第4話「逃走」
主のいなくなった城はいつにも増して慌ただしい。
脱出を図るアインたちの周りもおびただしい数の魔族が行き交っているが、彼らに手を出そうとするものは誰もいない。
リヴだ。彼女の姿を一目見るとどの魔族も道を開ける。アインに攻撃を仕掛ける者は存在せず、冷静さを取り戻したアインも無闇に剣を振り回そうとはしない。
「出口です!」
リヴの言葉と共に見覚えのある扉が見えてくる。二百年前のあの日、仲間たちと開いた城の門だ。あの日の仲間はもう誰も居ない。居るのは前を進む謎の魔族のみだ。
それでもアインの心はわずかに晴れていた。ようやく外に出ることができる。二百年ぶりに陽の光を浴びることができる。
そう思っていたアインにまたしても壁が立ちはだかる。
「魔王様がお亡くなりになられたというのは本当らしい。我らが帰還したというのに出迎えがないのだから」
「ぶっ殺したのはどこのどいつだ!魔王は俺がぶっ殺そうと思ってたのによぉ!」
「静かにせよ。報告を受けておらんのか、魔王様は寿命で亡くなられたじゃぞ」
「はぁ、これから俺たちどうなるんですかね?」
前方から現れたのは四人。
一人は細身の男性。だがその男からはどことなく魔王に似た雰囲気が醸し出されており、何気ない仕草からは気品が感じられる。誰も現れないことにいら立ちを見せており、空気がバチバチ震えている。
二人目は紫の甲冑に身を包んだ大柄な男。禍々しいオーラを発しており、明らかに只者ではないことがうかがえる。その巨体を上回る巨大な剣を背負っており、彼の巨体をより一層大きく見せている。
その隣を歩くのは真っ赤な髪を真ん中で分ける女性。小柄ではあるが頭からは二本の角が突き出ている。例のごとく耳が尖っており、それに負けず劣らず目じりも吊り上がる。鋭い牙も口から飛び出し、辺りに血の匂いを漂わせている。
三人から一歩下がって続くのは黒い頭巾で顔を隠す男性。目元だけは覗かせているが、そこにある目は白く濁っており、まるで作り物のようだ。全身も同様の布で覆われており、四人の中では一番影が薄い。
「新手か」
そう言って戦闘態勢に入るアイン。
こんなところで立ち止まってられるかと剣を握りしめる。しかしリヴは彼を必死の形相で止める。
「駄目です!彼らは魔王軍四天王、私たちの適う相手ではありません!」
冷や汗をかきながら片手でアインの裾を掴み、もう片方の手で城の庭に鎮座する天使の石像を指さすリヴ。
「あの石像の下に秘密の隠し通路があります。あそこまでたどり着けなければ私たちは終わりです!」
「ちっ」
リヴに素直に従うのは癪だったが、彼女の表情があの四人が只者ではないことを物語っている。ここでつかまれば待っているのはあの地獄の日々だ。
幸い四人はまだこちらに気が付いていない。
アインは一気に石像まで駆け抜けようと足を踏み出すが、先を行くリヴの服の裾を踏んでしまう。
「きゃっ」
僅かに叫び声をあげ、倒れるリヴ。
しまったと思った時にはもう遅かった。
「あれ、姫様と……誰だ?」
最初に気が付いたのは黒頭巾の男だった。
状況がまだ呑み込めていないのか攻撃してくる様子はないが、甲冑の男は違った。リヴの事など目もくれず、アインに向かって突っ込んでくる。先頭にいる細身の男はまっすぐにリヴを睨みつけ、赤髪の女性は興味なさそうに髪をいじっている。
丸太のように巨大な剣を振り下ろす甲冑の男。風圧だけで飛ばされそうだ。アインの握る剣がまるで小枝に見えるほど圧倒的だ。
その剣がアインに到達するよりも一瞬早く、リヴの手が石像に触れる。すると像からまばゆい光が放たれ、二人は光と共に石像に吸い込まれていく。
「待てぇ!」
甲冑の男が石像に剣を振り下ろすも、石像は傷跡一つつかない。
「やめておけ。その石像には魔王様の術がかけられている。お前ごときでは打ち砕けん」
細身の男が苦い顔をしながら告げる。
それでもあきらめきれない甲冑の男は言葉を無視して剣を振り続ける。
「はあ、見苦しい。わらわは先に行くぞ」
「あ、待ってくださいよ!」
赤髪の女と頭巾の男は二人を残して城の中に入っていく。
(それにしてもあの男、どこかで見たような)
頭巾の男は、リヴと共に去っていったアインの姿が脳裏にこびりついて離れなかった。
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