしてたんだから……!」


魔導師の女も、ひび割れた杖を握りしめ、青ざめた顔で吐き捨てた。 そこへ、軽やかな風が吹いた。


「よぉっ。みんな、まだそんなことやってるのぉ?」


岩陰から、ひょっこりとルカが姿を現した。 この地獄のような戦場において、彼だけがまるで日曜日のピクニックにでも来たような、清潔で涼しげな空気を纏っている。


「ルカ……! 貴様、笑いに来たのか!」


「ううん、助けに来たんだよぉ。……あ、危ない!」


ゴーレムの巨大なメイスが、動けないゼクスを目掛けて振り下ろされる。 ルカは一瞬で踏み込んだ。その速度は、加速の「重み」を一切感じさせない、ただ空間をスライドするような異常な挙動。


「『重さ』を半分、頂戴ね♡」


ルカの指先が、空中でゴーレムのメイスの表面を撫でた。 ドォォォォン……! 地響きを立てるはずの衝撃が、綿菓子が落ちたような軽い音に変わる。ルカがメイスの「運動量」をその場で抜き取り、自らの指先にストックしたのだ。


「な……!? 何をした……!」


「説明してる暇はないよぉ。ほら、ゼクスくん、剣を貸して! ……っていうか、空中に投げて!」


「な、何を――」


「早く!」


ルカの有無を言わさぬ声に、ゼクスは反射的に折れかけた聖剣を放り出した。 ルカはゴーレムの猛攻を紙一重――いや、一ミクロンの隙間でかわしながら、空中で回転する聖剣を指先でキャッチ……はせず、指を「走らせた」。


(えっとね、分子配列がバラバラだぁ。こことここを再結合して……。芯の歪みは、さっき盗んだメイスのエネルギーで叩き直す!)


カカカカカカカッ! 空中で、まるで火花のような光がルカの指先から噴き出す。 それは「修理」などという言葉では生ぬるい。ルカの指が、超高速の振動で剣の原子を直接並べ替え、瞬時に鋳直していく。


「はい、お返し! 3ミクロンほど重心を前にずらしたから、今のゼクスくんの腕力なら、岩でも豆腐みたいに切れるはずだよぉ♡」


空中で輝きを取り戻した聖剣が、ゼクスの手に吸い込まれる。 その手触りは、かつて経験したことがないほど手に馴染み、まるで自分の体の一部になったかのような全能感を伴っていた。


「す、すごい……魔力が、勝手に剣に吸い込まれていく……!」


「驚くのは後だよぉ。次は……そのゴーレムさん、ちょっとお行儀が悪いから『お仕置き』しなきゃ」


ルカは再びゴーレムの懐に潜り込む。 鋼鉄よりも硬いアダマンタイトの外殻。だが、ルカの目には、その装甲を繋ぎ止めている「ボルト」や「魔力結線」が、赤裸々に透けて見えていた。


「はい、失礼しまーす♡」


ルカの指が、ゴーレムの関節部分をピアノを弾くように叩いていく。 タタタタタタッ、という軽快なリズム。


「あ、このボルトいいなぁ。貴重な素材だね。これも、これも……あ、この核(コア)もちょっとお借りするね!」


次の瞬間、ゼクスたちは信じられない光景を目にした。 あれほど強固だったゴーレムの装甲が、まるで魔法のようにバラバラと解体され、ルカの手元へ「吸い寄せられて」いく。 ルカが指先でゴーレムの構造的な「結合」を次々と盗んでいった結果、強敵だったはずの守護騎士は、一瞬にしてただの部品の山へと変わり果てた。


「……装備、全剥ぎ完了♡」


ルカの足元には、最高級の金属部品が整然と積み上げられていた。 ゴーレムだったものは、今や骨組みだけの情けない姿で立ち尽くし、最後には自重に耐えきれずカラカラと崩れ落ちた。


「ひ……一瞬で、解体した……? 攻撃すら、させずに……?」


ゼクスは膝をついた。 自分の手にある、ルカに修復されたばかりの聖剣。その圧倒的な切れ味さえ、ルカの「器用さ」という理不尽な力の、ほんの断片に過ぎないことを思い知らされた。


「……ルカ。俺は、俺たちは……」


「あはは、お礼はいらないよぉ。でもね、ゼクスくん」


ルカは積み上げた部品を器用にバッグに詰め込みながら、振り向いて微笑んだ。 その笑顔は優しかったが、同時に、決定的な「境界線」を感じさせるものだった。


「道具を大事にできない人は、いつか世界からも大事にされなくなっちゃうよ? ……これからは、ちゃんと自分で磨くんだよぉ♡」


ルカはそう言い残すと、驚愕と後悔に震えるかつての仲間たちを置き去りにして、軽やかに渓谷を去っていった。


(さて、この部品で次はどんな面白いもの作ろうかなぁ)


ルカの指先は、すでに次の「創造」を求めて、心地よい熱を帯びていた。


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