第3話 生存のために、消された村
まだ焦げ臭さの残る村の中心に、兵士たちが作業を終えて集まってきた。
隊長格の男を中心に、自然と車座になる。
隊長格の男の周りに、4人の兵士がシャベルを地面に突き立て、持ち寄った食糧などを下ろしていると、
「いやぁ〜、疲れたっすね」
軽い口調で、若い兵士が走ってきた。
若い兵士が合流したところで、隊長格の男が全員を見渡しながら問いかける。
「……片付けは終わったのか?」
その低い声に、
「ああ、完了だ」
「こっちも済んでる」
それぞれの兵士が端的な回答を返す中、若い兵士の口から小さな声で愚痴がこぼれる。
「えー、何もここまでしなくてもさぁ」
独り言のように呟いた言葉だったが、運悪く皆の耳にも届いてしまう。
隊長格の男は顔を歪め、それを察した別の兵士が若い男を苛立ち混じりに叱責した。
「チッ……殿部隊がここに来たら、汚染食を摂ったのがバレるだろうが。それともこの場で、お前だけ追放してやろうか?」
と迫ると、若い兵士が慌てて空気の読めない返事を返す。
「おいおい、そんな怒るなってぇ。ちょっと愚痴っただけじゃんよ」
若い兵士の態度に、横から隊長格の男が吐き捨てる。
「さっきも、教会のシスターまで犯しやがって。次に何かしたら本気で殺すぞ?
お前のせいでこっちまで危うくなる」
隊長格の男の言葉に場の空気が凍りつく。
「冗談じゃねえぞ……」
様子を見ていた兵士が、低く呟いた。
「えっ……?」
皆の態度に、若い兵士の顔が引きつる。
この世界は地磁気反転の影響で、惑星の磁場が弱まり、太陽風や放射線の強い汚染にさらされている。
そのため都市国家内では、バイオスーツが支給され、バイオプラントなどを用いた安全な食糧が支給されているが、都市を離れた村で安全な食事の確保は困難だ。
つまり村民は生物濃縮リスクの高い食事をしており、都市内の人間よりも遥かに多く被曝している状態なのだ。
したがって都市国家では村民の事を”汚染民”と称して都市への被曝者の立ち入りを厳密に管理している。
それは兵士であっても、汚染されれば都市を追放されると言う事になる。
都市に生きる者ならば、誰にとっても常識であり、汚染物に手を出すと言う事は、自分も汚染民になる事を覚悟しての事となる。
だから――
だからこそ今回の食糧調達では、汚染食糧に手を出した事を隠蔽する為、村の人間を全員、
消したのだ。
明らかに事の重大さの理解に欠ける若い兵士に、隊長格の男が若い兵士の目を見据え、低い声で問いかける。
「……教会も、片付けたんだろうな?」
「わ、わかってるって、ちゃんとやったさ。ちゃんと」
流石に脅しが効いたのか、若い兵士もふざけた態度は改めて、目を泳がせながらも返事を返した。
「……ならいいが」
隊長格の男は視線を外しながら、声に出さずに言葉を続けた。
(ーー嘘だったら、本気で殺す)
空気を変えるように、隊長格の男が兵士たちに呼びかける。
「おい、集まれ。食糧と弾をまとめるぞ」
兵士たちが所属する国家にとって、彼らは等しく消耗品だ。
弾丸、ドローン、食糧全てが個人携帯分だけで、輜重部隊が同行する事はない。
怪我をしたら切り捨てられ、食糧が尽きたら飢えるしかなく、汚染されれば追放される。
今回の遠征では敵軍に翻弄され、まともな戦闘に入る迄に、散り散りに敗走するしか無く、食糧が尽きかけたところでなんとかこの村にたどり着く事ができた。
都市まで急いでも徒歩では三日は必要だ。
最後の一日を食べずに過ごしたとしても、今日と明日の二日分くらいの食糧は必要だ。理不尽な都合で村人を襲った彼らにも、生存するために残された道は多くはなかった。
「弾は……残り三発か」
隊長格の男はマグポーチからリボルバーの弾倉を取り出すと、バイオブリッド(生体弾)の寿命を確認する。
弾倉にある小さなスイッチを押すと、弾丸部分の側面にある、細いインジケータのメモリが六つ目まで発光した。
「稼働限界まで残り60時間だが、誰か持ちたい奴はいるか?」
兵士たちは互いに様子を伺うと、一様に首を横に振る。
誰も、残り三発の重責を背負う気にはならないらしい。
「分かった、俺が預かる。都市までおよそ三日の距離だ。都市の制圧圏だから敵兵は来ないだろうが、村人の残りが居ないとも限らない。都市に着くまでは油断しないよう、各自、気を引き締めてくれ」
「了解」
残りの兵士の声が揃ったところで、食糧の分配に入る。
パンに魚と芋の干物、葉野菜と塩にワインなどがある。
兵士たちはそれぞれに自分の食事を選び始める。隊長格の男は芋の干物と葉野菜だけをパンに挟んで、塩だけかけてさっさと食べ始めた。
「うひょ〜、ワインもあるじゃんよ」
若い兵士が、嬉しそうに声を上げる。
(……バカが。魚もワインも、生物濃縮の塊だろうが。野菜類は土壌洗浄はしてあるだろうから、リスクは最小限。塩も岩塩由来だから問題は無い。俺は都市の衛生検査で弾かれたくは無いからな)
隊長格の男は心の中で、そう吐き捨てた。
別の兵士が食事を摂りながら、誰にともなく「夜番はどうする?」と尋ねる。
隊長格の男はゆっくり皆を見回し、
「来ても殿部隊だけだろうし、証拠も埋めたから、小屋で休んで大丈夫だろう」
とだけ応えると、自分たちに都合の良い言葉に、異論を唱えるものはいなかった。
やがて夕闇が村の周囲を暗く染め始めた頃、カラスの群れが森の端から羽ばたいた。
突然の騒音に、兵士たちも顔を上げるが、それがカラスの群れだと見て取ると、何事もなかったように食事を再開した。
ただ、隊長格の男だけは焚き火の明かりから目を逸らし、森の暗さに目が慣れるまで、じっと注意を逸らさない。
目が慣れて、森の中をしっかり見極める。
(何も……異常は無いはずなのだが)
確かに異常は見当たらないが、何故か首元にねっとりと何かが絡みつくような感覚が消えてはくれなかった。
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