第8話 調整というなの気まぐれと最悪の告知
世界が、限界に近づいていた。
行動しない者は不利。
適当な者も不利。
考えすぎる者も不利。
「じゃあ、どうすればいいんだ?」
その問いに、
誰も答えられない。
政府は、ついに“直接”動いた。
命令でも、要求でもない。
ただのお願い。
――対話の要請。
場所は指定されなかった。
警備も、条件もない。
指定されたのは、放課後の屋上だった。
「……本当に、ここでいいんですか」
スーツ姿の大人たちと、
制服の女子高生。
世界で一番、釣り合わない光景。
少女はフェンスにもたれて、空を見上げる。
「で?
止めてほしい?」
政府の代表は、首を横に振った。
「いいえ。
“理解したい”だけです」
沈黙。
風の音だけが通り抜ける。
「今の世界は……
正解が分からないまま、
選び続けることを強いられています」
少女は、ちらっと彼を見る。
「でも、それって前からじゃない?」
核心だった。
「私がやってるの、
“分かりやすくした”だけだよ」
行動しない。
考えない。
他人に委ねる。
それらが、
そのまま結果に出る世界にしただけ。
「面白くない?」
無邪気な笑顔。
政府側は、言葉を選びながら続ける。
「……ただ、振り子が大きすぎる」
「社会が壊れかけています」
少女は、少しだけ考える素振りを見せた。
本当に、少しだけ。
「じゃあさ」
彼女は指を一本立てる。
「調整期間、入れよっか」
世界が、息を呑む。
「“失敗しても戻れる時間”を作る」
「即断でも、慎重でも、
どっちも致命傷にならない」
救済。
だが、完全ではない。
「でも」
彼女は笑う。
「考えない人は、相変わらず後回しね」
政府は、深く頭を下げた。
それが、
人類側ができる最大限だった。
その夜。
世界に、初めて“正式な告知”が出る。
――《調整フェーズ開始》
――《評価は緩和されます》
――《ただし、思考放棄は対象外》
人々は、ようやく一息ついた。
少女はベッドに寝転がり、満足そうに呟く。
「やっぱさ、
ちょっと揺らした方が、
世界って面白いよね」
神は、気まぐれ。
だが完全な無責任ではない。
面白おかしく生きる。
その結果、世界が振り回される。
それでも彼女は、
今日も楽しそうだった。
—————
世界は、落ち着き始めていた。
調整フェーズ。
評価の緩和。
人々は学び、慣れ、適応しつつある。
それは社会としては、
とても健全な状態だった。
――ただ一人を除いて。
「……つまんない」
ベッドに寝転がり、天井を見つめながら、
少女は率直にそう思った。
混乱は減った。
政府は振り回されなくなった。
人々の顔から、必死さが消えていく。
「みんな、“正解っぽい動き”するようになったよね」
悪いことではない。
むしろ、理想的だ。
でも――
面白くない。
その頃、政府は次の段階を模索していた。
「彼女が退屈している」
「このまま放置すると、
もっと大きな“遊び”を始めかねない」
そこで出てきた案。
――逆提案。
「こちらから、
“面白そうな世界”を見せるのはどうだ?」
管理ではない。
制御でもない。
娯楽提供。
前代未聞の外交方針。
「人類主導イベント?」
神は案を、即却下する。
「まだ早いな。
今やったら、
無難なの出してくるだけだし」
彼女は起き上がり、
何もない空間に指を伸ばす。
地図。
大陸。
海流。
地殻。
大気。
――地球。
「せっかくだしさ」
軽い口調。
だが、内容は最悪だった。
「地球そのもの、
イベント会場にしよっか」
その瞬間、
世界中の観測機器が一斉に異常値を示す。
プレートが、わずかにずれる。
海流が、意図的に変向する。
空の色が、地域ごとに違い始める。
破壊ではない。
災害でもない。
“配置換え”。
政府は即座に察知した。
「これは……
自然現象じゃない」
「イベントだ……!」
世界の空に、
久しぶりに彼女の“雑な告知”が浮かぶ。
――《地球規模イベント、開始》
――《ルール:地球は最適化されます》
――《人類の都合は考慮しません》
最悪の一文だった。
都市の気候が変わる。
豊かな土地が、そうでなくなる。
逆に、これまで不毛だった場所が息を吹き返す。
国家単位で、
前提が崩れる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
「経済が!物流が!」
少女は屋上から、
その騒ぎを眺めていた。
「だってさ」
悪びれない。
「今までの地球、
人類基準すぎたでしょ」
全知全能。
だから見えてしまう。
環境負荷。
偏り。
無理やり維持された均衡。
「リセットじゃないよ」
「並べ替え」
誰かが得をし、
誰かが困る。
平等でも、公平でもない。
でも――
地球としては、自然な形。
政府は、完全に振り回される側へ逆戻りした。
「交渉は!?」
「止められないのか!?」
少女は、肩をすくめる。
「無理無理」
「今回は“星”が主役だし」
人類は、再び理解する。
彼女は人類の神ではない。
地球の神でもない。
ただ、
全知全能の力を持った、
面白さ優先の女子高生だ。
そして世界は、
史上最大のイベントの中に、
否応なく放り込まれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます