第9話 地球の進化は人類に合わせない
そのイベントは、
人類のためのものではなかった。
少女が見ていたのは、
文明でも、国家でも、社会でもない。
――地球そのもの。
彼女にとって地球は、
「人類が住んでいる星」ではなく、
一つのシステムだった。
生態系。
循環。
エネルギー効率。
回復力。
自己修復の余地。
それらを総合して、
彼女は一つの問いを立てる。
「この星、
次のフェーズに進める?」
次の段階。
それは進化でも、発展でもない。
“負荷をかけた状態で、なお持続できるか”
という試験。
イベントの本質は、こうだ。
• 人類は地球の一部として扱われる
• 人類だけを守る補正は入らない
• かといって、排除もしない
• 地球全体が「最適化候補」として再配置される
もし、人類の活動が
地球の循環を阻害するなら――
人類側が変わる。
もし、人類が
地球の変化に適応できるなら――
次の段階へ進める。
「地球を守れるか」じゃない。
「人類が主役か」でもない。
地球というシステムに、
人類が“含まれ続けられるか”
それを測るイベント。
だから彼女は言った。
《人類の都合は考慮しません》
それは敵意じゃない。
ただの仕様説明。
少女は、屋上で空を見ながら呟く。
「星として、
これ以上無理ならさ」
声は軽い。
「次の段階、行かなくていいし」
進化は義務じゃない。
成長は強制じゃない。
「でも、
行けそうなら――」
その先は言わなかった。
行けた場合、
地球は別のステージに進む。
環境は安定し、
循環は洗練され、
“今の常識”は通用しなくなる。
行けなかった場合?
それもまた、自然。
ただ、
今の延長線は否定される。
人類はようやく理解する。
このイベントは、
自分たちが評価されているのではない。
自分たちを含んだ「星」が、
続けられるかどうかを、
見られているだけだ。
少女は、少しだけ楽しそうに笑う。
「さて」
「この星、
どこまで行けるかな?」
——————
世界は、何も変わっていないように見えた。
空は青く、
海は揺れ、
街はいつも通り騒がしい。
だが、同時刻。
地球全体に、見えない更新が入っていた。
それは告知もなく、警告もない。
神が行ったのは、ただ一つ。
――制限解除。
人類にではない。
地球に対してだ。
これまで、地球は「人類が住む前提」で抑えられていた。
気候の振れ幅。
地殻活動。
生態系の競争圧。
すべてが、
“文明が壊れない範囲”で丸められていた。
その補正が、静かに外された。
最初に異変に気づいたのは、観測者たちだった。
気象衛星の数値が、合わない。
予測モデルが、機能しない。
異常値ではないのに、前提が通用しない。
「……なんだこれ」
研究者たちは首を傾げる。
だが誰も、まだ危機とは認識しない。
なぜなら――
地球は壊れていないからだ。
むしろ、整っていく。
海流は最短距離を取り、
大気は無駄な停滞を捨て、
極端だった地域差が、緩やかに再編されていく。
地球としては、理想的。
だが、その「最適化」は、
人類の生活圏を一切考慮していなかった。
沿岸都市では、潮位が数十センチ変わる。
農業地帯では、降水の周期がずれる。
物流は、微妙な誤差の積み重ねで遅れ始める。
致命的ではない。
だが、確実に効く。
世界は、じわじわと不便になる。
政府は会議を開き、
専門家は原因を探し、
メディアは「気候変動の新段階」と名付ける。
誰も、気づいていない。
これは災害ではない。
罰でもない。
テストだ。
その頃、
神である少女は、宇宙から地球を見下ろしていた。
修正も、介入もない。
ただ観測。
「ふーん」
独り言のように呟く。
「文明、弱いなあ」
感想は冷たいが、興味はある。
地球の数値は、明らかに良くなっている。
エネルギー効率。
回復速度。
長期安定性。
星としては、合格ラインに近づいていた。
問題は――
人類が、それに追いつけるか。
少女は、人類を嫌ってはいない。
だが、特別扱いもしない。
「ここからだよね」
人類が、
地球に合わせて変わるのか。
それとも、
地球に逆らって摩耗するのか。
選択肢は提示されない。
説明もない。
あるのは、環境だけ。
屋上に戻った少女は、
スマホを弄りながら呟く。
「まだ“イベント”だって、気づいてないか」
口元が、少しだけ緩む。
「じゃあ次は――
もう少し、分かりやすくしよっか」
空の向こうで、
プレートが、海流が、生態系が、
さらに一段階、最適化を始める。
人類はまだ、
自分たちが試されていることを知らない。
次の更新予定
2026年1月12日 20:00
全知全能の力を手に入れたので面白おかしく生きていきます イナ @Inazuma771224
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